タイプ7とタイプ8は、時に非常に判別が難しいことがあります。ここでは、まずはエニアグラムの基本的な概念をおさらいした後で、このパターンについて詳細に説明していきます。
なお本記事はドン・リチャード・リソ、ラス・ハドソンの情報を参考にしてサイト管理人独自の観点から整理したものであり、正確な原典を知りたい方にはオススメできない記事です。ご注意下さい。他のタイプの比較:「エニアグラム 全タイプ比較」
基本的な恐れと情念
「基本的な恐れ」(Basic Fear)とは、誰もが心の奥底に持つ避けたい不安のことで、各タイプごとに異なる形で現れます。例えば、制限されたり傷つけられたりすることへの恐怖がそうです。各タイプの行動や思考の根底には、この基本的な恐れが存在しています。そして、あまり聞きなれないかもしれませんが、「情念」(Passion;直訳すると「情熱」ですが日本語の「情熱」はポジティブなニュアンスが強いので、本サイトでは「情念」と訳しています)とは、恐れから逃れようとする強い情念を指し、タイプ特有の癖として表出します。例えば、新しいことに飛びつく傾向や、状況を仕切る力強さなどがそうです。この情念は、普段の振る舞いの中で繰り返し見られるパターンです。「基本的な恐れ」と「情念」の二つが絡み合って、タイプごとの内面や行動が描き出されます。
タイプ7・タイプ8の恐れと情念
タイプ7の基本的な恐れは、制限されたり不快な状況に閉じ込められたりすることへの強い不安です。彼らは自由を失うことや、内面的な苦しみに直面することを避けようとします。そして、タイプ7の情念は新しい経験や可能性を過剰に追い求める傾向です。そのため、タイプ7は常に動き続けることで不安を遠ざけようとします。対して、タイプ8の基本的な恐れは、他者に操られたり傷つけられたりすることへの抵抗感です。自分を守り、独立性を保つことが重要で、弱さを見せることを嫌います。タイプ8の情念は、自分自身の手で状況や人を掌握することを求める傾向や自分の意志を貫く強い情念として現れます。これらの要素は、各タイプの行動や内面の核を形作りますが、情念の表れ方が他タイプの特徴と混ざると、判別が難しくなります。
判別が難しいケース:情念の表れ方が典型的でない
ケース1:基本的な恐れはタイプ7であるものの、情念の現れ方がタイプ8に似ているケース ケース1は「自分が制限されたり、閉じ込められることへの焦り」から「強引に状況を仕切り、自分の意志を押し通す行動を見せる」というケースを指しています。例えば、計画が思うように進まないと、「自分が状況を動かさないと、この閉塞感から抜け出せない」と感じて、周囲を圧倒する態度を取るかもしれません。
ケース2:基本的な恐れはタイプ8であるものの、情念の現れ方がタイプ7に似ているケース ケース2は、「他者に従うことへの強い反発」から「次々と新しい活動に飛び込み、動き続けることで自立を守ろうとする」ケースを指しています。例えば、上司の指示に苛立ち、「別の面白いことを始める」と新たな選択肢を探す行動に出る可能性があります。
ケース1:基本的な恐れはタイプ7であるものの、情念の現れ方がタイプ8に似ているケース
タイプ8との類似点
この人はタイプ7ですが、表面的には力強く自己主張し、状況を自分のペースに持っていく姿勢が目立ちます。例えば、グループで意見がまとまらないとき、「私が決める」と強引に進める態度が、タイプ8の掌握欲とそっくりです。表層心理では、「自分が動かないとダメだ」という思いが強く、威圧的な振る舞いを見せることもあります。
タイプ8との相違点
- 表層心理: 「自分が仕切ってしまえば停滞しない」と、状況を動かすことに執着します。これは、タイプ8の「掌握したい」という情念に似ていますが、目的は「制限や閉塞状態を避ける」ことであり、力そのものへのこだわりではありません。
- 深層心理: 「動けない状況に閉じ込められる」という不安が根底にあり、掌握は「自由を確保する手段」にすぎません。例えば、強引さの裏で「これがダメならさっさと別の場所にいこう(逃げてしまおう)」と考える瞬間が垣間見えます。そこにタイプ7の拡散的な逃避情念が潜んでいます。タイプ8なら、自分の弱さを晒すような逃げは考えません。
ケース2:基本的な恐れはタイプ8であるものの、情念の現れ方がタイプ7に似ているケース
タイプ7との類似点
類似点: この人はタイプ8ですが、表面的には軽快で多様な活動に飛びつき、常に新しい何かを求める姿が目立ちます。例えば、会議でルールに縛られそうになると、「もっと面白い案がある」と話題を逸らし、タイプ7の拡散的な行動と重なります。表層心理では、「動き続ければ大丈夫」と楽観的に振る舞います。
タイプ7との相違点
- 表層心理: 「自分から新しいことを始めてしまえば縛られない」と感じ、過剰な経験を求める動きがタイプ7の情熱に似ています。しかし、その裏には「弱者として他人に従わされる立場に追いやられることを防ぐ」という意図があります。
- 深層心理: 「傷つけられたり従わされたりする」という抵抗感が根底にあり、動き回るのは「自立を守る防壁」です。例えば、活動に飛び込む中でも、「誰かに弱さを見せたくない」と警戒する瞬間が垣間見えます。そこにタイプ8の防衛的な姿勢が隠れています。タイプ7なら、「制限からの解放」が主で、自分の弱さを晒すことへの本能的な警戒は薄いです。
まとめ
タイプ7と8の判別が難しい場合、表面的な振る舞いや表層心理に着目するだけでは混乱が生じます。ケース1では、掌握への情念が目立つものの、深層の「制限への焦り」がタイプ7の本質を示し、ケース2では、過剰な経験への欲求が目立つものの、「支配されることへの抵抗」がタイプ8の核を表します。判別の鍵は、深層の恐れに注目することです。日常のストレス反応や、選択の裏にある動機を観察することで、どちらの恐れが優先かを捉えられるでしょう。
判別が難しいケース:支配と制限の恐れの絡み合い
「支配されることへの焦り」が先にあり、それが「制限されることへの警戒」につながる場合や、「制限されることへの恐れ」が先にあり、「支配されることが制限の一因」と感じる場合、どちらが基本的な恐れかを判別するのはより難しいです。前者は、他者に操られる恐怖が主であり、ルールや制約はその結果として嫌われます。一方、後者は、自由を失う不安が主で、支配がその脅威の一つとみなされるパターンです。この絡み合いが、タイプ7(制限への恐れ)とタイプ8(支配への恐れ)の境界を曖昧にします。
判別のポイント:弱みと縁切りへの抵抗感
弱みを見せることへの態度
タイプ7は、自分の弱さを見せることにそれほど強い抵抗はありません。例えば、追い詰められたら「まいったな」と笑って誤魔化し、次の選択肢を探す軽さがあります。一方、タイプ8は、自分の弱さを見せることに強い苛立ちを感じます。例えば、「弱いと思われたくない」と、たとえ不利でも正面から立ち向かう姿勢が目立ちます。弱みを隠すために、無理に強がることもあります。
逃げることへの姿勢
タイプ7は、逃げることを自然に受け入れます。状況が厳しくなれば、「ここにいる必要はない」とさっと別の道を選ぶことへの抵抗感は薄いです。一方、タイプ8は逃げることに強い抵抗を示します。例えば、「逃げるのは負けだ」と感じ、撤退するにしても、あくまでも自分の意志で「戦略的撤退をした」という形にこだわります。さらに、逃げが戦略的なものであったとしても、「弱さを見せた」と苛立つ傾向がタイプ7よりも強いです。
縁を切る際の対応
タイプ7は、適当に相手の顔を立ててその場をやり過ごしつつ、徐々にフェードアウトして縁を切ることに抵抗が少ないです。一方、タイプ8はこれに抵抗感を持ちます。例えば、「中途半端に媚びるなんてありえない」と感じ、縁を切る際には、はっきり対決するか、明確な態度を示して関係を終わらせる形を好みます。
タイプ8の戦略的撤退への評価
タイプ8が戦略的撤退をどう捉えるかは状況次第ですが、一般的には複雑な反応になることが多いです。例えば、「今は引き時だが、後で必ず勝つ」と冷静に判断すれば、「自分の見切りの速さ」に自信を見出し、「これも強さだ」と肯定的に評価する一方で、「弱みを見せた」と感じる瞬間には苛立ちが混じります。タイプ8は「自分の意志で状況を動かす」ことに価値を置くため、「これ以上痛い目を見たくないなら、先にそっちが手を引くんだな」などといった、他者に強制された撤退であるなら「屈した」と怒るでしょう。逆に、自ら選んだ撤退なら、「次に備える自分の賢さ」と解釈し、苛立ちは少ないです。
判別アプローチ
ケース1(基本的な恐れはタイプ7であるものの、情念の現れ方がタイプ8に似ているケース): この人は、制限を恐れ、それが誰かの支配に繋がると感じます。表層では支配を避けるため強引に動くものの(タイプ8に類似)、弱さを見せても「次がある」と楽観的で、縁切りも軽やかです。深層では、「閉じ込められたくない」が主で、支配への焦りは二次的です。
ケース2(基本的な恐れはタイプ8であるものの、情念の現れ方がタイプ7に似ているケース): この人は、支配を恐れており、他人からの制限を受け入れているうちに、自分が支配されてしまうかもしれないと警戒します。表層では制限を避けるため動き回るものの(タイプ7に類似)、弱さや逃げに強い抵抗感があり、縁切りは断固とした形になります。深層では、「操られたくない」が主で、制限への恐れは支配への抵抗の延長にあります。
まとめ
支配と制限の恐れが絡む場合、弱みを見せることや逃げることへの抵抗感が判別の手がかりになります。タイプ7は軽やかさと柔軟性が強く、タイプ8は強さと対決姿勢が際立ちます。タイプ8の戦略的撤退は、自己主導なら強さとして受け入れますが、他者に強制された撤退であるなら苛立つでしょう。
判別が難しいケース:支配と制限の恐れの絡み合い(具体例)
支配と制限の恐れが絡むケースは非常に複雑なので、ここではさらに具体的な状況設定のもとで比較していきます。以下のケースに、「支配と制限の恐れが絡む」という条件を付与して整理していきます。
- ケース1(基本的な恐れはタイプ7であるものの、情念の現れ方がタイプ8に似ているケース)
- ケース2(基本的な恐れはタイプ8であるものの、情念の現れ方がタイプ7に似ているケース)
具体的な状況設定
ブラック企業を離職後、前職で受けたパワハラや自分への非金銭的な不正を労基に訴えるか、裁判を起こすかを検討している状況を想定します。訴えても金銭的メリットはなく、裁判で勝てば公の謝罪が得られる程度。どちらも時間と手間がかかります。次の職場は前職と無関係で、ブラック企業であることを知っており同情的で、訴えても煙たがられることはありません。
ケース1(基本的な恐れはタイプ7であるものの、情念の現れ方がタイプ8に似ているケース)
反応
パワハラや不正に「許せない」と苛立ちますが、「あんなやつらに時間かける価値ある?」とすぐに冷静になります。新しい職場での自由な生活に目を向けます。
内面の動き
- 表層心理: 「自分で仕返ししたい」と、掌握欲(タイプ8に類似)が湧きますが、「面倒だな」と感じ、労基や裁判への意欲が薄れます。
- 深層心理: 「過去に縛られたくない」が主で、パワハラは「制限の象徴」。謝罪への執着は薄く、新しい可能性が優先。
行動
「もういいや、次に進もう」と訴えるのをやめます。時間と手間を嫌って、前向きに切り替えます。新しい職場での生活を楽しむことに注力します。
ケース2(基本的な恐れはタイプ8であるものの、情念の現れ方がタイプ7に似ているケース)
反応
パワハラや不正に激しい怒り、「あの会社に負けたままじゃ終われない」と感じます。労基や裁判を一瞬「面倒だな」と感じるものの、「黙ったままではいられない」と決意を固めます。
内面の動き
- 表層心理: 「次の職場での仕事に精を出しているうちにこの苛立ちも薄れるのではないか」というタイプ7に類似した思いが浮かびますが、「あいつらがあのまま偉そうにのさばっているのは屈辱だ」と抵抗感が勝ります。
- 深層心理: 「支配されて、負けたままでいるのが許せない」が主で、パワハラは「自分の力を否定された」証拠。謝罪を獲得することは、「自分の力を取り戻す」象徴です。
行動
「裁判で謝らせてやる」と動き出します。時間と手間をかけても不正を正し、力を証明しようとします。
比較:類似点と相違点
類似点
両者ともパワハラや不正に苛立ち、最初は「どうにかしたい」と反応します。ブラック企業を打ち負かすことに金銭的メリットがない状況でも、まず最初に怒りや苛立ち、復讐心を感じる点では共通しています。
相違点
ケース1(基本的な恐れはタイプ7であるものの、情念の現れ方がタイプ8に似ているケース)
- 表層心理: 「仕返ししたい」「相手を屈服させたい」は一瞬で、「時間かけるというのは、それはそれで自分に対する制限だ」と感じ、すぐに別の新しいことへと興味が移ります(タイプ7の拡散的な反応)。
- 深層心理: 「過去に閉じ込められたくない」が主です。ブラック企業で受けたパワハラや不正は、当時「停滞や閉塞感」そのものでしたが、、今ではその恐れから解放されています。謝罪より今の自由の方が大事です。
- 行動: 「次に行こう」と軽快に逃げます。
ケース2(基本的な恐れはタイプ8であるものの、情念の現れ方がタイプ7に似ているケース)
- 表層心理: 「あんな屈辱はもう忘れてしまいたい」と一瞬思い浮かぶものの、「負けたままは許せない」と固執。タイプ7の拡散的な反応は抑えられます。
- 深層心理: 「負けて逃げたままな状態は許せない」が主で、ブラック企業で受けたパワハラや不正は「力の否定」であり、その否定は離職した今現在も続いています。ブラック企業からの謝罪は、自分の力を取り戻した象徴となります。
- 行動: 粘り強さを発揮して、「裁判を起こす」という道を選びます。
判別のサポート
下記の点を観察してください。
- 時間と手間への反応: ケース1は「面倒」を避けて逃げ、ケース2は「面倒でもやる」と粘り強さを見せます。
- 謝罪への執着: ケース1は謝罪に無関心であり、ケース2は謝罪を力の象徴と見なします。
- 動機: ケース1の動機は「停滞の回避」、ケース2の動機は「力の否定への抵抗」です。
結論
ケース1は制限への焦りから軽快に次へと移り、ケース2は支配への抵抗から謝罪を勝ち取るまで闘います。時間への態度と謝罪へのこだわりが、判別の鍵となります。
注意点
一見よく似た状況でも、ほんの少し条件が違うと、行動結果が大きく変わる可能性がある点には注意してください。例えば上記の例では、タイプ7が「訴えずに新しい職場に専念する」と判断したことになっています。しかし、もしタイプ7が「自分の行動を観察している人々(ブラック企業とは無関係の第三者や、今後も交流する可能性のある人々)がいる」ことを意識し、「ここで黙って引いたら、その人々に『こいつは力で押せば言うことを聞く』と思われてしまう。それによって支配され、最終的には制限される事態に陥る」と考えた場合、全く異なる判断を下すかもしれません。
「タイプ7なら逃げる」「タイプ8なら立ち向かう」という単純な違いではなく、なぜ逃げると判断するのかに着目することが大切です。
補足:親との関係における位置づけ
共通点
幼少期における養育者との関係が性格形成に与える影響
- タイプ7とタイプ8は、幼少期における養育者との関係がその後の性格に大きな影響を与えます。タイプ7は養育者からの安定感の欠如を感じ、タイプ8は養育者との関わりを通じて自己を強化していきます。
感情的な防衛機制の形成
- 両者は、親との関係から生じる感情的な課題に対処するために防衛的な態度を築きます。タイプ7は不安を回避するため外部に逃避し、タイプ8は傷つきやすさを隠し、強さを求める傾向があります。
自立の模索
- 養育者との関係が自立の道筋に大きく影響します。タイプ7は養育者の不在や不十分さを感じ取ることで、自ら満足を得ようとします。タイプ8は支配を避けるため、自己の力を確立しようとします。
相違点
養育者との結びつきの特性
- タイプ7: 養育者との繋がりが断たれ、心理的に隔絶された感覚を抱くようになります。安定や愛情が欠けていると感じ、自分で満足を得る方法を模索します。
- タイプ8: 養育者との愛憎が入り混じった複雑な結びつきを保ちながら、その関係を補完する形で自己を形成します。愛情や価値観を獲得するために、強さが必要だと学びます。
親との向き合い方
- タイプ7: 養育者への依存を避け、欲求不満を感じると、外の世界に逃げ込み、自己充足を追求します。親への期待を捨て、自由を最優先します。
- タイプ8: 養育者に頼ることなく結びつきを維持しつつ、自らの権威を強調します。支配されることを拒み、親に対して保護者としての役割を果たすことに力を入れます。
感情的な結果と行動パターン
- タイプ7: 養育者からの喪失感や不安が、過度な体験追求や現実逃避の行動につながります。内面的な痛みを避けるため、外部の世界に向かって目を向け続けます。
- タイプ8: 養育者との葛藤から、傷つきやすさを抑圧し、強さへの執着を持ちます。他者に対する不信感と自己主張を強化し、感情の管理を徹底します。
タイプ7とタイプ8は、養育者との関係が性格に深い影響を与える点や防衛的な態度を取る点で共通していますが、その向き合い方や結果には違いがあります。タイプ7は養育者との断絶から自由と多様性を追い求め、外部へ逃げる形で自立を目指します。一方、タイプ8は養育者との結びつきを基に強さと支配を築き、内面の弱さを隠しつつ自立を追求します。これらの違いが、両者の世界への接し方や感情の処理方法に明確な差異を生み出しています。
参考資料
- Don Riso and Russ Hudson (1996), Personality Types: Using the Enneagram for Self-Discovery
- Don Riso and Russ Hudson (1999), The Wisdom of the Enneagram: The Complete Guide to Psychological and Spiritual Growth for the Nine Personality Types
- Misidentifying Sevens and Eights