モデルTの要約:人間の精神における情報代謝の生理学的モデル
ソシオニクスの伝統的なモデルA(Aushra Augustinavichiute)をより進歩させた、8機能ではなくユングの4機能のみを使用する精神心理学的モデルであるモデルTを紹介します。
目次[非表示]
はじめに
モデルTはソシオニクスの色(※ソシオニクスのシンボル表記で利用されている外向性=黒 / 内向性=白という色のこと)を使用せず、興奮と抑制の閾値を意味するパラメーターを使用します。主導機能(第1機能)と動員機能(第4機能)は、興奮チャネルと抑制チャネルの閾値が異なり、バランスがとれていません。創造機能(第2機能)と接触機能(第3機能)は興奮チャネルと抑制チャネルの閾値が同じでバランスが取れています。このモデルによって、心理学、精神生理学、そして既存のソシオニクスのいくつかの問題に対する解決策を提示することができます。そしてソシオニクスの枠組みを使って、タイプ間の関係、情報代謝タイプ(TIM)の機能間の相互作用、Reinin特性について十分に説明することができます。
このモデルはソシオニクスのモデルAをさらに発展させたものです。モデルTはReinin特性を説明するだけにとどまらず、様々な分野(SD法による心理学分野の研究や、精神およびさらに広範囲の生理学)にも応用可能です。モデルAでは推測することが困難だったものや未知のパターンを予測することが可能です。さらにこのモデルはパブロフ学派による研究の過程で生じた未解決の問題を解決することもできます。
(※SD法とは:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jje/45/5/45_5_263/_pdf 外部サイト )
モデルTの完全版では、各機能ごとの閾値に加えて興奮 / 抑制に関する神経系全体の強弱を示す閾値が指定されています。この閾値のうち、興奮の閾値によって4つの機能のうちどの機能が主導機能になるか決定され、抑制の閾値によって情報代謝タイプのアクセント(※サブタイプレベルでの機能の働き方の違い)が決定されます。
モデルTは外向型(экстраверт)と外向性(экстратим)を区別し、これらが相関性のない特性であるということを明らかにしました。外向型という特性は個人が持つ全体の(あるいは個々の機能の)興奮チャネルの閾値の高さと相関しており、外向性は抑制チャネルの閾値の低さと相関しています。
最初の二つの機能(主導機能と創造機能)の興奮チャネルがもつ上限と閾値の高さは、個人が受け入れることのできる興奮の刺激の上限と一致します。それに続く2つの機能(接触機能と動員機能)は、主導機能と創造機能が持つ興奮チャネルがもつ上限と閾値の高さが異なっています。
外向性 / 内向性は、一般的によく使用されているソシオニクスの色と一致します(●や■などの黒色の機能=外向性。外向性では、抑制の閾値が低くなります)。
モデルAのILEは Ne - Ti - Se - Fi で 外向 - 内向 - 外向 - 内向と交互になっている。
モデルTのILEは VIN VLV NSN NEV で 抑制チャネルの閾値がN - V - N - V
すなわち外向 - 内向 - 外向 - 内向になっているのでこのあたりは一致している
モデル「T」が作成された理由
モデルTは、2006/09/18, 20, 22にキーウで開催されたXXII International Conference on SocionicsのV.L.Talanovのレポート(「戦術家-戦略家」「譲歩-頑固」「無謀-慎重」というタイトルで発表されましたが、内容はこのタイトルから想像される以上の内容が含まれています)、および2006/10のジャーナルSocionics, Mentology and Personality Psychologyで初めて公開されたものです。この際に筆者らは新しく提案されたソシオニクスのモデルの詳細なプレゼンテーション、分析、および実験的正当性を同時に発表しております。
2000年に筆者はソシオニクスに精通し、それに魅了されました。ソシオニクスは人々の心理的タイプの分類を最も適切に行っており、またその理論を最も深く説明している心理学的な類型であると思ったからです。筆者はこれまでにAushra Augustinavichiuteの提唱したソシオニクスのタイプ間関係の理論を活用して、様々な心理的タイプの人々の間で生じる関係についての説明を行ってきました。ソシオニクスに感じた魅力は今も色あせることはありませんが、Aushra Augustinavichiuteによって提唱され、心理学の一分野としてのソシオニクスの基礎を築き上げたモデルAにも欠点があるということも理解できました。この欠点とは次のようなものです。
(※モデルAの欠点①)
モデルAはAushraの科学的検証に基づいて導入されたタイプ間関係の研究に対応していません。これにはソシオニクスおよびその他の実践的な心理学の研究者による長期にわたる様々な研究結果も含まれます。もしモデルAを使ってこのような研究結果を説明しようとするなら、モデルAの理論をかなり拡大解釈したり無理矢理こじつけたりしなければなりません。
(※モデルAの欠点②)
こうしたモデルAの説明力の欠如はReinin特性に対しても同様です。Reinin特性とは、AushraとReininによって発見された15種類の心理学的な特性のことです(彼らはユングが発見した4つの心理学的特性に加えて新たに11の特性を発見しました)。モデルAではこのReinin特性を説明することができません。しかしながら新たに発見された11の特性が存在することは実験的に完全に確認されており、疑う余地がありません。
(※モデルAの欠点③)
モデルAでは(※機能の活性状態などについての)量的な説明ができず(※機能がオンになるかオフになるかなどといった)質的な説明しかできません。したがってモデルAを使っても様々な人々の行動を実際に観察して得られる多様な結果を説明・解釈することはほとんど不可能です。
またモデルAは3人組以上のタイプ間相互作用を説明する能力に欠けています。様々な情報代謝タイプから構成される小規模なグループ内における個人の情報代謝の働きや影響を予測するためには適さないモデルです。
同様に個人ではなく集団そのものを一つの単位として見て研究するような方面にも適性はありません。この問題も量的な説明ができないという点に起因しています。
(※モデルAの欠点④)
モデルAは、脳の神経生理学および精神生理学の長年の研究と一致せず、多くの研究に基づいて発見された神経系のタイプ、気質のタイプの生理学的解釈とも全く一致しません(I.P. Pavlova 、B.M.Teplova、V.D.Nebylytsyn、P.V.Simonov、V.M.Rusalov、G.Aizenkoなど)。
(※モデルAの欠点⑤)
モデルAはこれまで多かれ少なかれタイプ間の関係の経験的観察に対する満足のいく理論的回答を示せるものとしてAushra Augustinavichiuteによって作成されました。この点でモデルAはユングとアメリカにいるユング信者の作品(※MBTIのこと)と比較して大きな進歩を遂げました。モデルAでは量的な説明はできませんが、それでも機能に異なる「色」を割り当てるという形をとることによって(※外向的か内向的かという)1つのパラメーターを定性的に考慮しました。
この点は後で詳しく説明しますが、(※外向的か内向的かという特性には)2つの要素が含まれています(※①タイプが外向型か内向型か ②機能が外向性か内向性か)。
モデルAはこの2つの要素(※タイプの外向/内向と機能の外向/内向)を厳密に区別していませんが、二番目のリング(※第5~第8機能のこと)をモデルに追加することで(※タイプの外向 / 内向と機能の外向 / 内向を区別していないせいで正確な情報代謝の流れを把握できないという)問題に対処しました。
この対処のおかげでモデルAはタイプ間関係を部分的に予測できるようになりましたが、こういった非常に作為的な対処を行った結果、個人の持つ機能をバラバラに捉えるのではなく総合的に捉えた場合どうなるのかという点を予測することができないモデルになってしまいました。
実践の場ではこうした問題のことはあまり気にされない傾向があります。しかしながら多くの理論家、特にソシオニクス関連分野の専門家の目には、モデルAがあまりにも作為的で現実から乖離したモデルであると映っています。そして多くの科学分野から得られた研究結果は、この批判が正当なものであると示しています。
こういった理由(※欠点①~⑤)から、筆者はモデルAの抱える問題点がなくソシオニクスの経験則を踏まえた理論的説明を見つけ出そうとしました。
モデルTはこういった試みの中で生まれたモデルとしてはかなりシンプルで直観的にわかりやすいバージョンです。とりわけモデルTはモデルAよりも明確であり、かつ明らかに高い予測能力を持っています(※機能間の相互作用やタイプ間関係に対する予測能力)。ほとんどの社会的パターンは追加の仮説や「誇張」的な解釈をする必要なく、論理的で非常に明確に、ほとんど「指だけで」説明することができます。もし今後モデルTと矛盾するような客観的事実が見つからないのであれば(筆者たちはそのようなものを見つけていませんが)、モデルTはソシオニクスの実用化を大幅に促進し、しかもソシオニクスを自然科学分野の理論として検証できるようになります。モデルTは、これまで知られていなかったか、あるいは経験的には知られていたものの理論的には説明できていなかった多くの規則性と事実を説明することができる点にも着目してください。
例えばモデルAがリング内の機能の働きの順序を「独創性」として定義した場合、モデルTは生理学的法則の観点から、この順序に対していったい何が作用してそうなっているのか説明することができます。モデルTを使えば、ソシオニクスが長年二重の意味を混同して使用してきた「外向」という概念について理解することができるようになるという点も重要です。こうした意味で、この新しいモデルはソシオニクスの研究者や心理学者だけではなく精神生理学者にとっても有用です。精神生理学や高次神経活動に関する生理学で提起されていたものの、20世紀には解決できなかったいくつかの問題について、モデルTが解決することができるでしょう。例えば心理物理学的な閾値と外向性の相関性が正になる場合と負になる場合があるということがモデルTから予想できます。この点についてはすでに検証段階に入っています。
では「モデルT」とは一体どのようなものでしょうか。まず最初にモデルTの基本的な構造について説明していきたいと思います。モデルTではこれから説明するような単純な構造だけで、経験的に知られている事実や法則について上手く説明することができると同時に、新しい結論を引き出すことができると言うことがわかるでしょう。
モデルTの構造
V.D. Nebylytsynは(※ソシオニクスの分析にあたって)閾値という概念を取り入れました。下限閾値、信号検出限界閾値(※=上限閾値)があり、上限閾値を超えると応答の確率と応答の強度の両方が低下します。この二つの閾値の間には最適な応答ゾーンがあります。「弱い信号」を検知できるアナライザーは、この最適応答ゾーンが低強度の領域にあり、「強い信号」を敏感に検知できるアナライザーは、これが高強度の領域にあります。各アナライザーの興奮信号の入力チャネルには、特定の信号の強度に調整されたフィルターがあります。同じことが抑制信号の入力チャネルにも当てはまります。興奮信号の入力チャネルと抑制信号の入力チャネルの帯域は異なっているため、互いに干渉しあうことなく独立して機能することができます。
アナライザーという概念をユングの心理機能(論理、倫理、直観、感知)の概念に置き換えると、4つの機能それぞれが2つのフィルターの組み合わせ、すなわち興奮チャネルと抑制チャネルを持っていて、それによって各精神機能の働きが特徴づけられているという様子を思い浮かべることができます。「部分的」またはロシア語で「偏向」フィルターは、機能ごとに固有の帯域幅を持っていること、すなわち他の3つの精神機能とは異なるフィルター特性(高帯域幅の信号を検知するか、低帯域幅の信号を検知するかという特性)を持っていることを示しています。
各心理機能の発信信号の範囲は、その興奮入力フィルターの設定に対応しています。つまり機能は最初に入力チャネルで検知したのとほぼ同程度の強度の信号で応答すると想定されています。この応答は刺激に対するフィードバックとして働きます。従ってある心理機能Aが返す信号(フィードバック)を受けとる場合、抑制チャネルは心理機能Aの入力フィルターの設定と同じ設定(高帯域幅の信号を検知するか、低帯域幅の信号を検知するかの設定)を持っている必要があります。
興奮入力フィルターと抑制入力フィルターの通過帯域が同じである場合、機能は可塑性と柔軟性があり、十分に調整され、制御可能であると想定されます(これは神経系の「平衡」の概念に対応します)。この場合、関数自体の発信信号は、それに対して興奮性と抑制性の両方である可能性があります。つまり機能は自己調整を実行できます。興奮と抑制の閾値フィルターの高さが一致しない場合、最悪の場合、機能は不活性で硬直し、柔軟性がなく不従順になり、時にはその機能に執着することさえあります。なぜこのような仕組みになっているのでしょうか。抑制入力フィルターの閾値が他の機能の興奮入力フィルターの閾値(※つまり他の機能が出す信号の高低)と一致しない場合、この信号は抑制入力フィルターを通過できないため、機能の効果的な抑制を引き起こすことはできません。
まず最初のケースとして、興奮入力フィルターと抑制入力フィルターの閾値が等しい場合、すなわち興奮と抑制のバランスがとれた機能について説明します。次に、二番目のケースとして興奮入力フィルターと抑制入力フィルターの閾値が一致せず、興奮と抑制がアンバランスな機能についての説明します。
閾値の高さの概念は、いくつかの任意のフィルターの帯域幅に置き換えることができます。そして一般的に言えば、これらのフィルターは精神物理学的特性(※神経系の強弱のこと。神経系の強弱が具体的にどういうものなのかは「Как модель «Т» позволяет по-новому взглянуть на давние проблемы дифференциальной психофизиологии」の章で説明がある)に関連付けられている必要はありません。高強度と低強度のわずかに重なり合う信号帯域を有する2つの閾値フィルターの代わりに、他のアナライザーとして働きうる要素、例えば右半球と左半球、新旧の皮質、脳のエルゴトロピック(※様々な状況に適応するために活発に活動してエネルギーを消費すること)またはトロフォトロピック(※脳の機能を効果的に作動させるためにエネルギーを蓄積すること)調節システムの活動に合わせて調整されたフィルターを検討することができます。しかし、これらはすべて今現在のモデルTをさらに最適化すれば実現可能であると見込まれるものであり、今のところモデルTのフィルターは、高強度または低強度の信号のみを選択的に通過する閾値のシステムであるという単純な解釈だけを想定しています。
ここで、ILEタイプ(式1)の簡略化されたモデル「T」を描画してみましょう。
VIN VLV NSN NEV
Iは直観、Lは論理、Sは感覚、Eは倫理を意味します。機能の左上と右下に記載されているVとNは、各機能が持つフィルターの設定を意味しています。左上が興奮チャネル、右下が抑制チャネルです。「V」は高帯域の信号を検知し、「N」は低帯域の信号の検知を行います。(※ILE = VIN VLV NSN NEV)
機能の順序は、Aushra AugustinavichiuteモデルAの最初のリング(※第1機能~第4機能)に対応します。機能の位置ごとの名前は、モデルAで使用されているものをそのまま利用しており、1番目は主導機能、2番目は創造機能、3番目は接触機能、4番目は動員機能といいます。ではモデルAの二番目のリングである第5~第8機能はどうなるでしょうか。モデルTではこれらは必要ありません。モデルAの第5~第8機能が担っていた情報代謝の内容は、モデルTでは第1~第4の閾値によって説明されます。したがって二番目のリング(※第5~第8機能)は不要です。ユングの理論において、機能は4種類あり、全個人がその4つの機能を持っているとされています。モデルTではユングのこうした理論を踏襲しております。しかしながらモデルTではこの4つの機能が持つ興奮フィルターと抑制フィルターの閾値の組み合わせによって、それぞれ4種類の状態(※V/V、V/N、N/V、N/Nの4種類)を表現することができます。特定の情報代謝タイプ、すなわち特定の個人は、この4種類の状態のうち1種類の状態をとるものとしています。
モデルAで想定していたような、機能が2つの状態をとるという考えは不十分です(モデルAは外向 / 内向という観点で機能のシンボルを黒色と白色に塗り分けることで、1つの機能が2つの状態をとりうるということを表現していましたが、この2種類だけでは不十分です)。機能は2種類(黒色か白色か)ではなく4種類(※V/V、V/N、N/V、N/N)の状態をとる可能性があります。よってモデルTには、モデルAで使われていた機能シンボルを黒色と白色で塗分けるという表現方法は取り入れませんでした。その代わり感知できる強度が二種類(高強度信号を感知できるVと低強度信号のNの二種類)ある二つのフィルター(興奮フィルターと抑制フィルター)の状態を表す記号を導入することによって各機能の状態を表しています。
モデルAにおける黒色は抑制フィルター「N」に対応し、白色は抑制フィルター「V」に対応しています。モデルAにおける黒色(※■や●など)は、モデルTでは抑制フィルターの閾値が低い状態を意味しています。抑制フィルターの閾値の設定が低い場合、低強度の信号で効果的に機能が抑制されます。以降このような機能(各機能の右側に記述されている抑制フィルターがNとなっている機能)を外向機能と呼びます。
またモデルAで白色(※□や〇など)として表現される機能は、モデルTでは主に高強度信号によって選択的に「ノックダウン」され、機能が阻害されることによって制御されています(各機能の右側に記述されている抑制フィルターがVとなっている機能)。
モデルAの外向/内向は、モデルTでは抑制フィルターのN/Vと対応している。
モデルAの黒(外向機能):モデルTの抑制フィルターがN(外向機能)
低強度信号を抑制フィルターを受け取り、抑制が働くことで抑制される機能。
モデルAの白(内向機能):モデルTの抑制フィルターがV(内向機能)
高強度信号を抑制フィルターを受け取り、抑制が働くことで抑制される機能。
しかし興奮フィルター側の閾値は、モデルAの機能の色とはまったく関係がありません。モデルTには以下のルールがあります。第1機能、第2機能の興奮フィルターの閾値は必ず同じであり、情報代謝タイプが外向型(ILEやSLEなど、XXEとなる8種類のタイプ)は「V」となります。これは、情報代謝タイプが外向型の場合、高強度信号によって主導機能と創造機能が興奮することを意味しています。一方、情報代謝タイプが内向型の場合、第1機能、第2機能の興奮フィルターの閾値は「N」であり、低強度信号によって主導機能と創造機能が興奮します。
興奮チャネルが高強度(V)に調整されている機能を外向機能と呼び、低強度(N)に調整されている機能を内向機能と呼びます。
ここまでで説明した内容からわかるように、外向型と外向性あるいは内向型と内向性はそれぞれ異なった概念です。1つ目は興奮チャネルの閾値に関連付けられ、2つ目は抑制チャネルの閾値に関連付けられます。
モデルAで黒色と白色の塗りわけによって表現されていた機能ごとの外向 / 内向は抑制チャネルにのみ関連していることが明らかになりました。しかし情報代謝の最初の処理に関わる主導機能と創造機能のもつ興奮チャネルの信号感知強度(フィルター)は同じ高さであることがわかりました。これらは情報代謝タイプが外向型か内向型かという点によってフィルターを透過できる信号強度の高低が決定されます。
次に、各機能が持つ興奮チャネルフィルターと抑制チャネルフィルターを透過できる信号の強度の高さについて見てみましょう。第1機能と第4機能では、興奮フィルターと抑制フィルターの閾値の高さは常に異なっています。一方、第2機能と第3機能では興奮フィルターと抑制フィルター間で閾値の高さが一致しておりバランスが取れています。
第1機能と第2機能の興奮フィルターの閾値は、情報代謝タイプが外向型の場合(ILEなど)はどちらも高強度(V)となり、内向型(ILIなど)はどちらも低強度(N)となります。それに続く二つの機能(第3機能と第4機能)の興奮フィルターの閾値は、必ず第1機能および第2機能の閾値とは逆になります(よって情報代謝タイプが外向型の場合、第3機能と第4機能の閾値は低強度Nとなり、内向型の場合は高強度Vとなります)。
一方、抑制フィルターの閾値は第1機能と第3機能、第2機能と第4機能が等しく、第1・第3機能と第2・第4機能は異なっています。そのため機能の番号が進むごとに高強度Vと低強度N(または低強度Nと高強度V)が交互に現れます。
例としてLIIをモデルT形式で記載するとどうなるかを見てみましょう。LIIの機能は「論理(L)」「直観(I)」「倫理(E)」「感覚(S)」の順になります。LIIは内向型であるため第1機能の興奮フィルター(第1機能の左側に記載される記号)はN(低強度)となります。第1機能の興奮フィルターと抑制フィルターの閾値の高さは必ず異なるというルールがあるため、LIIの第1機能の抑制フィルターはV(高強度)となります。そして抑制フィルターは高低高低(VNVN)あるいは低高低高(NVNV)と交互に出現する必要があります。このようなルールに基づくと、モデルTではLIIは次のように表現されます。
NLV NIN VEV VSN
モデルを構築するために2つのルールを策定しました。
このようなモデルTのルールはただの憶測や神の啓示の産物ではなく、実際にこのような法則が存在することを示す客観的な証拠があります。これは構成主義者と情緒主義者、戦略家と戦術家、無謀と慎重という社会的特徴に関する実験データから直接的かつ論理的に説明することができます。これに関する説明は省略しますが(詳細は別資料を参照)、研究の結果だけを言えば下記のような事実が明らかになりました。以下の結果をまとめると、モデルTのルールが導き出されます。(※読みにくいので箇条書きにした)
【構成主義者】:
論理機能のバランスがとれている(論理機能の興奮フィルターと抑制フィルターの閾値が一致している)
倫理機能がアンバランス(倫理機能の興奮フィルターと抑制フィルターの閾値が一致していない)
【倫理主義者】はこの逆になる
【戦術家】:
感覚機能のバランスがとれている(感覚機能の興奮フィルターと抑制フィルターの閾値が一致している)
直観機能がアンバランス(直観機能の興奮フィルターと抑制フィルターの閾値が一致していない)
【戦略家】はこの逆になる
【無謀】:
感覚機能「低信号検知の専門家」(感覚機能の興奮フィルターの閾値が低強度)
直観機能「高信号検知の専門家」(直観機能の興奮フィルターの閾値が高強度)
【慎重】はこの逆になる
【譲歩】:
論理機能「高信号検知の専門家」(論理機能の興奮フィルターの閾値が高強度)
倫理機能「低信号検知の専門家」(倫理機能の興奮フィルターの閾値が低強度)
【頑固】はこの逆になる
TIM(情報代謝タイプ)に対して設定された興奮フィルターと抑制フィルターの閾値の概念は、どのような役に立つのでしょうか。これから以下のような点とフィルターの閾値の関係性について説明していきたいと思います。
TIM(情報代謝タイプ)内の機能の相互作用
式(1)と式(2)の両方で、興奮チャネルの第1機能と第2機能が相互に刺激し合うことが等しく明確にわかります(※式(1)(2)は、これまでに出てきていたILEとLIEのモデルT表記のこと)。つまり第1機能と第2機能の興奮チャネルの設定は同じであり、それぞれの機能によって生成される信号は、これら2つの機能が持つ興奮チャネルのフィルターの閾値とほぼ同じ強度を有しています。したがって主導機能(第1機能)と創造機能(第2機能)は、興奮チャネルに沿って接続されており、興奮チャネルの働きによって共鳴的に機能を発揮します。第1機能と第2機能の抑制チャネルは設定が異なります。第1機能は、第1機能が発信する信号によって第2機能を抑制することができますが、その逆はできません。
例:【ILE】 VIN VLV NSN NEV
第1機能から生成される信号の強度
=第1機能の興奮フィルターの閾値
=第2機能の興奮フィルターの閾値
=第2機能の抑制フィルターの閾値
そのため第1機能は第2機能の興奮も抑制も制御できる。
第2機能から生成される信号の強度
=第2機能の興奮フィルターの閾値
=第2機能の抑制フィルターの閾値
=第1機能の興奮フィルターの閾値
「≠ 第1機能の抑制フィルターの閾値
であるため、第2機能は第1機能の興奮側だけにしか影響できない。
勘違いしやすそうなポイント:
・機能から発信される信号に興奮 / 抑制の種類はない。
・抑制的に働く信号は「抑制チャネルの閾値と同じ」ではなく「興奮チャネルの閾値と同じ」なので注意
このことから以下の二点のことがわかります。一つ目は、主導機能のほうが創造機能よりも長時間機能することになること、そして二つ目は、主導機能が創造機能の制御を行っていること、つまり創造機能は主導機能に従属する機能であり、主導機能によって容易に制御できる機能であるということです。
この関係は第3機能(接触機能)と第4機能(動員機能)のペアでも類似しています。
動員機能は興奮フィルターと抑制フィルターの閾値が不均衡であり接触機能を制御することができますが、接触機能が動員機能を制御することはできません。一方、接触機能と動員機能はどちらも発信信号で主導機能を阻害することができます(※第3機能と第4機能の興奮フィルターの閾値=第1機能の抑制フィルターの閾値となるため)。
したがって、接触機能と動員機能のペアが「話し始める」と、主導機能はしばらく沈黙します。しかし、創造機能は阻害されることはなく、その仕事を続けることができます。
同様に、主導機能と創造機能のペアが働いている間は、動員機能の働きが止まります (※第1機能および第2機能の興奮フィルターの閾値と第4機能の抑制フィルターの閾値は一致しているので、ちょうど「接触機能と動員機能のペアが話し始めると主導機能が沈黙する」ことと同じことがおこり、今度は動員機能が沈黙することになる。ただし第3機能の抑制フィルターの閾値だけは一致していないので、接触機能は働き続ける)。
第1/ 第2機能ペアと第3/ 第4機能ペアはどちらのほうが働きが強いのでしょうか。
強いのは共通入力フィルターの設定と一致する第1 / 第2ペア、すなわち主導機能と創造機能のペアです(共通入力フィルターとその強弱については【完全なモデルT、または神経系の一般的な特性に関する追加の仕様がもたらすもの】の章で説明します)。
情報代謝タイプが外向型の人(例えばILE)の場合、二番目のペア(第3/ 第4ペア つまり 接触機能 / 動員機能ペア)の入力フィルターの設定はN(低信号帯域幅)となりますが、これは共通入力フィルターの設定「V」(高信号帯域幅)と一致しません。そのため第1/ 第2機能ペアと比較して第3/ 第4ペアが外部信号に応答してオンになる頻度は低くなり、稼動時間は第1/ 第2機能ペアよりも第3/ 第4ペアの方が低くなります。
各機能ペア内での力関係はどのようになっているでしょうか。
第1/ 第2機能ペアでは、主導機能(第1機能)の閾値(興奮チャネルと抑制チャネルの閾値)の方がはるかにアンバランスです。例えばILEの場合は、主導機能である直観機能はアンバランスです。このようなアンバランスさは、(※ILEの第1機能の)抑制チャネルが働くためには低強度の信号を必要とするため、それ自身(第1機能自体)が発する信号(主に高強度の信号)では効果的に第1機能を抑制することができないという事実から見てとれます。したがって主導機能には、スムーズにその機能をオフにして別の機能をオンにすることができないという問題があります。その結果、主導機能は「悩み続けたり」「不必要に固執したり」「理不尽に初めからやり直そうとしたり」「気まぐれで非常に厳しい方法で創造機能を管理しようとしたり」してしまい、非効率に行ったり来たりするような動きをしてしまいます。創造機能はなぜこれほどまでに主導機能に隷従してしまうのでしょうか。それは、創造機能の興奮チャネルと抑制チャネルが同じ閾値を持っているためです。
ILEの場合、創造機能は興奮チャネル・抑制チャネルともに高強度(V)にチューニングされています。そのため創造機能は「自分自身の中で」十分に、かつ容易に制御されています。ILEの創造機能は、自身自身の信号によって自分のペースを落としたり、方向性を変えたり機能を発揮する対象を切り替えたりすることができます。また創造機能の興奮チャネルと抑制チャネルの閾値は、主導機能の興奮チャネルの閾値および主導機能が発する信号の強度と一致しているため、ILEの創造機能は主導機能から出力される高強度の信号を容易に受けとります。主導機能は興奮チャネルと抑制チャネルの閾値が一致していないため自己を制御することができませんが、創造機能に対しては興奮・抑制(そして創造機能の方向性やその修正)を問わず自由に制御することができます。
一方、創造機能は主導機能の興奮チャネルに対してしか作用できません(※創造機能の興奮チャネルと閾値が一致しているのは主導機能の興奮チャネル側だけで、抑制チャネルは閾値が異なるため創造機能の信号を受けとることができない)。
こういった理由から主導機能は常に創造機能に対して支配的な役割を維持しています。
【 LII:NLV NIN VEV VSN 】
引用元だとILEになってるが、後続の話と比較しやすいようにするために、ここではLIIの場合を書いた。
・主導機能NLVが発する信号はN (注意:発信される信号は興奮チャネルの閾値と同じ)
① 創造機能NINの興奮チャネル(N)を通過して興奮させることができる
② 創造機能NINの抑制チャネル(N)を通過して抑制させることができる
↓
主導機能は創造機能を自由に興奮・抑制させることができる
・創造機能NINが発する信号はN
① 主導機能NLVの興奮チャネル(N)を通過して興奮させることができる
② 主導機能NLVの抑制チャネル(V)を通過できない
↓
創造機能は主導機能を興奮させることはできるが、抑制させることはできない
第4機能(動員機能) / 第3機能(接触機能)のペアの関係は、第1機能 / 第2機能のペアの関係と同じような関係となっています。第4 / 第3機能ペアでは、興奮チャネルと抑制チャネルが不均衡な第4機能(動員機能)が「トーンを設定する」役割を果たします。ただし、第4 / 第3機能ペアの動作は、興奮という点で共通入力フィルターの閾値(※これは主導機能の興奮チャネルの閾値と強度がほぼ同じ)とは一致していないため、外部刺激に反応して第4 / 第3機能ペアが働く頻度は、第1/ 第2機能ペアが働く頻度よりはるかに低くなります。
上の文の要約
【 LII:NLV NIN VEV VSN 】
・接触機能VEVが発する信号はV (注意:発信される信号は興奮チャネルの閾値と同じ)
① 動員機能VSNの興奮チャネル(V)を通過して興奮させることができる
② 動員機能VSNの抑制チャネル(N)を通過できない
↓
接触機能は動員機能を興奮させることはできるが、抑制させることはできない
・動員機能VSNが発する信号はV
① 接触機能VEVの興奮チャネル(V)を通過して興奮させることができる
② 接触機能VEVの抑制チャネル(V)を通過して抑制させることができる
↓
動員機能は接触機能を自由に興奮・抑制させることができる
また、同じ性質を持つ機能間の競合的な相互作用の可能性についても考えてみましょう(直観 / 感覚ペア、または論理 / 倫理ペア)。
創造機能である直観が働いている状況下で、LII(※ NLV NIN VEV VSN)が突然(例えば外部の信号に反応して)第4機能の活動を「活性化」させたとします。この場合、創造機能の発する抑制信号(創造機能の抑制チャネルと同じ強度「N」の信号)は、動員機能(第4機能)の抑制チャネルのフィルターを自由に通過できるため(※LIIの第4機能はVSN ⇒ 抑制チャネルが「N」)創造機能と動員機能では創造機能のほうが勝ちます。 動員機能から発せられる信号(※機能が発信する信号の高さは、その機能の興奮チャネルの閾値と同じ高さになるので、この信号の高さはVとなる)は創造機能の抑制チャネルのフィルター(N)を通過できないため、もし動員機能が興奮信号を発したとしても創造機能によって動員機能の働きはすぐに抑制されることになります。
上の文の要約
【 LII:NLV NIN VEV VSN 】
(前提条件) 創造機能NINがずっと動いている状態
(1) 突発的に動員機能VSNが動き出す
(2) 動員機能VSNから信号(V)が発信される (注意:発信される信号は興奮チャネルの閾値と同じ)
(3) 信号Vは、創造機能NINの抑制チャネル(N)と一致しないので無視される
(4) 動き続けている創造機能NINから信号(N)が発信される
(5) 信号Nは、動員機能VSNの抑制チャネル(N)と一致するため通過する
(6) 動員機能VSNが抑制される
↓
創造機能と動員機能では、創造機能のほうに制御権がある…【A】
この創造機能と動員機能のような関係は、主導機能と接触機能の間には当てはまりません。接触機能から発せられる信号(LIIの場合、接触機能はVEVなので信号の高さは「V」)は、主導機能の抑制チャネルのフィルター(NLVなのでV)を自由に通過できるため、接触機能は一時的に主導機能の働きを遅くしたり、停止させたりすることができます。
上の文の要約
【 LII:NLV NIN VEV VSN 】
(前提条件) 主導機能NLV がずっと動いている状態
(1) 突発的に接触機能VEVが動き出す
(2) 接触機能VEVから信号(V)が発信される (注意:発信される信号は興奮チャネルの閾値と同じ)
(3) 信号Vは、主導機能NLVの抑制チャネル(V)と一致するため、通過する
(4) 主導機能が抑制される
↓
主導機能と接触機能では、接触機能のほうに制御権がある…【B】
よって一般的なルールは次のようになります。論理 / 倫理ペア、または直観 / 感覚ペア間での制御権争いは、興奮 / 抑制チャネルの閾値のバランスが取れた機能、すなわち創造機能・接触機能にある側の機能のほうが勝ちます。これは非常に重要な仕組みといえるでしょう。この仕組みのおかげで、活性状態を主導機能 / 創造機能ペアからまず接触機能に切り替え、その後それを介して動員機能に切り替えることができるためです。
上の文の要約
【 LII:NLV NIN VEV VSN 】
(1) 主導機能NLVと創造機能NINが動いていて、接触機能VEVと動員機能VSNが停止している状態
(2) 突発的に接触機能VEVが動き出す
(3) 接触機能VEV から信号Vが発信される
(4) 以下のことがおこる
・主導機能NLVの抑制フィルターが信号Vを受信して抑制される
・動員機能VSNの興奮フィルターが信号Vを受信して興奮する
↓
主導機能は停止し、接触機能と動員機能が動き出す。
(ただし創造機能には抑制がかかっていないため、低レベルの活動状態が維持される場合がある))…【C】
したがって、LIIの場合、普段は論理と直観のペアが支配的であり、直観は論理によって定式化された問題の解決策を提供します。しかし倫理的な考察やイベントが発生すれば、まず倫理的な動機付けが発生し、次に感覚的な抵抗感と反応に意識を奪われるという状態に遷移する可能性があります(倫理 / 感覚ペアの活性化状態)。
ただし接触機能と動員機能の作業は長期間継続することはできません。その理由は以下の通りです。(※読みやすいように箇条書きにした)
・ 接触機能と動員機能の「仕事」がすぐに枯渇してしまうため
・創造機能が突発的に動き出した場合、下記のことが発生するため
(LII:NLV NIN VEV VSNを例にすると)
(1) 創造機能NINが信号Nを発信
(2) 動員機能の抑制チャネルNが信号Nを受信し、動員機能が抑制される
(3) 主導機能の興奮チャネルNが信号Nを受信し、主導機能が興奮される
(4) 動員機能は停止し、主導機能と創造機能が動き出す
(ただし接触機能には抑制がかかっていないため、低レベルの活動状態が維持される場合がある))…【D】
したがってモデルTでは4つの機能を主に2つのペアに分けることができます。
主導機能と創造機能のペアが機能している場合、動員機能は停止します。接触機能は動くことができますが、ほとんどの場合は外部の情報を認識するだけにとどまります。(※上記【A】参照)
動員機能と接触機能のペアが機能している場合、主導機能は停止しますが、創造機能は外部信号を受信する機能を保持し続けます(※外部信号の信号強度=主導機能の興奮チャネルの閾値=創造機能の興奮チャネルの閾値であるため)。その結果、例えばLIIの場合、創造機能の直観が働いて他人の想像力の産物を知覚することができます。(※上記【C】参照)
接触機能は、主導機能を抑制して動員機能を興奮させるよう切り替えるための要となる機能です(※上記【B】参照)。 この切り替えは長時間は継続されずに、創造機能を通じて再び主導機能が興奮する状態に戻り、その結果再び主導機能 / 創造機能のペアが支配的な状態に戻ります(※上記【D】参照)。
このようなモデルTのレビューに、精神機能の相互作用についての新しい情報は含まれているのでしょうか。上記で導き出された結論の中には、ソシオニクスではすでに十分に検証された経験的事実として知られているものもあれば、間違いなく新しく発見された情報もあります。また、いくつかは予想外だった結果もあり、経験によるさらなる検証が必要だと思われるものもあります。これまで説明してきた機能間相互作用は全て生理学的モデルTから予測されるものです。よって今後こうした予測は科学的に検証される必要があります。
モデルTで説明されているような各種のルールは、実証的な性質しか持たないモデルAからは推測できないものです。しかしながら今現在広く受け入れられている「モデルAの主導機能と創造機能のペア」は、(※何らかの客観的事実によって科学的に)証明されたものではありません。また、モデルAで主導機能と創造機能のペアを水平に並べ、それに続けて第3~第8機能までを配置した図を描き、そこでの水平あるいは垂直になる機能の並びに特別な意味を与えている根拠についてほとんど説明されていないことを考えれば、モデルAから推測できないというだけで「モデルTがもっともらしくない」とは言えない、ということがわかると思います。
貴族主義 - 民主主義
上記の考察から導き出される重要な結論は、各人はそれぞれの機能を別々に持っているのではなく、密接に結合した機能のペアを持っており、それぞれのペアは対極にある社会的グループの1つに対応しているということです。例えば、ILEとLIIは研究者クラブの主要な機能のペア(論理と直観)を持ち、下位のペアとしてソーシャルクラブ(感情と感覚)の機能を持っています。一方、開業医クラブ(論理と感覚)と人道主義者クラブ(倫理と直観)に属するいくつかの機能は、これらの情報代謝タイプにとって使用が困難であり、閾値の高さの人為的および一時的な(※活性状態の)再構築を目的とした大きなエネルギー消費を伴う適応ストレスを負担しなければ実現することができません。
このような機能ペアの表現から、(※モデルAでおこなっていたクアドラの分類のように)4つの機能の組み合わせ全てをひとまとめにした分類だけではなく、第1機能と第3機能、第2機能と第4機能の間に「貴族主義」と「民主主義」という分類ができることがわかります。このような分類は、機能間の「共鳴のしやすさ」に応じて下記のように分類されます。
民主主義:
① 論理 / 直観ペア
② 倫理 / 感覚ペア
貴族主義:
① 論理 / 感覚ペア
② 倫理 / 直観ペア
民主主義と貴族主義にはどのような違いがあるのでしょうか。
民主主義に属する情報代謝タイプは個人主義的で、貴族主義に属する情報代謝タイプは集団的価値観に傾倒していることが知られています。このことは筆者らの観察によって明らかになっています。この現象は4つの機能を異なる信号システム(第1信号系と第2信号系)にわけて考えることで説明できます。
感覚と倫理は第1信号系の機能であり、脳の右半球とより密接に関係しています。論理や直観は第二信号系の若い機能であり、脳の左半球とより密接に結びついています。
かなり長い間、「民主主義」の場合、左右どちらか片方の半球のみが活性状態になります(直観 / 論理ペアは左半球、感覚 / 倫理ペアは右半球)。
活性化する機能ペアが一時的に主導機能と創造機能のペアから動員機能と接触機能のペアに置き換わると、脳の活動の中心が片方の半球からもう片方の半球にジャンプすることがあります。ただし貴族主義の場合、完全にそうなるわけではなく、左右の脳半球に別れた機能を両方使用します(例えば左半球の論理機能と、右半球の感覚機能の組み合わせだったり、左半球の直観機能と右半球の倫理機能の組み合わせ)。
これは大胆な仮説ですが、民主主義に特徴的な神経の興奮パターンは貴族主義よりも広範囲である可能性があります。そして問題解決を行う際、貴族主義よりも自己完結的なものとなります。
貴族主義は神経活性化パターンが特殊であるため、1つの信号によってすべての機能が複雑かつ協奏的に機能する際、民主主義よりも制御が難しいかもしれないということが推測されます。そのため民主主義よりもヘルパーやアシスタントが必要だといえるかもしれません。
このような貴族主義 / 民主主義といった分類における両者の特徴とその根拠は、未検証の仮設にすぎないことを認めざるを得ません。しかしながらユングの理論からだけではなく「無謀 - 慎重」「頑固 - 譲歩」「構成主義者 - 倫理主義者」「戦術家 - 戦略家」「静的 - 動的」といった属性に起因する諸々の性質を踏まえると、先に説明したような特徴を持つ貴族主義 / 民主主義といった二極性の属性が存在することは非常に明白だと言えます。
モデルTに基づくReinin特性の内容の説明
table.1を参照してください。
table.1 モデルTの全情報代謝タイプを参考に作成したもの
無謀 - 慎重
table1からわかる通り、「無謀」(※беспечныеを直訳すると「無謀」または「不注意」になる)な極性を持つ情報代謝タイプ(プラスと記載されているタイプ)は、下記のような1つの共通の特性を持っていることがわかります。(※読みやすいように箇条書きにした)
「無謀」なタイプ(プラスと記載されているタイプ):
感覚機能の興奮チャネルの閾値 ⇒ 低
直観機能の興奮チャネルの閾値 ⇒ 高
「慎重」なタイプ(マイナスと記載されているタイプ):
感覚機能の興奮チャネルの閾値 ⇒ 高
直観機能の興奮チャネルの閾値 ⇒ 低
こういった特徴によって、どのようなことが起こるのでしょうか。
「慎重」なタイプの直観機能は弱い信号で活性化されます。したがって「慎重」な情報代謝タイプの直観機能は少しの不安を感じただけで簡単に活性化してしまい、すぐに「よくない未来」を想像してしまいます。一方「無謀」な人々の直観機能の閾値は高いため、想像力が働き始めるためには激しく刺激的な信号が必要になります。そのため「無謀」な人々は直観機能を活性化させられるような刺激的な冒険やエキサイティングでハイリスクな状況を好みます。
一方、感覚機能では逆の状態になっています。
(※以下、無謀・不注意 / 慎重という言葉から受ける印象とは解離があるものの、その点はあとで説明がある)
「無謀」な情報代謝タイプの感覚機能は弱い信号で活性化され、「慎重」なタイプの感覚機能は強い信号で活性化されます。したがって「無謀」なタイプは、観察力があり、不快な痛みを伴う感覚への感度が高く、ささいな肉体由来の信号も感知してしまいます(何十枚も重ねた布団の下にあった一粒のエンドウ豆にすら不快感を感じた、童話「エンドウ豆の上に寝たお姫さま」のように)。そして音や匂い、その他の細々とした感覚の変化に対する高い感度が必要になるが、同時に感覚的な刺激が少ない環境で働けるような職業を好む傾向があります。
「慎重」な情報代謝タイプは逆にささいな感覚的刺激を感受したり、細かな感覚制御を要する作業が苦手です(そのため字が汚いです)。このようなタイプの人々は痛みに対する抵抗力が高く、感覚的に単調な仕事や情報環境への耐性が弱い傾向にあります。そして明るい色や突発的な感覚刺激を好むという特徴があります。
このような二極的な特徴の存在は、実験の結果からも確認されています。
(※感覚機能の説明を読むと「無謀」という表現に違和感を覚えるかもしれないが)「無謀 - 慎重」という名前の正当性も(※こうした実験から)明らかになっています。「無謀」な情報代謝タイプが無謀で不注意なのは直観的な領域、すなわちまだ事態が発生していない領域に対してのみ無謀です。感覚的な領域ではむしろ「無謀」タイプの人々は繊細で潔癖であり、気難しさのほうが目立ちます。
譲歩 - 頑固
「無謀 - 慎重」と直観・感覚の関係と同じことが「譲歩 - 頑固」についてもいえます。これらは論理・倫理と関係があります。
「譲歩」な極性を持つのは倫理機能の興奮チャネルの閾値が低い情報代謝タイプです。「譲歩」的な人々は倫理的な信号が高強度、すなわち密接な心理的・物理的コミュニケーションを許容しないということを示しています。彼らは群衆を嫌い、読んでいる本を他人に除き見られることに嫌悪感を抱き、会話中に写真撮影されるのが耐えられないというような人々です。倫理機能とは逆に、論理機能の興奮チャネルの閾値は高いため、細々とした論理的整合性を追求したり詳細を掘り下げるよりも、大企業でワークフローを確立するような作業を好みます。
一方「頑固」な極性を持つのは論理機能の興奮チャネルの閾値が低い情報代謝タイプです。彼らは弱い信号的な論理を持っており、細部の正確な論理的つながりに焦点をあてる傾向があります。「譲歩」タイプとはちょうど反対で、「頑固」なタイプは大きな枠組みにおける論理的課題の検討といった作業は好まないという傾向があります。「頑固」なタイプは強い倫理的・感情的刺激を好みます。同僚との大笑いを心から愛しており、感情的な刺激が強ければ強いほど気力がみなぎってきて興奮するような特徴を持っています(こうした特徴のため、LIIやLSIは情緒的興奮で満たされた環境下では非常に饒舌になります)。
構成主義者 - 情緒主義者
「構成主義者」の倫理機能は興奮チャネルと抑制チャネルの閾値がアンバランスな一方、論理機能のバランスはとれています。「情緒主義者」はちょうどこの逆になります。構成主義者が合理的でバランス感覚の優れた運動能力を持っていることは、彼らがダンサーやプロのアスリートなどといった職業に適性を持っていることからわかります。彼らは図形的に正確な文字を書きますが、これもバランス感覚のある運動能力によるものです(論理力と運動のスキルには密接な関係があります)。しかし彼らは感情的な忍耐力や柔軟な倫理的操作を必要とするような状況は不得手としています。外交官、ジャーナリスト、政治家などの職業は、情緒主義者のほうが好む傾向のある職業です。こういった倫理的な領域では、構成主義者は過敏になってイライラしたり葛藤を抱えたりしやすい傾向があります。そんな彼らも、論理的な領域では(※論理が司る物事に対して)優れたコントロール能力を示します。
「情緒主義者」はちょうどこの逆で、倫理的な領域では優れたコントロール能力を示し、論理的な領域では一貫性のなさや正確性のなさを示します。彼らは「結果は過程を正当化する」という考えのもとで、どんな手段を使ってでも目的を達成しようとします。
戦術家 - 戦略家
「戦術家」は感覚機能の興奮チャネルと抑制チャネルの閾値のバランスが取れている一方、直観機能はアンバランスです。
「戦略家」は「戦術家」の逆で、直観はバランスがとれていて十分に制御されていますが、感覚の領域(そしてそれに関連する生物学的なニーズにかかわる領域も含む)はあまり制御されていません。「戦略家」の感覚機能の不均衡さは生物学的なニーズにかかわる領域で「不摂生」として現れます。彼らは食べること、飲むこと、セックスすること、喫煙することなどで、あまり自分自身を律することができません。しかし彼らは想像力の制御に関しては非常に優れています。特に「戦略家」は必要に応じて視覚的・聴覚的あるいは嗅覚的な「精神的イメージ」を簡単に思い浮かべることができます。
「戦略家」とは対照的に、「戦術家」はファンタジーや空想・想像に関する領域のコントロールをあまり得意とはしていません。想像力によって「与えられた」イメージの具象化や実現化に難を抱えており、(※自分が思い浮かべた空想が仮に荒唐無稽な内容であっても)あまり批判的にならずに受け入れてしまったり、思い込みを事実であるかのように語る傾向があります。また、彼らは意識的な制御や管理なしに「自動的に」想像力や連想を発揮してしまうような面があります。しかし感覚の領域では(直観の領域で直面するような)「止められない」と感じるようなことは起こらず、一つの物事に執着するようなこともありません。彼らは感覚の領域では高い柔軟性を発揮します。こうした理由からAushraは彼らを戦略家ではなく「戦術家」と例えたのでしょう。
ここでは上記にあげた様々な二極性の特性と、その特性ごとに見られる特徴や傾向に関する簡単な概要のみに留めましたが、筆者らのこれまでの研究では、このような特徴や傾向を説明できるだけの生理学的証拠も明らかにしています。
静的 - 動的
生理学的観点から明らかになった、より興味深く重要な点は「静的 - 動的」という概念の存在です。
すべての「静的」では合理的な機能(※ = 判断機能:論理 / 倫理)の抑制チャネルの閾値は高く、非合理的な機能(※ = 知覚機能:直観 / 感覚)の抑制チャネルの閾値は低いことがわかりました。(※静的の例:LIIはNLV NIN VEV VSN)
これに対してすべての「動的」では合理的な機能の抑制チャネルの閾値が低く、非合理的な機能の抑制チャネルの閾値は高いことがわかりました。(※動的の例:ILIはNIV NLN VSV VEN)
これらの特徴は、どのような生理学的な要素と関係があるのでしょうか。
「動的」の知覚機能(感覚 / 直観)について考えてみましょう。「動的」は、高強度の信号を受けることによって知覚機能を停止します。では、知覚機能に対して作用する強い信号というのは具体的にどのようなものなのでしょうか。信号の実態は明るさや音量などではありません(少なくとも直観に対して「明るさ」や「音量」といった概念は意味を持ちません)。知覚機能(感覚と直観の両方)は、現実的な環境または心象的な環境で発生する変化を監視しています。そして、知覚機能に対する信号とは、この環境で発生した変化の大きさのことです。変化が突然、飛躍的に起こった場合、強い信号であると言えます。逆に変化がスムーズかつ段階的に、そして少しずつ起こった場合、弱い信号であるといえます。
したがって「動的」の知覚機能は、監視している対象の環境変化が小さな変化を繰り返しているような状況では、継続的に働き続けます。そして精神的、あるいは実際に目に見える現実の環境内で、急激な変化が起こった場合(例えば聞こえていた音の音程が急に変わったり、イメージが急激に変化した場合)、それまで継続的に働いていた知覚機能を中断し、判断機能(論理機能か倫理機能)を動かし始めるか、知覚機能が働く対象や方向性を他のものに切り替えます。したがって「動的」の知覚機能は小さく変化し続けているような環境下にあれば、ほとんど途切れることなく動き続きます。
「動的」とは逆に、「静的」の知覚機能が継続的に動き続けるためには、全く変化を起こさない静止した環境か、めまぐるしい変化が起き続けているような環境に置かれる必要があります。「静的」の場合、精神的、あるいは実際に目に見える現実の環境内で起こる非常に小さな変化を感知すると、知覚機能はすぐに抑制されます。このため「静的」は周囲で発生するスムーズで細かな変化を追跡することができません。もし無理矢理このような変化を追跡しようとしても、知覚機能の速度が低下してしまい、最終的には直観機能と感覚機能の両方が停止してしまいます。
「動的」と「静的」が見ている世界を少し誇張して例えるなら、「動的」は64フレーム、「静的」は8フレームで撮影された動画を見ているくらい世界の捉え方が違います。「動的」が眺めている64フレームの世界の場合、1つ1つのフレーム間の変化の差は非常に小さいです(※1フレーム間の差は1/64秒 = 0.016秒分の差しかないので)。一方「静的」は8フレームの世界を眺めています。1フレーム間の差)(※ 1フレーム間の差は1/8秒 = 0.125秒分)は、「動的」が捉える1フレーム間の違いよりもずっと大きなものになります(※つまり「静的」は周囲の変化を大雑把に認識している)。
「動的」の意思決定に関わる機能の領域、つまり黒の論理(※モデルAのTe相当の領域を司る論理)と黒の倫理(※モデルAのFe相当の領域を司る倫理機能)の領域では、すべてが正反対になります。大規模で強烈な信号を扱う限り、これらの機能の働きは途切れることがありません。もし「動的」の黒い論理に、細々とした論理的整合性や相関関係、ごくわずかな確率の違いに関する分析をさせると、すぐに論理プロセスの抑制と停止を引き起こすに違いありません。「動的」はこのような細々としたものではなくもっと大規模な構造やグローバルなアイデア、対照的な事実に関する情報を扱うことで、論理的なプロセスを動かし続けることができます。
このように「動的」における知覚プロセスの滑らかで連続的な流動性という概念は、感覚的・直観的な機能に関してのみ有効です。論理機能と倫理機能を連続的に、滑らかに動かそうとするなら、大きな負荷や大きな価値観の変動などの大きな変化が必要になります。同じことが肉体労働や運動の調整にも一部当てはまります。これはこうしたことに関する機能が論理機能に近い機能であるためです。もし細々と正確に体を動かし続けないといけないような作業をしようとしても「動的」はすぐに気が散ってしまって退屈し始めます。もし「動的」に迅速かつ正確にスイカやジャガイモの袋を投げるような作業を割り当てても、すぐに気が散って退屈し始めます。
投影テストでは、「動的」の方が動きを描写することが多く、「静的」は静止した物体を描写することが多いとされていますが、これは本当にそうであるのでしょうか。筆者らが実験した限りではこのような事実は確認できませんでした。実際、このような描写傾向に関する話は、先ほど説明した「動的」と「静的」の内容からは想定できないような内容です。描写傾向に関する話で出てきた「動き」という言葉と「動的」という言葉は同じ意味の言葉ではありません。「動きを描写する」という行動は、環境の小さな変化であっても、逆に大きな変化であっても関係なく引き起こされる行動です。もし描写された動きが非常に激しい場合、「動的」というよりむしろ「静的」である可能性があります。確かに完全に静止した物体を描写している場合、「静的」である可能性があります。ただ、(実際に検証してはいませんが)もし「動的」と「静的」の映画の好みを調べたとしたら、「動的」は長くてゆったりしたテンポの映画を好み、「静的」は頻繁な場面転換、激しいレース、火薬を利用した派手な演出や画面の明るさの急激な変化が多い映画を好むだろうと予想されます。こうした仮定は「動的」であるILIと「静的」であるLSIの好む映画の種類を比較した際の結果を踏まえると十分にありえる話だと言えます。ILIは「ゆったりした」の映画を好み、LSIは「激しい」映画を好むという検証結果があります。
「動的」と「静的」が見ている世界の違いはフレームレートの違いに似ているという仮説と、映画(フレームレートを変えて撮影された動画)の類似性は、仮説としてあげた比喩が比喩にとどまらず現実的な意味を持っている可能性を示唆しています。
動いている男性(または動き続けている振り子の動画)のコマ撮り動画(パラパラ漫画のようなもの)を複数作成したとします。コマ撮り動画を構成する連続した静止画間の差異の違いが小さいもの(※1秒間に何十枚もの静止画を用意した、高品質のアニメーションのように滑らかな動きをする動画)と大きいもの(※静止画1枚1枚の差異が大きいので、映像が飛び気味で滑らかさのない動きをする荒い動画)を用意し、「動的」と「静的」に見せた場合、「動的」が「動画ではなく連続した静止画である」と認識できるコマ撮り動画の限界は、「静的」が「動画ではなく連続した静止画である」だと認識できる動画よりも1枚1枚の差異が小さい動画だと予想されます。
もしこうした仮定が事実であると確認できたなら、この検証はモデルTに対する根拠のひとつとなるでしょう。
かなり意訳してるけどさらに補足すると、「静的」は「動的」と比較して小さい動きの差異を認識した場合、知覚機能が抑制されて正確な知覚を行えなくなる。このような「小さい変化を刺激として与えた場合どうなるか」という実験をした場合、「小さな変化」を認識し続けるのが得意な「動的」と比べて知覚機能の働きが鈍くなる「静的」は正確な認識が行えなくなってしまうと考えられる。その結果、荒いコマ撮り動画であっても「(静止画の連続ではなく)滑らかに動いている動画である」と錯覚してしまうと予想される。
モデルTはどのようにしてタイプ間の関係を予測し、説明するのか
すべてのタイプ間の関係は、例外なく、生理学的モデルによって非常に明確に予測され、説明されています。こうした予測の質は、生理学的モデルから導き出される予測とソシオニクスで一般的によく知られてるタイプ間関係を比較することによって判断することができます。こうした比較の結果、筆者らは既知の規則性との矛盾を発見しませんでした。こうした分析は必要なら誰でも行うことができます。
以下はタイプ間関係の最も興味深い事例のうちのいくつかに関する理論的な知見のレビューです(ILEと他タイプとの関係)。
分析では、次のルールが重要になります。個人の「内部」では異なる機能が容易に相互作用するが、外部(※つまり他人)の機能とのコミュニケーションの場合、各個人の機能は主に他の同じ名前の機能と直接相互作用します(論理 - 論理、感覚 - 感覚など)。交流対象が自分と他にもう1人しかいない場合、各機能は相手の同名の機能とやりとりします。このルールは、個人内のさまざまな機能の情報代謝において、機能は一過性の神経興奮と抑制という形でコミュニケーションの共通言語を持っているという事実に基づいています。対人コミュニケーションにおいては、そのような共通言語は存在しません。それぞれの機能には固有の記号的言語のみが存在し、「好きなものは好きなものにしか知覚されない」というルールが適用されます。
論理的な議論が知覚されるためには、論理機能に影響を与えなければなりません。表面的には静かな、そして強い感情を、非常に弱いノイズではなく強い感情として正確に知覚するためには、両者の倫理機能が共鳴する必要があります。
また他者との機能間相互作用においても、出力する側の信号の強度と、入力する側のチャネルの閾値の高さが一致しているかどうかを考慮する必要があります。
双対関係
ILE(VIN VLV NSN NEV)の双対はSEI(NSV NEN VIV VLN)です。
ILEの主導機能である直観VINは、高強度信号(V)を発信します。この信号はSEIの接触機能である直観VIVは興奮チャネル(V)と抑制チャネル(V)の両方を透過できるため、興奮チャネルを介してILEとSEIの直観が共鳴します。この結果SEIの直観はILEの直観に従属するような形で活性化します。
SEIの直観はILEの直観を興奮させるだけで、それを抑制することはできません。SEIの直観が放つ高強度信号(V)を、ILEの直観の抑制チャネル(N)は受信できないためです。ILEの直観を抑制するためには低強度信号(N)が必要になります。
同じことがILEとSEIの感覚機能に対しても言えます。SEIの主導機能であるNSVは低強度信号Nを放ちます。ILEの接触機能NSNは興奮チャネル、抑制チャネルともに閾値がNであるので、この信号を受信し、SEIの感覚機能に従属するような形でILEの接触機能が活性化されます。ILEの接触機能はSEIの主導機能を興奮させることはできますが、抑制させることはできません。
創造機能と動員機能に関してはどうなるのでしょうか。
SEIの創造機能NENは、ILEの動員機能NEVを興奮させることはできますが、抑制させることはできません。ILEの動員機能NEVは、SEIの創造機能NENに対して興奮、抑制両方の制御をすることができます。
よってSEIの創造機能の働きがILEにとってあまりにも強すぎて負担になる場合、ILEは動員機能を使ってSEIの創造機能を抑制させることができます。そして次に、SEIによって活性化されたILEの動員機能NEVは、ILE自身の接触機能NSNを活性化させるという流れが発生します。このようにしてILEの接触機能NSNは、SEIの主導機能だけではなく、ILE自身の動員機能によっても制御されます。
同様のことはILEの創造機能VLVがSEIに対して強く働きすぎた場合にも観察されます。SEIの接触機能VIVは、ILEの主導機能だけではなく、SEI自身の動員機能によっても制御されます。
双対関係の相互作用についてまとめます。
(※ILE(VIN VLV NSN NEV) ー SEI(NSV NEN VIV VLN))
・両者の主導機能がわずかに活性化する
・下記の結果、両者の接触機能が二重の刺激を受けて活性化する
① お互いの主導機能が、お互いの接触機能を活性化させる。
② 以下の流れが発生する。
② - 1 お互いの創造機能によって、お互いの動員機能がゆるやかに活性化される。
② - 2 活性化された動員機能は、本人の接触機能を活性化する。
・両者の接触機能は、相手の主導機能に対してかなり依存的になる。
・両者の創造機能は、相手の動員機能から発せられる信号に対する感度が高まる。
ただし創造機能のコントロール権はあくまで自分自身の主導機能のほうにある。
上記のような相互作用が発生した結果、下記の状態が発生する。
・両者の全機能が活性化する。
・両者の創造機能と接触機能は、お互いが柔軟に調整しあえる関係になる。
・両者の創造機能の主導権は本人自身にある。
・両者の接触機能の主導権は本人と相手に同程度に共有される。
衝突関係
ILE(VIN VLV NSN NEV)と衝突関係にあるのはESI(NEV NSN VLV VIN)です。
ILEの動員機能NEVはESIの主導機能NEVに煽られることになります。双対関係における創造機能が相手の動員機能を活性化させる場合とは違って、衝突関係にはネガティブフィードバックループ(抑制的に働くことで過剰に一部の機能が働きすぎないようにするための信号の流れ)がありません。ILEの動員機能NEVから発せられる信号の強度はNですが、この信号はESIの主導機能NEVの抑制チャネルを通過できないため、ILEはESIの主導機能の働きが負担になっている場合であってもESIの主導機能を抑制させることができません。
また、動員機能が活性化すればするほど、相手の主導機能を興奮させてしまいます(※ILEの動員機能から発せられる信号Nは、ESIの主導機能の興奮チャネルだけを通過してしまうので)。ESIが消耗することなく主導機能を動かし続けると、ILEの動員機能もそれに引きずられて活性化し続けなくてはならなくなります。そしてILEの動員機能はあっという間に疲労困憊してしまいます。
衝突関係では、お互いの創造機能は相手の接触機能と完全な相互理解があります(創造機能が持つ興奮 / 抑制チャネルの閾値が、相手の接触機能が持つ興奮 / 抑制チャネルの閾値と完全に一致しているため)。この際、お互いの創造機能は相手の接触機能に対して非常に弱い優位性を示します。
創造機能と接触機能は「社交場でのおしゃべり」のような、あまりよく知らない人同士で行われる表面的なやりとりに似た柔軟性のある相互作用を行うペアです。したがってこれらの機能の相互作用により、衝突関係にあるタイプのペアは最初お互いに「シントニー(※必要なときに必要なことが起こるという意味)」を感じ、良好な人間関係を築けると錯覚する可能性があります。しかし、もし「その場限りの関係」以上に深まると主導機能の影響によりすぐさま関係は崩壊します。もし片方の主導機能が動き始めると、もう片方の動員機能の「物理的」な枯渇を引き起こします。具体的にどのようなことが起こるのかというと、お互いの価値観の違いに由来する大きな溝に気づき、苛立ち始めます。
(※SEEとLIIは衝突関係)
SEEの息子はLIIの父親に金をせびり、LIIの父親はSEEの息子に対して静かに怒りを向けます(「今年1冊でも本を読んだのか。ゆすり、たかりは泥棒の始まりだぞ」)。一方SEEの息子は、LIIの父親が夢中で計算や書類作成に没頭していることに対して心から軽蔑している様子を隠せません(「盗むだけの金がうちのどこにあるんだよ」)。
このように、衝突関係では互いの主導機能が相手の動員機能(別名:痛みを伴う機能)を刺激しあい、動員機能の激しい消耗が引き起こされてしまいます。そして消耗した動員機能から生じた苦痛で頭がいっぱいになってしまいます。
衝突関係の創造機能と接触機能は、表面的なコミュニケーションでは(つまり主導機能がマスクされている状態では)快適な相互作用と相互理解をもたらす機能として作用します。この時、両者の創造機能と接触機能は互いに同調して働きます。
ただし個人内の機能間相互作用の観点からいうと、閾値が全く異なる二つの機能(創造機能と接触機能)を同時に動かすというのは、かなり難しくて緊張を強いられるものだと言うことも覚えておく必要があります。したがって衝突関係にあるタイプ間の創造機能と接触機能の相互作用は、外部からの恒常的刺激に支えられており、内部の情報代謝という意味では創造的な生産性のないものであると言えます。
要求関係
ILE(VIN VLV NSN NEV)⇒ EIE(VEN VIV NLN NSV)は「要求 +」の関係です。 この関係は非対称な関係であることが重要なポイントです。精神生理学的モデルから、この関係について見てみましょう。
・ILEの主導機能VINは、EIEの創造機能VLVを活性化することも抑制することもできる。
・EIEの創造機能VIVは、ILEの主導機能VINを活性化させる(ただし抑制はできない)。
・ILEの創造機能VLVは、EIEの接触機能NLNに対して作用しない(閾値が全く異なるため)。
・ILEの接触機能NSNは、EIEの動員機能NSVを活性化させる(ただし抑制はできない)。
・EIEの動員機能NSVは、ILEの接触機能NSNを活性化することも抑制することもできる。
・EIEの動員機能NSVは、ILEの主導機能VINを抑制できる(ILEの主導機能はEIEにとって負担にならない)。
・EIEの接触機能NLNは、ILEの主導機能VINを抑制できる(EIEは動員機能・接触機能の両方でILEの主導機能を抑制できる)。
この関係の非対称性は、ILEが主導機能を使用してEIEの創造機能を厳重に管理しつつ、ILEが動員機能を使用してEIEの主導機能をわずかに抑制するという点にあります。
ILEの主導機能は(※EIEの創造機能によって)ほんのわずかに活性化されますが、ILEの創造機能はEIEの接触機能とは全く相互作用しません。EIEはILEの主導機能からの刺激が強すぎる場合、動員機能を使ってILEの主導機能の働きを緩めることができます(また、そうやって緩める必要があります)。
EIEの主導機能はILEの動員機能を積極的に抑制していますが、この関係でILEが動員機能を使う必要性はほとんどないため、ILEは自分の動員機能が相手によって抑制されていることに気が付きません。
この関係ではEIE(要求 - )がILE(要求 + )に依存するような状態になります。 ただし、依存しているのはEIEの創造機能に関してのみです。(要求の関係は、監督の関係と違って)エネルギーを消耗しすぎることがないため、EIEにとって負担にはなりません。
EIEの動員機能はILEから過剰に興奮させられることがなく、また、EIEの接触機能はEIEの動員機能と同程度の活性状態にしかならないためEIEが疲労困憊するような事態は発生しません(※閾値の観点から、EIEの接触機能はEIE本人の動員機能からしか影響を受けないことがわかる)。
管理関係
ILE(VIN VLV NSN NEV)⇒ LSI(NLV NSN VEV VIN)は「管理 +」の関係です。
ILE(管理 +)とLSI(管理 - )は直観機能を介して相互作用します。
ILEは主導機能、LSIは動員機能が使用されるため、動員機能を酷使しなくてはならなくなるLSIは、ILEと比べて圧倒的に多くの苦労を強いられる関係になります。LSIは自分の持てる精神的エネルギーを一気に消費するような、短期集中的な機能の使い方を余儀なくされます。
また、ILEの創造機能である論理機能VLVは、LSIの主導機能NLVの抑制チャネルに作用することで、LSIの主導機能を抑圧してしまいます。逆にLSIの論理機能NLVは低強度信号(N)を発しますが、ILEの論理機能はVLVであり、抑制チャネルの閾値が異なっているため、LSI側がILEの創造機能の働きを止めようとしても上手くいきません。その結果、ILE側はLSIの主導機能を気に留めることなく、一方的にILE側の創造機能によってLSIの主導機能を抑制的に制御することになります。
ILE(管理 +)とLSI(管理 - )は感覚の領域では共通の閾値を有しています(ILEの接触機能とLSIの創造機能はNSN)。そのためこの領域に限り、LSIはILEに対して働きかけを行うことができますが、あくまでも対等の関係としての働きかけしかできません。
最後に倫理機能について見てみましょう。LSIの接触機能はILEの動員機能を抑制することができます。逆にILEはLSIの接触機能に対して興奮・抑制どちらの影響も与えることができません。しかしながらLSIは相手の動員機能を抑制していることに全く気が付かない可能性があります。
こうしてLSIの比較的使用頻度が低い接触機能は、ILEのさらに使用頻度が低い動員機能を抑制していますが、それを踏まえて考えてILEがLSIに与える影響とその逆ではかなり差があると言えます。
管理関係における管理 + 側の主導機能が与える圧力は、管理 - 側にとって非常に大きく不快なものであるため、「民主主義」に所属している情報代謝タイプですら管理 + 側の主導機能に対して「理解できない人々」に対する恐怖心のようなものを感じることがよくあります。LSIが感じるILEの主導機能に対する印象は、ILEが自分自身の動員機能(痛みを伴う機能)に対して感じる印象に近いかもしれません。
協力関係
ILE(VIN VLV NSN NEV)とSLE(VSN VLV NIN NEV)は協力関係です。
閾値から、互いの主導機能は接触機能によって抑制されること、互いの接触機能は相手のいずれの機能からも影響を与えられないと言うことがわかります。
互いの創造機能は閾値も含めて完全に一致しています。このため興奮、抑制両面で緩やかに互いを調整しあえます。この関係がビジネス関係と呼ばれるのは、この点に由来しているのでしょう。
互いの動員機能はどちらも一致していますが、閾値が異なるため互いの動員機能は相手の動員機能に対して何も影響を与えません。
ビジネス関係において発生している相互作用は両者にとってそれほど負担になりません。 (※動員機能には特に抑制するような圧力も無理矢理活性化させるような圧力もかからないため)間接的に、緩やかに動員機能が活性化します。そして動員機能の発する信号と閾値が一致している接触機能も緩やかに活性化します。
結果的に、ビジネス関係では補助的に働く機能である創造機能が活性化され、主導機能と創造機能の間にある活性状態の偏りが減少します。合理性はより非合理的になり、非合理性はより合理的になります。
ビジネス関係は、互いの創造機能を刺激したことがきっかけになって始まることが多いです。
共鳴関係
ILE(VIN VLV NSN NEV)とIEE(VIN VEV NSN NLV)は共鳴関係です。
この関係では、お互いの主導機能同士、接触機能同士が完全に一致します。主導機能は互いの興奮チャネルを介して信号を交換し合うことで、共鳴的な活性状態になります。これは接触機能についてもいえますが、接触機能と同じ興奮チャネルの閾値を持つ動員機能は、相手の創造機能からの抑制を受けるため働きが弱くなります。創造機能は相手からの影響を受けることはありません。
共鳴関係の全体像としては下記のようになります。
・主導機能の共鳴的増幅
・相手の接触機能に対する創造的で交響的な融合
・自分自身の動員機能への依存性減少および抑圧
共鳴関係ではお互いの一部の機能が強調されたような状態になります。
幻影関係
ILE(VIN VLV NSN NEV)とIEI(NIV NEN VSV VLN)は幻影関係です。
この関係は、お互いの主導機能は抑制しあうことになります。これは主導機能から発せられる信号(=興奮チャネルの閾値)が、相手の主導機能の抑制チャネルの閾値と一致しているために起こります。また、この信号は相手の主導機能の興奮チャネルの閾値とは一致していないため、相手の主導機能を活性化させることはできません。
また、互いに自分の創造機能と相手の動員機能の間にも相互の繋がりがあります。創造機能が相手の動員機能を活性化させ、動員機能は相手の創造機能を興奮・抑制することができます(創造機能ができるのは相手の動員機能の活性化だけで、抑制はできません)。
接触機能はどちらも同じ機能を使用していますが(ILEとIEIの場合はS)、閾値が完全に異なっているため相互作用することはほとんどありません。
幻影関係の全体像は下記のようになります。
・互いの主導機能の活性状態が急激に減少する。
・互いの動員機能の活性状態が緩やかに増加する。
・創造機能と主導機能の繋がりは弱まるが、相手の動員機能との相互的な繋がりは強化される。
・相手から刺激されて動員機能が強化されても、動員機能に負荷がかかった際に一般的に感じるような不快感は生じない(必要に応じて動員機能は相手の創造機能の働きを弱めることができるため)。
幻影関係における生産的なコミュニケーションは創造機能と動員機能、そして非常に微弱な接触機能によって行われます。また、このうち相手に影響を与えられるのは動員機能と接触機能だけになります(ただし接触機能による影響は非常に小さいです)。
同一関係
同一関係とは、ILE(VIN VLV NSN NEV)と他のILE(VIN VLV NSN NEV)の間で生じる関係です。
同一関係では下記のようなことが起こります。
・互いの主導機能を活性化する(ただし閾値の関係上、抑制はできない)。
・創造機能は互いに興奮・抑制両面で相互作用を行い、共鳴的に働く。
・接触機能についても、創造機能と同様の状態になる。
・互いの動員機能を活性化する。ただし両者ともに元々の活性レベルが低いため、主導機能ほど強くは活性化しあわない。
同一関係は、お互いの全機能に対して影響を与えることのできる良好な関係となります。この関係で中心的に働くのは創造機能と接触機能です(お互いが興奮と抑制、両方に対して影響を与えられるのため)。
準同一関係
ILE(VIN VLV NSN NEV)とLIE(VLN VIV NEN NSV)は準同一関係です。
準同一関係では以下のようなことが起こります。
・両者の創造機能が、本人の主導機能と相手の主導機能両方からの影響で活性化する。
・両者の創造機能は相手の主導機能に対して柔軟に機能する(創造機能の興奮・抑制チャネルの閾値が、相手の主導機能の出せる信号の強度と一致しているため)。
・両者の接触機能は、相手の動員機能に対して柔軟に機能する(創造機能、主導機能と同様の関係)。
準同一関係では、4つの機能全てがコミュニケーションに有効活用されます。
同一関係との違いは、中心的に働く機能の違いです。同一関係では創造機能と接触機能が中心となりますが、準同一関係では主導機能と動員機能が中心となって働きます。準同一関係では、創造機能は主導機能の、接触機能は動員機能の従属的な立場に収まっています。その結果、創造機能と接触機能は主体性のある生産的な働きをすることがなくなり、創造機能と接触機能のペアリング(※2つの機能を同時に使用し、組み合わせて協調的に動かすこと)が普段以上に難しくなります(※通常、いち個人内の機能間相互作用について見た場合、閾値の高さが完全に異なっている創造機能と接触機能が協調的に動くのは難しいが、準同一関係ではこの傾向がさらに強化される)。
準同一関係は、同一関係とはちょうど逆の状況になります。
同一関係では、創造機能と接触機能が本人の主導機能や動員機能に対してよりも、相手の同名機能と積極的に相互作用を行い、主導機能と動員機能はコミュニケーションからは一歩引いてそれぞれ独立性を持った状態で機能するという状態になっていました。また、同一関係では(※コミュニケーション相手からの支援を受けられるため)創造機能と接触機能の「ペアリング」という困難な作業が、比較的楽に行えるような状態になっていました。
ここで述べられているようなペアリングに関する内容は、筆者らが実際に観察によって確認したものです。
2人組のコミュニケーションにおける「社交場でのおしゃべり」のために必要なのは、創造機能と接触機能の相互作用です。衝突関係や同一関係でどのようなコミュニケーションが行われるのか観察したところ、表面的にはユーモラスで遊び心がある関係が簡単に形成されて維持されることが確認されました。これは創造機能と接触機能を積極的に使用している際の特徴です。逆に準同一関係ではこのような「娯楽的な気軽で浅い交流」は通用せず、ビジネスライクな関係になることがわかりました。準同一関係では相手を楽しませるという意識はすぐに失われ、ビジネスライクで真面目な交流を維持することに固執するようになります。
消滅関係
ILE(VIN VLV NSN NEV)とILI(NIV NLN VSV VEN)は消滅関係です。
消滅関係では全ての機能の順序が一致していますが同時に閾値の設定が完全に真逆になっています。ただ、閾値が全くかみ合っていないにもかかわらず消滅関係での創造機能と接触機能は刺激を与え合って中程度に相互作用することができます。これはtable.2からわかるように創造機能・接触機能の閾値の高さは主導機能や動員機能ほど高くはないため、信号の強度がそれほど極端でなくても比較的閾値を超えて通過しやすいことに由来します。
閾値の設定を見てわかる通り、消滅関係では、主導機能同士あるいは動員機能同士は互いに激しく抑制しあます。相手の同名機能の興奮チャネルを通過できず、抑制チャネルだけ通過できるような信号をお互い出し合っているためです(※ILEの主導機能NIVが出す信号の強度はV。ILIの同名機能Lの閾値はNIVであり、ILEから出された強度Vの信号は、ILIの抑制チャネルの閾値とだけ一致する。動員機能についても同様の状態になる)。
消滅関係でのコミュニケーションは創造機能と接触機能間の相互作用が中心となります。(※ただしどちらも閾値が全く一致していないので、この相互作用もそこまで強くは働かない)
こうした創造機能と接触機能のペアが使用されるコミュニケーションではクラブ的な言語(ILEとILIの場合「開業医」クラブの言語)に切り替わります。ただし閾値が一致していないため、互いに「相手は自分の話をちゃんと聞いていない」と感じてイライラすることがあります。
最終的には主導機能と動員機能が抑制されてしまうため、交流を続けていると「人生の目標が失われてしまう」ような不快な感覚が生じる可能性があります。
table.2 興奮チャネルの閾値の高さ(平均)を参考に作成したもの
母集団に対して平均化したもの。 内向型の閾値は符合を逆転させた値を集計。
数値は興奮チャネルの閾値(絶対値相当の値)。 左から順に第1機能~第4機能の閾値が書かれている。 0.00に近いほど越えやすい閾値で、0.00から離れるほど極端な信号でければ越えることができない閾値であることを示す。 高強度「V」は正の値、低強度「N」は負の値をとる (低強度はゼロに近いという意味ではなく、マイナス方向に大きな値をとるという意味になる)。
情報代謝タイプが外向型は第1、第2機能が「V」、第3、第4機能が「N」。 内向型は逆に第1、第2機能が「N」、第3、第4機能が「V」。
閾値の高さの絶対値を比較するために、内向型の閾値に対して「-1」を掛けているため、 第1、第2機能の閾値の値は正、第3、第4機能の閾値の値は負になっている。
超自我関係
ILE(VIN VLV NSN NEV)とSEE(VSN VEV NIN NLV)は超自我関係です。
この関係では、下記のような繋がりが生じます。
このように超自我関係では相手が持つ閾値がアンバランスな機能(主導機能と動員機能)を抑制する一方で、バランスが取れた機能(創造機能と接触機能)の活性状態は一切変化しません(活性化もされず、抑制もされません)。この関係では閾値がアンバランスな機能が相手によって抑制される以外、何も情報交換が行われません。
アンバランスな機能が抑制され、それ以外の機能からのフィードバックが全くないというこのような関係では、あたかもお互いの間に壁があって話を交わしても理解し合えず「相手の本質をつかむことができない」と思ってしまうような感覚に陥ります。そして最後は消滅関係が破綻する際に近い感情を抱くことになります。
消滅関係と超自我関係の違いは二点あります。
一つ目は、関係が破綻する際のもどかしさの有無です。
消滅関係の場合、同じクラブに所属する者同士であるため関係の初期では利害の一致を感じるかもしれません。その影響で関係が破綻する際には相手に対する失望感が生じる可能性があります。しかし超自我関係では利害の一致すら感じることがないため、コミュニケーションを行っても「やはり相互理解は無理だった」と再確認するだけで終わってしまいます。
二つ目は、行われる情報交換の複雑さの違いです。
消滅関係も複雑な関係ではあるのですが、超自我関係ほど複雑ではありません(消滅関係の場合、創造機能と接触機能という共通のクラブの言語で情報交換が行われます)。
準双対関係
ILE(VIN VLV NSN NEV)とSLI(NSV NLN VIV VEN)は準双対関係です。
この関係では以下のような繋がりが生じます。
準双対関係では、動員機能も同じ機能(ILEとSLIの場合は倫理機能)を使用するものの、抑制チャネルの閾値しか一致していないため、相手の動員機能を抑制することしかできません。
この関係では最終的に、相手の創造機能だけではなく接触機能もコントロールし始めることになります。主導機能は「創造機能と接触機能のペア」を自由に交流させるか、逆に黙らせるかのどちらかを強制するようなコントロールを行います。
創造機能は相手の創造機能を刺激して情報交換を行おうとしますが(※閾値が異なっているため)相互理解の難しさを感じます。
接触機能は、ある程度相手の支配下に置かれて相手の命令で動くようになります。
動員機能はコミュニケーションを行う過程で適切に抑制されているため、ほとんど存在感がありません。もし仮に動員機能が働いたとしても、相手の動員機能を抑制してしまうため、お互いに非常に意識されにくい存在になります。
実際の相互作用は、主導機能、創造機能、接触機能によって行われます。
主導機能は相手の接触機能をかなり自由に制御することができるため、相手の主導機能の働きに対して互いに従順になります。
例えば別の準双対関係のペアであるLII(※NLV NIN VEV VSN)とEIE(※VEN VIV NLN NSV)について見てみることにしましょう。
LIIはEIEの接触機能(論理機能)に対して遠慮なく尋問したり突然話を切り上げたりしますが、EIEは特に反抗心を抱くことなく服従してしまいます。逆にLIIの接触機能(倫理機能)もEIEの感情的なふるまいに対して服従しています。そしてLIIは一生懸命自分自身を「感情的に見せようと」努力します。
LIIとEIEの会話では、非合理機能(直観機能と感覚機能)に関する話題はほとんど登場しません。
(お互いに感覚機能はほとんど存在を感知できませんし)お互いに相手の創造機能である直観機能が言わんとしていることを理解しようとして耳を傾けようとはしますが、なかなか察することができず、結局すぐやめてしまいます(※閾値が異なっているため)。
よって、LIIとEIEの交流はほぼ論理機能と倫理機能だけで行われます。交流では2機能しか使用されないため、このようなコミュニケーションでは価値のある情報交換はほとんどできません(主導機能が相手の接触機能の持つ有益な側面に偶然触れ、何らかの価値のある情報を得る場合をのぞいて)。
同時にこの関係は退屈でもありません。
スペースの都合上すべてのタイプ間の関係についての説明はできませんが、残りの関係についてもモデルTに基づく推論を行えば誰でも明確で詳細な解釈を行うことができます。 ここでタイプ間関係について書いたことは全てモデルTから直接導き出されることです。経験的に判明していることを元にして書いたわけではありません。ここに書かれたタイプ間関係が実際に観察されるのであれば、それはモデルTの正しさを証明する一つの根拠となるでしょう。筆者らの見解では、モデルAはモデルTよりもタイプ間関係を推測するのがはるかに難しいモデルであり、また、曖昧な推論しかできないモデルであると言わざるを得ません。
モデルTによる長年の精神生理学上の課題の解決方法
前章ではモデルTの有効性を示しました。この章では精神心理学に対してモデルTがどのような役割を果たすことができるかについて見ていくことにしましょう。ここでは前世紀から存在し、いまだに解決していない精神心理学上の問題に対してモデルTを使えばどう説明できるのかという点について書きます。
古くからある問題の一つに、精神心理学的な特性と性格の相関性の問題があります。
1960年代にL. MartonとI Urban (1966)、そしてD.A. Gray (1968) の間で、ある問題が議論の的になりました。
D.A. Grayが内向であることを興奮的な刺激に対する弱さ、すなわち非常に敏感な神経系を持っていることと関連付けました。これはI.P. PavlovやC.G.Jungの理論と多くの実験結果に基づいた主張でした。
一方L. MartonとJ. Urbanは、内向的な人は抑制よりも興奮が優位な「刺激に強い」神経系を持ち、外向的な人は抑制が優位な「刺激に弱い」神経系を持っていると考えていました。L. MartonとJ. Urbanの立場は、G. Eiseneck (1957)の立場と一致しており、G. Eiseneckも同様に内向的な人では抑制よりも覚醒が優位であり外向的な人ではその逆であると考えていました。
I.P. Pavlovはヒステリーを興奮優位性に、神経衰弱を抑制優位性に関連づけたことが知られていますが、G. Eiseneckはこれに基づいて結論を導き出したようです。
G. Eiseneckは外向 / 内向を神経系の強弱、すなわち強い信号や弱い信号を知覚する特性とは結びつけずに、興奮と抑制の過程のプロセスの間にある推測的なバランス、すなわちアンバランスの徴候とだけ結びつけていたのだろうと思われます。このような結論は、G. Eysenck(およびL. MartonとJ. Urbanも)が行った「舌にレモン汁を垂らした際、内向的な人は外向的な人と比べて数倍の量の唾液を分泌する傾向がある」という実験結果を根拠にしています。これは、ある漠然とした「抑制というよりどちらかというと興奮の優位性がある」という結論につながりました。 確かに同様の実験から、オックスフォードの心理学者D.A. Grayは、内向的な人ほど感受性が増す、すなわち神経系が過敏であると結論付けています。
理論だけで考えるよりも、実験的に直接確認する方が簡単でもっともらしい結果が得られます。幸いなことに70年代初頭までには外向に関するテスト(アイゼンク性格検査)や、神経系の強さ、弱さを測定するための実績のある精神生理学的方法が確立されていました。このような方法を用いた試みは、高次の神経活動の生理学に従事するソビエトの生理学者の研究室でも繰り返し行われました。そしてK.M. Gurevich (1970)は、内向的な人の神経系は弱いということを発見しました。さらに彼の教え子であるV.F. Matveevは、内向的な人の神経系は強いということを発見しました(!)。P.A. ZhorovとL.B. Ermolaeva-Tomina (1971)もまた、内向と強い神経系との関連を発見しています。しかしMerlinの研究室では内向と弱い神経系の間に相関関係があることを発見しました(!!!)。このように、誰も心理学的レベルの属性(※外向 / 内向)と精神生理学レベルの属性(※神経系が強いのか弱いのか、またはそれ以外の何かがあるのか)という関係を明確に確立することができず、1970年代の終わりには、様々な結果が氾濫して非常に混沌とした状況になってしまいました。
結局、こういった試みは精神生理学の存在そのものを揺るがし、1972年に当時ソ連の精神生理学会の中心的人物であったV.D.Nebylitsynが悲劇的な死を遂げた後、SD法的なアプローチをとっていた精神心理学分野の研究は完全に消え去ってしまいました。
このようにして長らく外向 / 内向という特性と神経系の関係は謎のまま放置されていました。
モデルTでは、この問題を解決するための手がかりを提供し、また上記の研究における方法論的誤りが何であったかを説明することができます。
1)アイゼンク性格検査で測定される外向と内向は生理学的に不均一なものです。いわゆる「外向性」として、一方では興奮の閾値が高く、強い信号で満ちた環境に適応する素養があるかどうか、他方では抑制の閾値が低く、気分を消沈させるような弱い信号で満ちた環境を回避する傾向があるかどうかという点を測定しています。前半の傾向は生理的なエルゴトロピック(※様々な状況に適応するために活発に活動してエネルギーを消費すること)優位性に関係しているように見えますが、後半の傾向はそうではありません。実のところ興奮性チャネルと抑制性チャネルの対応するフィルターの閾値は互いに依存しないため、生理学的レベル、あるいは性格検査の質問紙レベルについて、この前半部分と後半部分を対立的な概念として用いるのは適当ではありません。
高い興奮閾値は、個人全体レベルで生産する信号の強度が高強度であることと、それに対応するエネルギー消費行動戦略に現れます。これは外向型(情報代謝タイプが外向型か内向型かという意味での外向型)を示しています。
この情報代謝タイプの外向型 / 内向型という概念とは全く無関係に、抑制閾値が低いという性質も外向性と呼ばれることがあります。この場合の「外向性」は、ソシオニクスで伝統的に使用されている各機能ごとの外向性、内向性という意味での外向性をさします。抑制閾値が低いというのはつまり黒色のシンボルで描かれる機能であること、すなわち外向機能であることと同じ意味です。(※機能単位の)外向性は、(※情報代謝タイプの)外向型とは違い、単に弱い信号しかない単調な環境を避けたいという願望の形で現れます。生産する信号の強度やエネルギー消費量とは無関係です。
情報代謝タイプが外向型の人は、テレビがついていようが、周りが仕事をしていようが、世界が「回っている」ことを気にしません。彼にとって重要なのはこの世界での彼自身の声が大きいことです。
一方、外向機能を使用している人は、自分の声が「大きい」かどうかは気にしません。テレビがついていて、スタッフが働いていて、世界が回っていることが必要なだけです。世界に注意を向けることは散発的にしかできませんが、もし注意を向けるときには、世界が十分に大きな声であることが必要です(※つまり単調な弱い信号しかない世界を避けようとする願望がある)。
もう一つの違いも重要です。
情報代謝タイプが外向型の人は、内向型の人とは違って強い刺激を恐れません。これは情報代謝タイプが外向型である人には一般的な特徴(激しいストレスや闘争に対処するための機構である脳下垂体の活動が活発)です(※ストレスを受けると脳下垂体が副腎皮質を刺激し、副腎皮質がコルチゾールを分泌する。コルチゾールはストレス条件下で分泌量が増えるホルモンで、代謝を活発にする働きがある。危険が迫った時、エネルギーを一気に消費して生き残るための仕組み)。
この特徴は外向機能を使用している人に普遍的な特徴ではありません。彼らが必要としているのは、中程度の刺激がある環境で十分です。
この観点を踏まえると、外向性外向型、内向性内向型、外向性内向型、内向性外向型の4つの組み合わせを考えることができます。最初の2つの組み合わせは、興奮チャネルと抑制チャネルの「共通の」閾値のバランスが取れていないのに対し、最後の2つはバランスが取れています。この平衡 - 不平衡による影響は、気質の特徴にも現れます。
外向型=個人全体レベルで生産する信号の強度が高強度
内向型=個人全体レベルで生産する信号の強度が低強度
外向性=機能の抑制閾値が低い
内向性=機能の抑制閾値が高い
外向型:内向性 ⇒ 信号が高強度:抑制閾値が高い = 平衡(自分で必要に応じて機能を抑制できる)
外向型:外向性 ⇒ 信号が高強度:抑制閾値が低い = 不平衡(自分で自分の機能を抑制するのが難しい)
残念ながら、アイゼンク性格検査は純粋な外向型 / 内向型を測定するものではなく、外向型外向性を測定するものです。アイゼンク性格検査の「外向型」には「機能の外向性」の要素がかなり含まれてしまっています(※つまり検査の妥当性がない)。
エルゴトロピック優位性の表現としての外向性-内向性は、原理的には神経系の強弱と相関する可能性がありますが、その人全体のタイプが外向型か内向型かという点とは関係ありません。
2)感覚的な領域で、興奮チャネルの高い閾値(強い信号を受信できる閾値)が高い人は「慎重」であり、逆に低閾値(弱い信号受信できる閾値)の人は「無謀」だということがわかっています。
感覚型の人は、情報代謝タイプが外向型であることと感覚機能の外向性(興奮閾値が高い)ということが一致します。直観型の人の場合は逆です(※ここで書かれている感覚型は「主導機能が感覚機能」の人で、直観型は「動員機能が直観機能」の人のこと。必ずしも「感覚型で感覚機能の興奮チャネルの閾値が高い→感覚機能が外向性、直観型で感覚機能の興奮チャネルの閾値が低い→感覚機能が内向性」とはいえない。下記参照)。
感覚優位
SLE(VSN VLV NIN NEV)
① Sの興奮チャネルがV
② Sの抑制チャネルがN→外向性
③ 主導機能の興奮チャネルがV→外向型
LSE(VLN VSV NEN NIV)
① Sの興奮チャネルがV
② Sの抑制チャネルがV→内向性
③ 主導機能の興奮チャネルがV→外向型
直観優位
LIE(VLN VIV NEN NSV)
① Sの興奮チャネルがN
② Sの抑制チャネルがV→内向性
③ 主導機能の興奮チャネルがV→外向型
LII(NLV NIN VEV VSN)
① Sの興奮チャネルがV
② Sの抑制チャネルがN→外向性
③ 主導機能の興奮チャネルがN→内向型)
ILE(VIN VLV NSN NEV)
① Sの興奮チャネルがN
② Sの抑制チャネルがN→外向性
③ 主導機能の興奮チャネルがV→外向型)
ILI(NIV NLN VSV VEN)
① Sの興奮チャネルがV
② Sの抑制チャネルがV→内向性
③ 主導機能の興奮チャネルがN→内向型
したがって物理的に測定した感覚機能の部分的な強弱(※例えば舌にレモン汁をたらす実験)と、大規模で偏りのない集団に対して(※性格検査等を実施して)心理的レベルの指標を測り、両者の相関関係を比較した場合、この相関関係は「無謀 - 慎重」属性であるということがわかりますが「外向 - 内向」属性とは全く関係ないことがわかるだろうと思われます。
16種類の情報代謝タイプをほぼ同数ずつ集めてこのような確認を行った場合、感覚領域の神経系の強弱(※感覚機能が受信できる刺激は強強度か低強度か)と、外向型 - 内向型との相関性はゼロになると予想されます。ただし、もしサンプル中の感覚型あるいは直観型の比率が偏っている場合は「相関性はゼロではない」結果になるかもしれません。
先ほども書いた通り、
感覚機能が外向性 = 抑制チャネルがN ≠ 興奮チャネルがV
であるので一言に感覚型のサンプルといっても上述の本文で予想されている結果になるためには【外向型】かつ【主導機能が感覚機能】の人を集める必要がある。直観型で上記の負の相関という結果を得るためには【外向型】かつ【動員機能が感覚機能】の人を集める必要がある
このような実験をした際に「(タイプが)外向」であることと神経系の強さとの間に明確な正の相関関係を得るためには(そのような相関関係があると仮定して)、情報代謝タイプが感覚型のみで構成されるような集団に対して実験を行う必要があります。そしてもし被験者が直観型のみで構成される場合、全く逆の結果が得られることになるだろうという予想は容易にできます。この場合「外向」と神経系の強さの間には顕著な負の相関関係が生じることになるでしょう。
したがってK.M.Gurevich、V.F.Matveev、V.S.Merlin、P.A.ZhorovとL.B.Ermolaeva-Tominaの実験で明らかにされた神経過程の強さや弱さと外向や内向との間の相関関係の兆候の混乱は、ほとんどの場合、被験者のサンプルの偏りによって説明されています。
もしサンプルとなった人々が道端で声をかけて集められた人々やお金のために実験に参加したような人々であったなら、被験者は感覚型に偏っている可能性が高く、外向性と強い神経系の間に正の相関が見られることになると思われます(※主導機能がVSNかNSVの人が多い)。
そしてもし学生を被験者にしていたのなら(学生を集めた場合、直観型の割合が多くなることが経験的に知られています)全く逆の結果(外向型と強い神経系の間に負の相関)になるのではないかと思われます(※動員機能がNSVかVSNの人が多い)。
このように前世紀に行われたこのような実験は、すべて方法論的に誤りがあるものでした。TIMの母集団分布を反映した集団では、感覚神経系の強さ(※強い刺激に反応し、弱い刺激には反応しない傾向)と外向性の相関はほぼゼロになりますが、感覚神経系の強さと「慎重さ」の相関は正であるべきで、理想的には+1になる傾向があります。(※主導機能が感覚機能である)感覚型の人だけを集めた場合、感覚神経系の強さと「外向型」の間に強い正の相関(理想的には+1)が見られると予想されます。(※動員機能が感覚機能である)直観型の人だけを集めた場合、感覚神経系の強さと「外向型」の間には負の相関(理想的には-1)が見られるでしょう。このことは外向性とその背後にあるエルゴトロピックなシステムの優位性が実際に神経系の強さを司っているなんらかの生物学的要因に由来している場合、間違いなく起こるであろうと考えられることです。
本稿ではモデルTの精神生理学的な基礎として神経系の強さの概念を想定していますが、実際にはもし今後ここに書いたようなモデルTを使って予想した内容が合致しないという結果が明らかになったとしても、そのこと自体はモデルTを否定する根拠にはならないことを念のため記しておきます。
モデルTでは機能ごとに興奮入力と抑制入力に対する仮想的なフィルターが存在していて、このフィルターを通過できるかできないかを決定する閾値があると仮定しています。しかしながらこのフィルターと閾値の実態は必ずしも神経系の強さではなく、もっとほかの何か(例えば脳の左右の活動がどの程度非対称かを示す指標や様々な伝達物質)である可能性があります。
完全なモデルT、または神経系の一般的な特性に関する追加の仕様がもたらすもの
これまで私たちはK.ユングの4つの機能の部分的な閾値(閾値フィルター)のみを反映した単純なモデルTを使って考察を行ってきました。しかし、神経系の強弱の部分的な特性(※各機能が、強い信号を受け付けるか、弱い信号を受け付けるかという意味の強弱)のほかに「共通」の特性といえるようなものが存在します。これはパブロフ学派によって研究によって確認されています。
興奮の強弱に関する神経系の共通特性は、4つのユングの機能すべてに等しく適用されます。これはいわばトップレベルの入力フィルターであり、この共通入力フィルターの閾値の設定は、特定の機能の閾値の設定とは関係ありません。重要なポイントは、上位の共通入力フィルターの特性と、下位のユングの4機能ごとのフィルターの特性はそれぞれ異なる生物学的メカニズムと関連している可能性が高いという点です。
この2層の入力フィルターが重ね合わさるどうなるのでしょうか。
1つは神経系の一般的な特性に関する上位のフィルターであり、もう1つは4つのユングの機能単位で存在していて、各機能単位が発信する信号の強弱と受信できる信号の強弱を決定しているフィルターです。
両方のフィルターが同じ強度の信号にチューニングされている場合、信号の通過は容易になります。もし反対の強度にチューニングされている場合、信号の通過は困難になります。ほとんどの場合、このことは応答強度を増減させるという意味で解釈されるべきではなく、応答の強度に大きく影響を与えることなく応答確率を増減させるという意味で解釈されるべきです。
上位の共通入力フィルターと下位の4機能ごとのフィルターの閾値が一致しない場合、信号に対する応答の確率が減少します。その結果として信号が通過できる帯域幅が減少します。この場合、上位と下位の2つのフィルターを重ね合わせて1つのフィルターとして見た際の(信号が通過可能である)帯域幅は、部分フィルターの設定から共通入力フィルターの設定側に少しだけシフトします。
このような傾向(※少しシフトする現象)は、全機能の興奮チャネルフィルターと抑制チャネルフィルター両方に当てはまる可能性があります。
完全なモデルTでは、ILEは下記のようになります。
(3) (V/V) VIN VLV NSN NEV ドン・キホーテのинтратимногоサブタイプ(抑制閾値が高信号帯域にシフトする傾向のあるサブタイプ)
(※適当な訳がわからない…内向likeな用語?
抑制閾値が上がる ⇒ 普通より主導機能がやや内向機能っぽくなるタイプ)
(4) (V/N) VIN VLV NSN NEV - ドンキホーテのэкстратимногоサブタイプ
(抑制閾値が低信号帯域にシフトする傾向のあるサブタイプ)
(※抑制閾値が下がる⇒普通より主導機能がやや外向機能っぽくなるタイプ)
(5) (V/S) VIN VLV NSN NEV - 平均的なドンキホーテ
(平均的な閾値をとるサブタイプ。
このサブタイプでは共通入力フィルターによる機能単位の入力フィルターへの影響は無視できます)
完全版のモデルTと基本的なモデルTの違いは、式の頭に書かれた記号の有無だけです。これは共通入力フィルターの閾値の設定を意味しています。括弧内の左側の設定は共通興奮入力フィルター、右側の設定は共通抑制入力フィルターの閾値を示しています。
神経系全体の特性の強弱(※神経系全体の傾向として、強い信号を受け入れて興奮するか弱い信号を受け入れて興奮するかを示す設定)は、共通興奮入力フィルターの閾値の高さと一致します。共通興奮入力フィルターが「V」の場合、神経系全体の強さは「強」、共通興奮入力フィルターが「N」の場合、神経系全体の強さは「弱」となります。これは共通抑制入力チャネルについても同様です。
その他の部分は基本的なモデルTと同様です。
神経系の特定の(部分的な)特性は、機能における閾値の設定で表されます。このような部分的な特性とは違って、共通の閾値特性は、個人のすべての機能に等しく影響を与えます。
共通の閾値の高さと一致する閾値を持つ機能別のチャネルは、その働きが促進されます。
共通の閾値と機能別の閾値の間にミスマッチがあると、応答の確率が低下するという意味で応答が複雑になります。このミスマッチの度合いが大きい場合は機能別の閾値が共通の閾値側へとシフトすることもあります。
共通の閾値のうち分子側(左側)に書かれた共通興奮入力フィルターの閾値の設定は、2つの閾値がアンバランスな機能(ILEの場合、VINとNEV)のどちらが主導機能になるかを決定します。共通興奮入力フィルターの閾値の設定と一致する興奮入力フィルターの閾値の設定を持つ機能が主導機能になります。
共通興奮入力フィルターの閾値と、機能別の興奮入力フィルターの閾値の設定が一致しない場合、反応の困難さと応答確率の低下を招きます。具体的には接触機能と動員機能がこのパターンに該当します。
実際、共通興奮入力フィルターの閾値の設定を指定することは、4つの機能の順序を指定すること、すなわち主導関数を指定することと同じ意味です(他の3つの機能の順序は自動的に決まります)。(※例えばESIの場合)共通入力チャネルの興奮閾値が「V」ではなく「N」であれば、主導機能は自動的にNEVとなり、それに続く機能も自動的に決められて最終的にはESIを示す式が書きだされることになります。モデルAの場合と同様に、括弧内の先頭の閾値を示す記号(※共通興奮入力フィルターの閾値)は省略可能です。なぜなら必ず主導機能、創造機能の興奮入力チャネルの閾値と同じ記号になるためです。
この点からもわかる通り、共通入力フィルターの閾値は基本的なモデルTに自由度を追加するようなものではありません。(※閾値が一致しない2つの機能のうちどちらが主導機能になるかという意味で2パターン、興奮チャネルの閾値がVかNかという意味で2パターン、合計で2x2=4という)4パターンの自由度がある点は基本版モデルT・完全版モデルTどちらでも同じです。
共通入力フィルターの設定の存在は、主導機能の割り当てを決定する生理学的メカニズムがどのようなものであるか明示するだけの存在です(モデルAではこのようなメカニズムは明示的に説明されていませんでした)。
共通抑制入力フィルターの閾値の設定は、完全版モデルTにおけるモデルAと比較した場合の革新的なポイントです。この設定によって同じ情報代謝タイプ内におけるアクセント(機能がどのように強調されているか)を説明することができます。ちなみにAuschraモデルではこうした「機能がどのように強調されているか」という点が考慮から抜け落ちています。
共通抑制入力フィルターの閾値の設定は、モデルに5番目の自由度を与えます。この設定の追加により2つのサブタイプができます。よって完全版モデルTでは、基本的なモデルTの16タイプをさらにサブタイプに分類した、計32パターンの説明が可能になります。
共通抑制入力フィルターによって与えられるアクセント以外は全て基本的なモデルTと同様の枠組みになります。この枠組みにおける情報代謝の流れはこれまでの章で述べた内容と同じものです。
なお本稿では式(3)および(4)の括弧で囲んだ分数の分母(共通入力阻害閾値の指標)によって生成されるアクセントについての詳細な説明は行いません。これは別紙の資料で行います。
共通抑制入力閾値の強弱で示される特性は理論上のものです。そのためそこから導き出されるアクセントもまた理論上のものでしかありませんが、これらのアクセントが存在する可能性は高いと思われると述べるだけでにとどめておくことにします。
完全版モデルTで追加されたパラメーターは16タイプの構造にもタイプ間関係にも全く影響を及ぼしません。完全版モデルTは32の情報代謝タイプを想定しているわけではなく、基本的な情報代謝タイプの数は16タイプだけで、その基本的なタイプの特性のほとんどを持っている二極的なサブタイプに分類できると想定するだけに留まります。
モデルTとモデルAの比較
ここではモデルAと比較した場合のモデルTについて説明します。
まず第一にモデルTはタイプ間関係のより明白な予測を行うことができ、これまでのソシオニクスの文献で全く言及されていなかったか、あるいはほとんど言及されていなかった関係の多くも予測できるようになります。
モデルTでは各機能の興奮・抑制入力に対する影響について、1人のコミュニケーションパートナーからだけでなく複数のコミュニケーションパートナーからのものも含めて予測することができます。このおかげで2人組だけではなく3人組以上の相互作用を予測することが非常に容易になり、こういった関係性を理論的に分析することもできるようになります。閾値という概念を導入することによって大規模な集団を一つの単位で見た場合、どのような機能がどのように作用するのか数学的に推測することができるようにもなります。
モデルAとは異なり、モデルTでは、モデルAから派生したものではなかったため妥当性を疑問視されていたReinin特性について精神生理学的に説明することができます。 これは特に「戦術家 - 戦略家」「構成主義者 - 情緒主義者」「無謀 - 慎重」「譲歩 - 頑固」などの特性に当てはまります。このおかげで心理学と精神生理学におけるソシオニクスの適用範囲が著しく拡大され、科学的、予測的役割を増すこともできました。
モデルT は心理学における因子分析の応用に新たな光を当てています。線形性格因子モデルによる因子分析では区別できない「隠れた」因子が、基本的な因子軸の非線形相互作用によって生成されて共存していることがモデルTによって明らかになりました。例えば「譲歩 - 頑固」や「構成主義 - 情緒主義」など。
モデルAは今でも4つの自由度を使ってTIMを符号化しています。その意味ではユングやMBTIと違いがありません。モデルTは、基本版では4つの自由度、完全版では5つの自由度を使用しています。これによりTIMの双極性アクセント(※機能が外向的に強調されているか、内向的に強調されているか)を予測可能です。
モデルAでは外向型と外向性、内向型と内向性の概念が区別されておらず、このせいで多くの問題が発生していました(それでもMBTIやアイゼンク性格検査と比べると遥かに区別されてはいますが)。
モデルTでは外向型と外向性を明確に分離し、それぞれについて生理学的観点からの説明を行いました。
モデルTは生理学的観点からの実験的検証の道を拓きました。
まず第一に質問票ベースの検証の質を上げます。モデルTを用いればより有効で正しい質問票を設計・開発・運用することができるようになります。ユングの理論に依存しない社会的特性を有効的に利用することができるようになり、外向型と外向性、内向型と内向性を明確に区別した検証を行えるようになります。
第二に、直接的な精神生理学的測定と実験が可能になります。
モデルAではアクセントを提供していません。モデルAはその構造に基づいてパラメータ(これは、必要に応じて質的な形式から量的なものに変換することができるものを意味しています)ではなく機能の順序的な配置に頼らざるを得ないので、アクセントを設定するべき場所を想定することができません(たとえ望まれているとしても)。
モデルTは閾値の高さを特徴づけるパラメータを使用しています。そしてこのパラメータは、機能の配置を変更することなく、また個人を不変のTIMに帰属させたままにすることなく容易にTIM内の任意のアクセント(強調)のための「バックラッシュ(揺り戻し)」を提供する定量的な形式に変換できます。
アクセントを使用することによって生まれる2番目の可能性は、機能別の入力フィルターと重ね合わさった共通入力フィルターを想定することによって、共通の神経系の特性を考慮することができるようになります。
共通抑制入力フィルターの設定(V /N)の違いから、神経系の強さ-弱さの一般的な特性の存在についての仮定を行うことができます。そしてTIMごとに2種類のサブタイプを想定することができるようになります。
モデルTは、実験的なものだけでなく理論的なものも含めて、ソシオニクスと精神生理学の両方をさらに発展させることのできる可能性を秘めています。長い間、このようなことが実現可能となるモデルは求められていました。モデルTでは第一の信号系(感覚・倫理)(※感覚・倫理が司っているものは多くの人では右脳に偏在していることが、ソシオニクス系の研究グループとは全く関係のない脳科学分野のグループが行った研究結果からも示唆されている。左右どちらにあるかは利き手と相関すると言われている)と第二の信号系(直観・論理)(※こちらは多くの人では左脳に偏在していることが多い)を分離した仮説的な機能単位の閾値として捉えることができるため「民主主義・貴族主義」「準民主主義」「右翼・左翼」「実証主義・反証主義」といった属性について理解を深めることができるかもしれません。社会主義の周期性(G.A. Shulman)を明らかにするためには、現在明らかになっていることよりも深い考察と理解が必要です。
第2・第3機能の閾値の絶対値が、第1・第4機能の閾値の絶対値よりも小さいことを考慮し(table.2)、閾値を定量的な値に置き換えることで、相互作用のモデルを洗練させることができます。それによって(※実験による行動観察を行う際の)より合理的な実験計画をたてることができるようになります。
本稿では詳細な議論は行いませんでしたが、モデルTは精神心理学で明らかになった様々なパターン(例えば神経系のシグナル伝達の強弱と、興奮 / 抑制の間にある部分的な相関)を明らかにしました。
モデルTを扱う上での注意点として、モデルTで使用されるフィルターの概念は、必ずしも入力信号が高強度か低強度かという観点に縛られた解釈をする必要はないということがあげられます。例えば閾値を「入力信号」という概念ではなく「エルゴトロピック系とトロフォトロピック系(※エネルギーを消費して状況への適応力を上げる系とエネルギーを温存する系))」や「脳の左半球と右半球のメカニズム」であると仮定して考えることができます。
モデルAを使ったソシオニクスの文献では、特殊なソシオニクス用のフォントを使用したアイコンによる社会的機能の描写が定着しています。原則としてモデルTでもそのようなフォントを使用した描写をしようと思えば可能ではありますが、もしモデルTでこのようなものを使用した場合、1つの機能につき2つの自由度、つまり2つのパラメーターによって描写しなければならなくなるため、各図を半分に分割して2色でペイントする必要があります。筆者の個人的な見解になりますが、そのような図は視認性が悪く、文字で表記する場合よりも内容がわかりにくくなってしまうと考えられます。たしかにソシオニクスに不慣れな人であっても内容を捉えやすくなるため、こうしたアイコンによって描写することの有用性は理解してはいますが、筆者自身は機能をアルファベット表記で書き、その前後に閾値フィルターの設定を示す記号を書くという記載方法のほうが便利なのではないかと考えております(印刷の容易さや、ソシオニクス専門家・非専門家両方の視点で考えた場合の視認性・可読性が高い点から)。
精神心理学モデルTはソシオニクス的モデルです。Reinin特性や、タイプ間関係、モデルAを踏まえて作成されております。モデルTはAushra Augustinavichiuteの理論を継承した理論です。C.G.Jungの理論以上にAushra Augustinavichiuteの理論に深く根ざしており、アメリカのC.G.Jung信者の理論(※MBTI)については言うまでもありません。
モデルTはC.G.Jungの4つの機能の完全性についての考え方をソシオニクスに還元すると同時に、それぞれの機能が取りうる全ての状態(モデルAでいうところのアスペクト)を表現し、詳細に説明することができます。
また同時に、このモデルは20世紀のパブロフ学派の主要人物であるI.P. Pavlov、B.M.Teplov、V.D.Nebylytsyn、およびその他多くのロシア人とウクライナ人の研究者の研究結果に基づいており、ソビエトの高次神経活動と精神生理学の研究の流れを汲むものです。
このモデルにはまだ実験的には未検証の部分があるため(それでもモデルAよりは検証されていますが)、現段階では仮説モデルであることは確かです。しかしながらモデルTの理論は心理学と生理学両方を統合したものです。異なる理論体系が交差した結果生まれた理論は、それが別々に存在していた時よりも広く一般化できる理論になることがあります。モデルTがこうした理論になれるかどうかは、今後このモデルを検証する読者や研究者にかかっています。