はじめに
アルファ・クアドラが持つ「塞がれた口」コンプレックスは、他のクアドラ・コンプレックスと同様に、4つの主要な情報的側面(ベータの場合、+Ne:エボリューション的な潜在的可能性の直観、+Si:エボリューション的な五感の感覚、-Fe:インボリューション的な感情の倫理、-Ti:インボリューション的な関係性の論理)から構成されています。[1]
これらは下記で示すような、3つの特徴的なクアドラの性質を生み出します。
民主主義
二分法「民主主義」
合理的な側面はインボリューション的であり、マイナス記号が付いています。非合理的な側面はエボリューション的であり、プラス記号が付いています:-Fe, -Ti, +Ne, +Si
この特性によれば、すべての人は次のような権利を持つとされます。
- 対等な立場で他者と交流する権利。
- 平等な権利と機会を持つ権利。
- 平等な権利と機会を獲得するために闘い、争う権利。
- あらゆるトピックについて自由に表現する権利。
- 自分の意見を自由に主張する権利。
- 自分の権利と機会を守るために、あらゆる手段を使う権利。
賢明
二分法「賢明」
エボリューション的な潜在的可能性の直観と五感の感覚の優位性:+Ne +Si
この特性によれば、すべての人は次のような権利を持つとされます。
- 自分の能力、可能性、才能を自由に伸ばす権利。
- あらゆるトピックについて自由に表現し、自分がそのトピックに精通しているかどうかに関わらず自分の意見を尊重するよう要求する権利(「民主主義」特性の影響で、専門家の意見を否定したり、一般的とは言い難い基準であっても、自分の裁量で解釈できることを求める)。
主観主義
二分法「主観主義」
インボリューション的で合理的な側面の優位性: -Ti -Fe
この特性によれば、すべての人は次のような権利を持つとされます。
- 主観的にイベント、意見、行動を分析する権利。
- 無実の人を弁護する権利。罪ある人を探し出し、システムから排除する権利。
- システム内で自分の場所、立場を守るために戦う権利。
- 他人をシステムから排除する権利。自分をシステムから排除しようとする人と戦い、自分が排除されないようにする権利。
アルファ・クアドラ・コンプレックスが生み出す恐怖と不安
上記の特徴が組み合わされた結果、アルファ・クアドラには非常に多様な意見の集合体が存在することになります。議論、討論、論争。これは重要な問題に取り組むための、最も一般的で最も自然なアプローチの方法です。
彼らは、どんな問題やトピックであれ、表現手段や語彙や時間を制限されることなく、自由に自分の考えを表現することが自分の義務(そして自然で法的に見て正当な権利)であると考えています。
各々が、自分の理屈で相手の意見を抑えつけ、議論から、聴衆の前から、トピックから、システムから相手を排除する権利を持っていると考えています(「出て行け!あなたのような人は、この場にふさわしくない!まずはマナーを守り、相手の話を聞くことを覚えろ!」)。
それと同時に、あまりにも長い時間、時間を気にせず話し続ける人の話を聞き続けるのは、アルファ・クアドラにとって嫌なことです。
- アルファ・クアドラは、自分の発言時間、つまり議論の流れを自分にとって有利な方向に誘導するための時間がないことを心配しています。
- アルファ・クアドラは、議論の主導権を失い、自分の意見が抑圧され、反論されることを恐れています。
- 相手を簡単に論破し、自分の意見を確かなものにできるような、最も重要で説得力のある意見(視点、計画、決定、権限、目標、タスクなど)を見落としてしまうことを恐れています。
- アルファ・クアドラは、聴衆に耳を傾けてもらえないこと、理解してもらえないことを恐れているため、手当たり次第に一気に話をしようとします。席から叫んだり、話を急かしたり、演台を空けるよう要求したり、人が何か言おうとすると邪魔したり、嘲笑やブーイングを浴びせたり、拳をテーブルに叩きつけたりします(すべて非常に「民主的」なやり口です)。時間と聴衆の注意を独り占めして、マイクを奪おうとします。横柄だったり無作法であるかもしれません。自分が話すために、誰かの口を手で塞いで黙らせようとするかもしれません。アルファ・クアドラのこうした言動は、不安の増大と、「自由に話せないかもしれない」という恐れが原因です(「全員が発言するには時間が足りません!全員が発言するために、十分な時間と、十分な観客からの興味関心が必要なのです!」)。
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アルファ・クアドラは、「口を使った攻撃」、つまり彼らが何かを発言することを不可能にするような攻撃を嫌います。アルファ・クアドラは、自由に話すことが出来ないこと、彼らの問題について話し合い、意見を擁護できなくなることへの恐怖を持っています。この「可能性と社会的権利の喪失」という恐怖は、「塞がれた口」コンプレックスと呼ばれます。
アルファ・クアドラは、秘密を守ることが得意とは言い難いタイプです。何かを秘密にしておかなければならない場合、このタイプの人はかなりの苦労と苦痛を強いられることになります(特にこの傾向が強いのはESEです。ESEは口が軽いタイプですが、同時に彼らは、「自分が秘密を漏らした」とバレることも恐れています。そのため、このタイプの人々が秘密を漏らす際は、「私が喋ったということは秘密にするように」と聞き手に約束させます)。
アルファ・クアドラは秘密主義者を嫌います。こういう人は信頼できず、少し恐れを感じてさえいます。「何を考えているのかわからない」からです。
そしてこの点が、自分の考えや感情を隠す傾向のあるガンマ・クアドラの否定主義者であるESIやILIとアルファ・クアドラが対立しやすい原因でもあります。
一方で、いつもニュースやセンセーショナルな事実、自分や他人の秘密でいっぱいの人は別です。こういった人とは、話していて面白いし、一緒にいて楽しいと感じます。
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おしゃべりは、アルファ・クアドラの特徴です。
会話は彼らのお気に入りの娯楽です。話をやめさせようとしても、すぐに「待って、あの人と話をさせて!今、私が話してるのが見て分からないの?」と始まります。しかしアルファ・クアドラ自身は、平然と他人の会話を妨害したり、話を遮ったり、割り込んだりします。特に会話内容が彼らにとって面白そうだったり、自分と関係深いものだったりする場合はそうです。
おしゃべりへの誘い文句は、誰にでも共通するものでいいのです。そのため多くのアルファ・クアドラに見られる典型的な習慣は、どこでも会話相手を見つけて、混雑した公共の場で議論をし始めることです。一度に全ての話題を一気に話しながら、自分の考えを他の人に伝えます。そうやって聴衆の興味を引き付け、活発な議論に巻き込もうとします。
新しいテーマ、面白いアイデア探しといった活動も好みます。これは特にアルファ・クアドラの論理タイプ(ILE、LII)に当てはまります。少しでも新しいアイデアが生まれたら、彼らはすぐにそこから新しい理論を生み出し、公開しようとします。
ここでは、あらゆる新しいアイデアを議論に持ち込むことが厳格に要求されます。このルールから逸脱することは、科学倫理に反すると見なされます。新しいアイデアは停滞してはならず、科学界に隠されてはならず、公表され、議論されなければなりません。
アルファ・クアドラは、情報が広く公開されており、誰でもアクセスできることが、民主主義の主要な成果だと考えています。彼らは、社会の民主化の度合いを決めるのは政党の数ではなく(政党の数も民主化に貢献する一要素ではありますが)、どんな話題でもオープンに議論できるかどうか、どんな情報にもアクセスしやすいかどうかであると考えています(「隅々まで堂々と話せないなら、政党に所属する意味はない!」)。
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アルファ・クアドラは、誰もが自分の意見を述べることができる機会を大切にしています。したがって、ここでは真の戦いが勃発します。誰もが、あらゆる策略や手段を駆使して自分の主張を証明し、自分の意見を守り、さらなる注目を集めようとします。一度マイクを握れば、ギリギリまで人に譲りません。出来る限り長い時間、自分が話し続けようとします。
もしこれらの試みに成功したら、勝者の気分を味わえるかもしれません(これですっかり注目の的です)。しかし他の人々にとっては違います。「発言できないせいで、自分の意見をちゃんと聞いてもらえないのではないか」「重要な話をする場から除け者にされてしまうのではないか」という恐怖が大きくなってしまいます。
- ─ 人類学者によれば、ヒトの発話器官は7万年前に集中的に発達し始めたとされています。同時に、頭蓋骨の蝶形骨の最後の突然変異が起こり、発話器官が現在の形に至りました。活発な口頭でのやり取りは、集中的な情報交換と、情報代謝タイプ [2] の迅速かつ集中的な形成に繋がりました。また、人間社会の発展も飛躍的に進み、共同行動の首尾一貫性、組織性、そして成功率が向上しました。
- 意見交換の過程で、知性もまた飛躍的に発達し、社会意識や社会システムが発展していきました。そしてそれと同時に、議論のための新しいトピックも生まれました。こうして社会はようやく心行くまで発言できる機会を獲得しました(そして誰ももう沈黙の時代には戻りたくありませんでした)。
- 誰もが、新しい言語と新しい法律の形成の分野における先駆者であることを肌で感じました(「人間はその思考において神と対等である」という主張は、古代、自由を愛し、知的に解放された論理学者たち、すなわちアルファ・クアドラの直観主義者(ILE、LII)たちから始まった主張です。
- 自分たちの秩序を確かな形にしたいという欲求、例えば自分たちのゲームのルール、自分たちの「言語」や「暗号」を発明する能力など、言葉の形成や法律を作る能力は、今日に至っても彼らの中にあるのです)。
- 激しい意見交換が繰り広げられるうちに、新たな指導者、長老、族長が登場しました。彼らは、それまでの指導者、長老、族長とは異なり、強く、勇気があるだけでなく、賢く、理性的に推論し、自分の考えを正確に表現し、共同体に良識ある公正な秩序を確立することができました。
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アルファ・クアドラのコミュニティでは、非常に猛烈で活発な意見交換が常に行われています。ここでは、発言やコミュニケーションの機会である「スピーチによる自己表現」が最も重要視されており、議論されながら問題が解決されていきます。
クアドラを構成する機能の組み合わせから見て、最初のエボリューション的なアルファ・クアドラは、最も「おしゃべり」なクアドラです。アルファ・クアドラのメンバーである「民主主義者/主観主義者」は、自分が好きなことを好きなだけ、好きなように話す権利を持っています。
これはつまり「コミュニティのすべてのメンバーが、相互に排他的でありながら、同時に平等な権利と機会を持っている」ことを意味しています。このようなコミュニティでは、「誰も傷つけたり気分を害したりしないように、各メンバー間の権利と機会を調整しなければならない」という課題が発生します。
このような問題を解決するために、アルファ・クアドラは公正な共同体秩序を構築し、規範という概念を導入し、民主的な議論の形式を発明しました。発表と討論には制限時間が設けられ、会議全体をマネージメントする「議長」が登場しました。「話す許可」「スピーチ権」「議決権」などの導入も、ここから始まったものです(ちなみに「話す許可」を意味する言葉は、古代セム語にも見られます)。
これらの発明は、「全ての人の意見が確実に聞かれるようにするため」に生み出されたものです。そのため、こういった仕組みが導入されても、誰も自分の発言する機会を奪われたとは感じませんでした。
古代の民主的なアルファ・クアドラの共同体において、こうした組織的な措置は全て「塞がれた口」コンプレックスを弱めるために働いていました。
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アルファ・クアドラは次のようなことを恐れています。
- 社会的孤立と情報的孤立。
- 他人の信頼と尊敬を失うこと。
- 人々からの理解を得る機会の喪失。
- 自分の正しさを守り、自分を正当化し、自分に向けられた疑惑を晴らす機会の喪失。
- 自分を非難する口実を与えること。
- 社会的なシステムから追放され、社会的、道徳的な支援を受けられないまま、取り残されること。
重要な問題が自分無しで解決されてしまい、しかもそれが自分の利益に繋がらないという情報は、アルファ・クアドラの心の中に不安と恐怖の嵐を巻き起こします。
代わりになるような解決策を何とかしてひねり出そうとして、彼らは最初の意見とは矛盾するような意見を言ってしまったり、執拗に自分の意見を主張し始めますが、そういった足掻きはこの絶望を悪化させるだけにしかなりません。この嵐のような絶望によって、自分の評判を、自分の正しさを、自分の権威を守ろうとする全ての試みはかき消され、上書きされてしまいます。
その結果、人に向かって叫んでも反応がない、理解を得ようとしても得られない、助けを呼ぼうとしても、自分の力ではどうにもならない理由で呼べないというような、まるで突然声を失ったか、両手を縛られて、ガムテープか何かで口を塞がれてしまったようなパニック状態に陥ります。
アルファ・クアドラにとって、口を塞がれることは、手を縛られること [3] よりも、ずっと不安で恐ろしく感じることです。口を塞がれてしまったら、助けを求めることも、正義を貫くことも、自分の考えの正しさを証明することも、無実を守ることも、助言を求めることも、人に相談することもできないからです。自分の名誉や尊厳を守ることも、他人の常識や良心や思いやりに訴えることも、できません。口を塞がれたら何もできないのです。何も話すことが出来ないという感覚は、アルファ・クアドラに強烈なショックを与え、彼らを絶望に追いやります。
「周囲に大声を出す」 ─ これはアルファ・クアドラの得意技です。このシンプルかつ効果的な方法を使えば、人の注意を集め、自分の主張を表明することが出来ます。
◆◆◆
以下は「周囲に大声を出す」アルファ・クアドラの例です。
- ある5歳の男の子(ILE)が、生まれて初めて床屋に連れていかれました(それまでは母親と祖母が自宅で散髪していましたが、今回はプロの手できちんと散髪する必要があったため、床屋に行くことになりました)。
- 肘掛椅子に座らされ、散髪用のケープをかけられると、男の子はまるで自分が囚人になったかのような気分になりました。そして巨大なハサミをもった見知らぬおばさんがやってきて、男の子の頭にそれを近づけました。それを見た男の子は限界まで声を振り絞って絶叫しました。
- 「助けて!急いで!誰か助けて!ころされる!」
- 床屋は怖くなってしまい、すぐにこの男の子を母親と一緒に店から放り出してしまいました。この男の子は、その後別の床屋に連れていかれましたが、そこでもまた同じことが起きました。さらにその次の床屋でもです。結局母親は必死に男の子を家に連れて帰り、また自分の手で散髪する羽目になりました。この男の子が床屋に行けるようになるには、ずいぶん時間がかかりました。
訳注
- ^ Stratiyevskayaはエボリューション的を「建築的・肯定的」、インボリューション的を「再構築的・否定的」という意味で使用している。
参考:Социон и соционная природа человека(外部サイト)。
ソシオニクスにおける一般的な用語としてのエボリューション、インボリューションの意味はこちら。 - ^ ILEやSEIなど、ソシオニクスの16種類のタイプのこと。
- ^ 自分の身の安全と権利を守るための武力・腕力を持たないこと。これはアルファ・クアドラとは価値観が真逆のガンマ・クアドラが何よりも恐れることである(ガンマ・クアドラ・コンプレックス)。