はじめに
ガンマ・クアドラが持つ「縛られた手」というクアドラ・コンプレックスは、他のクアドラ・コンプレックスと同様に、４つの主要な情報的側面（ガンマの場合、+Se：エボリューション的な意志の感覚、+Ni：エボリューション的な時間の直観、-Te：インボリューション的な行動の論理、-Fi：インボリューション的な関係性の倫理）から構成されています。[1]
これらは下記で示すような、３つの特徴的なクアドラの性質を生み出します。
民主主義
二分法「民主主義」
合理的な側面はインボリューション的であり、マイナス記号が付いています。非合理的な側面はエボリューション的であり、プラス記号が付いています：+Fi、-Te、+Se、+Ni
この特性によれば、すべての人は次のような権利を持つとされます。
- 対等な立場で他人と接する権利。
- 創造的な自己実現を最大限に目指す権利。
- 事業や創造的な取り組みを自由に展開する権利。
- 自由に行動する権利、行動によって適切に対応する権利。また、自分が持つそれらの権利を擁護する権利。
- 事業や意思決定、自分の展望を守るための自由を持つ権利。
果敢
二分法「果敢」
エボリューション的で非合理的な側面の優位性：+Ni +Se
この特性によれば、すべての人は次のような権利を持つとされます。
- 力を持った立場から他者と交流する権利。
- 自分自身や他人の問題を、限られた時間の中で効率的に解決し、責任ある決断を下し、他人を従わせる権利。
- 労働の権利、起業活動の自由、職業選択の自由を断固として守る権利。
- 自分の視点を断固として守る権利。自分自身の戦闘能力と現在進行中の瞬間の特殊性を、自分の有利になるよう、効果的に利用する権利。
客観主義
二分法「客観主義」
インボリューション的な行動の論理と関係性の倫理の優位性：-Te -Fi
この特性によれば、すべての人は次のような権利を持つとされます。
- 自分の経験、つまり個人的な観察から得られた専門的、実用的、ビジネス的な経験を信頼し、それに従ってさらなる行動をする権利
- 事実を信頼し、事実によって説得される権利。つまり自分の正しさの主要な証拠として、事実を提供する権利。
- すでに発生した事実によって状況を評価し、自分の経験と特定の行動方針にとって都合がいいかという点を踏まえて、最新の状況に従って行動する権利。
- 自分の観察眼、自分の個人的・専門的経験、常識に基づいた推論を基に、自分の裁量で実践的なイニシアチブを、自由に、かつ断固として示す権利。
- どんな訓練を受けたか、達成度や能力、資格レベルはどの程度かに応じて人を評価する権利。
- 無能で怠惰なメンバーを排除する（または排除するよう要求する）権利。そういった人を仕事やプロジェクトから追い出す権利。
- 仕事やプロジェクトに参加するため、あるいはチーム内での自分の地位を守るために戦う権利。
上記の特性が合わさった結果として、ガンマ・クアドラは個人的なビジネス、プロフェッショナル、創造的なイニシアチブに関する極めて強い競争心が生まれます。ガンマ・クアドラは、自由（行動の自由、創造性の自由、イニシアチブの自由、起業の自由）の制約や制限を感じやすく、何かと「窮屈さ」に苦しめられることになります。
新しい出会いや面白い事業に臨んだ最初に感じる活力は、すぐに欲求不満や無気力さに取って代わられてしまいます。自分の職業上の能力、機会、才能に無関心になり、自分の創造性やイニシアチブが客観的に見て過小評価されていると感じてしまいます。
ガンマ・クアドラは次のような時、絶望を感じます。
- 自分が持つ創造的な可能性を信頼してもらえない時。
- 私的イニシアティブの自由、職業選択の自由がなく、自由で創造的な仕事をする権利を主張することができない時。
- 自分の事業と創造的な成功に対する評価（客観的な業績評価）に不信感があるとき。
- 効率のいい仕事による創造的な自己実現の自由を得る権利が侵害された時。
- 自分に対する不当な扱いに、決定的かつ即断的な行動で対応することが出来ない時。
ここから生まれる恐怖や苛立ちのことを、ガンマ・クアドラ・コンプレックス、「縛られた手」と呼びます。
ガンマ・クアドラには次のような特徴があります。
- 単位時間あたりの有益な行動の不足に対する恐れ。
- 有意義な活動をする時間がいつも足りないという感覚。
- 有益な活動で時間を埋めたいという気持ち、また、その活動によって得られる肯定的な結果をすぐに提示したいという気持ち。
- 単位時間当たりの有意義な活動が不足していること、不十分な結果しか得られていないことを正当化しなければいけないという精神的なニーズ（「まるで自分に生まれる権利があることを、死ぬまでひたすら証明し続けなければならないような義務を背負っているかのような」）。
ガンマクアドラにおける建設的な創造の本能・創造的な自己実現の権利を守ろうとする本能
創造の本能はガンマ・クアドラの基本です。重要なこと、意義のあること、必要とされることを行う能力 ─ それが、彼らの最も重要な目的です。創造の自由に最大の価値を置きます。
ガンマ・クアドラには、「乗り換えられない壁」や「不可能な仕事」という概念はありません。エボリューション的な意志の感覚（+Se）とインボリューション的な行動の論理（-Te）が優勢であるため、それをやりたいという意志があって（+Se↑）、問題を解決するための適切な技術的アプローチが見つかりさえすれば（-Te↑）、どんな仕事でも、どんな雑用でも、どんな課題でも実行可能になります。
失業し、自分の力や創造的な目標、目的、計画を活かすことができないガンマ・クアドラは、まるで自分が状況という牢獄に囚われていて、ただ無目的で無意味な日々を過ごすしかない囚人のような気分になってしまいます。
経済危機の時代に失業したり、専業主婦を強いられたりといった、経済的、社会的に困難な状況にいるガンマ・クアドラや、不利なタイプ間の人間関係を強いられているガンマ・クアドラは、しばしばこの苦悩に直面します（「私は働きに行きたいのに、夫が仕事に行かせてくれない」または「『女が働くなんて』と言って許してくれない」）。
ガンマ・クアドラを失業状態に追い込み、それを「お前の創造力が無いせいだ」と非難し、彼らを「怠惰な人」または「負け犬」と呼び、創造的な自己実現ができていないことを非難することほど、恐ろしくて危険なことはありません。
こうした侮辱をされた場合、ガンマ・クアドラは「自分にはこの加害者に報復する権利がある」と考えます。ガンマ・クアドラ（特に感覚タイプ）は、すぐに自分のコントロールを失い、彼らを責め苛ませる加害者を道徳的・肉体的に打ちのめすために、何でもするようになります（それだけこのような侮辱はガンマ・クアドラにとって許しがたいものです）。
手元にあるすべての道具・リソース（鋭利なものを含む）を使用って報復に出ます。罪を犯した者が罰から逃れることはできません。物理的に「加害者」を排除したいというガンマ・クアドラの願望は強烈です。彼らの報復は極めて残忍で、しかも迅速です。
◆◆◆
いかなる状況下でも、ガンマ・クアドラは、残忍かつ迅速な対応をとる正当な権利が自分にはあると考えています。手が縛られてさえいなければ十分です。（アルファ・クアドラと違って）助けを呼ぶ必要はありません。口を開かずとも、自分で敵を処理できるからです。
チームの利益を守るための力の優位性を失うことへの恐れ、チームに対する倫理的・職業的コミットメントを失うことへの恐れ、好きな仕事で自分を満たせないことへの恐れは、全てのガンマ・クアドラにとって最も苦しい恐れです。意図的なものであれ、意図しないものであれ、ガンマ・クアドラを傷付けるべきではありません。その結果は破滅的なものである可能性があります。
一度でもガンマ・クアドラから仕事と尊厳を奪い、彼らを耐えがたい苦境に追い詰めてしまうと、ガンマ・クアドラは「加害者」に復讐を誓う苛烈な敵になります。この恨みは一生忘れられることはありません。立場や特権の違い、親交が深いか浅いか、血縁の有無や友情の絆に関係なく、加害者は復讐の対象になります。あとは時間の問題です。
◆◆◆
クアドラ・コンプレックスを刺激されたことによって不満が生じた場合、どのクアドラであれ「絶対に許せない」という心境になりますが、これは「縛られた手」というコンプレックスを持つガンマ・クアドラにとっても同様です。
以下はガンマ・クアドラにとって許しがたい事です。
- 自分の成果を疑問視されること。
- プロとしての業績や結果を過小評価されること。
- 専門能力を軽視されること。
- 業務遂行能力を疑われること（または資格不足と判断されて仕事やプロジェクトから外されること）。
- プロジェクトや活動、好きな仕事を干されること。
- 職業訓練を受ける権利を侵害されること。
- 職業的、個人的な自己実現に挑戦する権利を侵害されること。
後半は特に「専業主婦」を強要され、家にいるよう強制されているガンマ・クアドラの女性には痛烈に認識されるものです。その苦しみのあまり、彼女は離婚（しかも夫が求める、彼女にとっては不利な条件を受け入れた上での離婚）を余儀なくされることもあります。
自分の好きなことで専門的、創造的な自己実現を成功させることは、ガンマ・クアドラの自尊心を傷つけようとする加害者から与えられる心理的恐怖に対して、ガンマ・クアドラが行動で立ち向かうための機会を提供することになります。
ガンマ・クアドラの専門的な成果を、反対のクアドラであるアルファ・クアドラ [2] はきちんと考慮しないことがあります。それが便利でも有益でもないという理由だけでです。アルファ・クアドラ（特にILE）は、「あなたの功績なんてどうでもいいんです。誰があなたの代わりに必要な仕事をしているかのほうが気になります。私にとって、あなたは居ても居なくてもいい、どうでもいい人です」と言い放つことさえあります。
◆◆◆
アルファ・クアドラは言葉でガンマ・クアドラの息の根を止めようとします。それに対してガンマ・クアドラは行動で反撃します。より重い鈍器を拾い上げて、適切に反応しようとするのです。アルファ・クアドラはその攻撃を不適切で不当なものだと見なします。そして大声で叫びながら助けを呼びます（幸いなことに、ここにはアルファ・クアドラの口をふさごうとする人はいないので、好きなだけ大声を出せます）。それでもガンマ・クアドラは止まりません。ここで唯一重要なことは、ここにはガンマ・クアドラの手を縛る鎖もまた無いということです。ガンマ・クアドラは自分の自由な手を使って、加害者に対処しようとします。
ガンマ・クアドラは、感情的な圧力をかけられることを、最も残酷な心理的恐怖だと考えています。彼らはこれを「禁じ手」だと考えており、いかなる状況においても「やってはいけないこと」だと考えています。もしパートナー（アルファ・クアドラ）がこの禁じ手を頻繁に使う場合、ガンマ・クアドラはアルファ・クアドラの要求も、アルファ・クアドラの感情状態も無視するようになります。
ガンマ・クアドラは、アルファ・クアドラからぶつけられる感情的な奔流から切り離され（まるでテレビの音を消したかのようです）、相手が叫び疲れるまで静かに待ちます。ガンマ・クアドラはパートナーが感情を爆発させて鬱憤を晴らすのを許します。相手が疲れ切って落ち着くまでの間、ガンマ・クアドラは「檻の中の動物」を眺めるような気分でパートナーを淡々と観察し、どういう反応を見せるのか研究しながら待ち続けます。そしてアルファ・クアドラの嵐がおさまったら、相手の意見や要望はまるっきり無視しながら、自分の裁量で静かに行動し始めます。
アルファ・クアドラは、ガンマ・クアドラのこういった行動を「感情的な愚かさの現れである」と考えます。ガンマ・クアドラは、この意見に微塵も耳を傾けません。ガンマ・クアドラにとって、自分の仕事や創造的イニシアチブを阻害するものは全て、あらゆる正論や倫理的評価の範疇の外にあるものです。「暴君」「専制君主」（ガンマ・クアドラから見て、彼らの仕事を邪魔する紛争当事者）には、正義を訴える権利も、寛容さや思いやりを要求する権利もありません。
訳注
- ^ Stratiyevskayaはエボリューション的を「建築的・肯定的」、インボリューション的を「再構築的・否定的」という意味で使用している。
参考：Социон и соционная природа человека（外部サイト）。
ソシオニクスにおける一般的な用語としてのエボリューション、インボリューションの意味はこちら。 - ^ ガンマとアルファは価値観がちょうど真逆である。ガンマで支配的なのは+Fi、-Te、+Se、+Ni、それに対してアルファで支配的なのは-Fe、-Ti、+Si、+Ne。関連記事「アルファ・クアドラ (1) by Stratiyevskaya」
