はじめに
MBTIにせよソシオニクスにせよ、これらのタイプ理論は直感的にわかりにくい理論である。
最初、「性格のタイプ」について知りたくて類型情報を探し始める人は結構いると思うが(当サイト管理人もそうだった)、実は日本で見かける多くのタイプ理論(MBTI、エニアグラム、ソシオニクス)は「性格のタイプ」の理論ではない。
ここではMBTI、ソシオニクス、16Personalities、そしてMBTI派生理論の一部の違いを簡単にまとめておく。
MBTI
サイト管理人の所感としては、日本で見かける類型の中では、ぶっちぎりで難しい類型がMBTIなんじゃないかと思う。
公式のタイプ判定手順
公式のMBTI(Step I)は以下のような手順でタイプ(ベストフィットタイプ)を決める。
- 質問紙を使ったテスト(「報告された指向の明確さ」の判定)
- セッション
- 受講者本人によるベストフィットタイプの決定
MBTIの肝は、「最終的には自分でタイプを決める必要がある」という点。「MBTIのタイプは何のタイプであるのか」をきちんと理解しないと、自分のタイプを知ることが出来ないのである。
MBTIとは何のタイプなのか
MBTI公式サイトのこちらの記事「タイプ論と特性論の重要な違い(外部サイト・日本語)」を読んでほしい。
この記事にはMBTIが直面している問題について書かれている。特にこういう人にはオススメの記事である。
① MBTIタイプがわからない人
② 他人のMBTIタイプの判定をしたい人
③ WikipediaのMBTIのページにある「批判(外部サイト・日本語)」に興味がある人
MBTIのタイプとは、心理学的な選好(preference)のタイプである。公式では「利き手」に例えて説明されることがある。利き手側の極(内向/外向や直観/感覚などの極)は使いやすいとされている。
MBTIによって示される指向得点は、 特性の程度を測定するものではなく、受検した者がどちらの極のほうをもう一方より好んで用いているか(指向して いるか)についての個人の明確度を見積もるものといえる。
- タイプ論と特性論の重要な違い(外部サイト・日本語)より
つまり、MBTIは「どちらの極のほうをもう一方より好んで用いているか」を見ているのであって、性格特性(例えば「気難しい」「心配性」「協調的」「皮肉屋」「寂しがり屋」「人見知り」「おっとりしている」など)の傾向や能力(共感力や抽象的思考力や想像力)を見てタイプに分類しているわけではないのである。
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タイプとして考えると難しいが、「MBTIのタイプ」を「数学が好きか嫌いか」(あるいは「数学の勉強なら何時間でも疲れずにできる方か、それとも他の科目よりもかなり苦労しないと勉強できない方か」)のタイプに例えてみるとわかりやすい(「MBTIのタイプ」を「数学が好きか嫌いか」に置き換え、どれくらい気難しいか・心配性なほうか等の「性格特性」を「数学の成績が良いか悪いか」に置き換える)。
「数学が好きな人」には「数学の成績が良い人」が多い傾向はあるだろうが、「数学の成績が良い人=数学が好きな人」とは必ずしも言えないのもわかると思う(好きなこと、楽なこと以外を避けて大人になる人と、何らかの圧力を受けながら大人になる人、どちらが多いだろうか)。「MBTIのタイプ」と「タイプごとの典型的な性格特性」の関係も、ちょうどこの関係性に似ている。
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ある人が「典型的なINTPの特徴」にほとんど合致して、「典型的なINTJの特徴」にはほとんど当てはまらなかったとする。この人はINTPではなくINTJなのかというと、「これだけではわからない」というのが正しい。「典型的なINTPの特徴」や「典型的なINTJの特徴」というのは性格特性や能力である。数学の例でいうと、「成績が良いか悪いか」に相当するものである。
機能についても同様である。「典型的なTiユーザーの特徴」や「典型的なFeユーザーの特徴」あるいは「典型的な劣等Feの特徴」などといった情報を知っている人は多いかもしれないが、これもまた性格特性や能力である。
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「でもMBTIでは質問紙を使ったテストや、有資格者による判定(フィードバック)をやっているじゃないか」と思うかもしれないが、最初に書いた通り、これは「タイプ」を判定しているのではなく、受講者本人がベストフィットタイプについて考えるための材料を提供しているにすぎない。MBTIのタイプはあくまでも本人にしかわからないものである。
これは「典型的な数学好きな人の特徴にどれだけ合致しているか」は、本人以外であっても測定可能であり、数値化して他の人と比較できるのに対し、「実際にどれくらい数学が好きか、嫌いか」は、本人以外には測定不可能であり、数値化して他の人と比較できないのと同様である。
ここまでくると「能力と無関係に、本人の主観だけで決まってしまうものを、タイプとして考える意味はあるのだろうか」と疑問を抱く人もいるが、これは「勉強していて楽しいと感じることができる科目が何であるのかを考えることに意味はないといえるか」という問題に似ている。
① MBTIタイプがわからない人
最初自認をINFPにしていたが、その後「INTPに多い傾向」を聞いて「自分はこの傾向に合致するからINTPかもしれない」と思うような人は多いかもしれない。
こうやって「〇タイプに多い傾向」を元にタイピングするのは不毛である。なぜならMBTIは性格特性の傾向や、能力の傾向のタイプではないからだ。どれだけ「典型的なINTPの特性の傾向」に合致していて、「典型的なINFPの特性の傾向」には合致していなかったとしても、「選好」がINFPならその人はINFPが正しい。
② 他人のMBTIタイプの判定をしたい人
これは「できない」ことである。資格を持っている講師にすらできない。倫理的な意味合いもあるだろうが、もし「タイプ判定」できるんだったら、「ベストフィットタイプ」なんて受講者任せのものじゃなくて、質問紙の結果なり、講師の判定結果なりを「タイプ」にできただろう。別にMBTIも責任逃れしたくて「ベストフィットタイプ」という考えに逃げているわけではなく、理論上、本人にしかわからないものだから本人に判定させているのである。確かに他人の推測とベストフィットが一致する可能性はゼロではないだろうが、少なくとも理論を理解した上で決定した本人のベストフィットタイプよりも他人の推測のほうが正しいということはない。ちなみに公式の質問紙であるForm Mは、資格者の「タイプ判定」のデータではなく、資格者のフィードバックを受けたテストユーザーそれぞれが下したベストフィットタイプのデータを元に作成されている(英語版MBTIマニュアル7章, p144 Best-Fit Type Studyより)。
他人の推測よりベストフィットタイプが正しい理由はこれまでに説明した通り、性格特性の傾向がMBTIのタイプになるわけではなく、本人にしかわからない選好のタイプがMBTIのタイプだからである。基本的に他人や質問紙に出来るのは、「Aさんは数学の成績が良いから(あるいは数学の成績が良いと自己報告しているから)、数学好きな可能性がある」程度の話だけである。
③ WikipediaのMBTIのページにある「批判」に興味がある人
まず最初に、MBTIは科学ではない。そして性格特性の傾向のタイプでもない。質問紙はあくまで「本人が自己理解を深める材料を提供するもの」であって、「タイプそのものを判定している」わけではない。
多くの論文の「MBTIに対する批判」は、質問紙(Form MやForm Gなど)の結果に対する批判であって、セッション後のベストフィットタイプに対する批判ではない。質問紙はタイプそのものを議論しているわけではないので、MBTIの理論通りにならないところがあっても当たり前である(だからこそ、質問紙のあとにわざわざセッションをやって、受講者本人の手でタイプ判定させている)。もしMBTIを批判したいのであれば、ベストフィットタイプを対象に議論すべきである。
そして選好そのものは、「実際にどれくらい数学が好きか、嫌いか」と同様に、客観的な(他者と比較できる形の)数値に置き換えることが出来ないものである。MBTIが提唱する理論(二分法やダイナミクス)を客観的指標で議論する術がない以上、MBTIには反証可能性がないと言わざるを得ない。つまり、批判・否定することができる理論ではないので、科学ではないのである。
- https://www.mbti.or.jp/what/zirei2_a.php
- https://www.mbti.or.jp/what/zirei2_g.php
- MBTI Manual: A Guide to the Development and Use of the Myers-Briggs Type Indicator, 3rd Edition Paperback
ソシオニクス
ソシオニクスはMBTIと別の意味で難しい。というのも、ある程度調べたことのある人ならわかると思うが、様々な見解や理論が乱立しているからである。
様々な学派
ソシオニクスには様々な学派があり、それぞれで理論やタイプ判定のやり方が異なっている。有名どころだけでも下記の5種類ある。ある学派では中心的な理論が、別の学派では採用されていないこともある。
- Humantirain (Gulenko)
- Systemic (Ermak & Eglit)
- Associative (Tangemann)
- Instrumental (Kalinauskas, Golichov, Reinin etc)
- Physiognomic (Filimonov & Duchovskoi)
そういう意味では、「何が正しい情報か分からないとイライラしてくる。誰かハッキリ答えを教えてくれ」という人や、「少なくとも『公式はこう言っている』という情報がないと困る」という人は、ソシオニクス自体にあまり向いていないかもしれない(ソシオニクス的に言うと、こういう人は「二分法の客観主義に該当する人で、ガンマクアドラかデルタクアドラの可能性がある」と解釈されるかもしれないが)。
ソシオニクスとは何のタイプなのか
ソシオニクスとは「情報代謝のタイプ」である(情報代謝を補完するものとして、モデルGのようにエネルギー代謝という考え方を取り込んでいるものはあるが)。この情報代謝という考え方は、ユングにもMBTIにもないもので、ケピンスキーという人が提唱した情報代謝の理論を取り入れたものである。そして性格特性の傾向のタイプではない。
MBTIとソシオニクス
ソシオニクスとMBTIは、どちらもユングの影響を受けてそれぞれ別々に作られた姉妹理論である。
たまに「ソシオニクスはMBTIの派生理論である」と言われることがあるがこれは間違い。そもそもソシオニクスの提唱者・作者であるオーシュラは、MBTIの存在自体を知らなかったほどである。
- Moshenkov, Sergei; Wing, Tung Tang (2010). MBTI and Socionics: Legacy of Dr. Carl Jung. CreateSpace. p. 216.
- Введение в соционику
定義の差異
ユング・MBTI・ソシオニクス間で機能(ソシオニクスの場合、情報要素)の定義に違いがあることは有名だが、この違いの理由はソシオニクスは「ユングをモデル化すること」を目的に作ったわけではないからである。実際、上述したようにソシオニクスのコンセプトには、ユングだけではなく、ケピンスキーの影響が強く含まれる。
ソシオニクスからは脱線するが、MBTIはこの点がやや曖昧である。MBTI作者のマイヤーズとブリッグスは一応「カール・ユングの人間の発達に関する理解、心理的タイプを含むユングの理論モデル、個性化のプロセスの概念、精神の構造に対する、最も有望なアプローチを提供すること」を目指していたとされるが(英語版MBTIマニュアル第三版の序文 p XVより)、それと同時に「最初の (1962年) マニュアルで、イザベル マイヤーズは母親であるキャサリン C. ブリッグス (MBTIの共著者) が、ユングの理論の発見よりも前に、タイプに関する彼女のオリジナルの理論を持っていたことを認めた」ともある(英語版MBTIマニュアル第三版の序文 p XVIIIより)。MBTIとユングの間で見られる差異は、ブリッグスのオリジナル理論とユングの理論間の違いと、マイヤーズおよびブリッグスが前者を優先したことから生じた可能性はある。
話はそれたが、ソシオニクスは(おそらく部分的にはMBTIも)、ユングのアイデアを取り入れていること自体は間違いないが、あくまでも「それぞれの理論の提唱者が、自分の中のアイデアを形にするために、ユングの理論の中から使えるものを部分的に拾い上げて取り入れた」というべきものである。その結果として、この3つの理論の間で様々な違いが生じているのである。
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このような違いがあるのに、なぜ表記法は似ているのかと思う人がいるかもしれない。
ソシオニクスの表記法がMBTIと似ているのは、旧ソ連系の言語から英語に翻訳されたときに、英語圏で馴染み深いMBTI風の表記で翻訳されたためである(本サイトも英語圏の表記ルールに合わせている)。
ソシオニクスの本場である旧ソ連系言語の文献では、タイプ表記は「ロベスピエール」「分析家」などのニックネーム表記が多く、ついで「LII」という3文字表記が多い。4文字表記はほぼないが、稀に「INTJ」と表記されることはある(すべて大文字、J/Pスイッチなし。英語圏の4文字表記では通常「INTj」と表記される)。
機能について言えば「関係性の論理」という表記法が多く、それを省略した表記法も多い(あえて日本語にするなら、関係性の論理→関論のような書き方)。また、シンボル表記「□」や、そこから派生した「白の論理」、「白論」という書き方をすることも多い。1文字表記はあまりみられず、「内向論理」という書き方もあまり見られない。「Ti」という書き方に至ってはかなり稀である。
- MBTI Manual: A Guide to the Development and Use of the Myers-Briggs Type Indicator, 3rd Edition Paperback
能力的な側面の有無
ソシオニクスの情報代謝には能力的な側面がある(記事「機能の次元」参照)。この点でも、MBTIの「選好」という考え方とは全く異なっている。
例えるならMBTIが「数学は好きか嫌いか」だけを議論するための類型だとしたら、ソシオニクスとは「数学は好きか嫌いか、数学の成績は良いか悪いか」を全部まとめて一気に議論しようとしている類型である。
16Personalities
16Personalitiesとは何のタイプなのか
16Personalitiesは性格特性の理論であるビッグファイブを参考に作成された「性格のタイプ」の理論である。もし「性格のタイプ」について話したいのであれば、MBTIでもエニアグラムでもソシオニクスでもなく、16Personalitiesがオススメである(同様にビッグファイブを元に作成された類型にはグローバル5 SLOANがある)。
MBTIと16Personalitiesの違い
16Personalitiesは、一見するとMBTIっぽく見えるが、タイプの呼び方がMBTIに似ているだけで、MBTIではなくビッグファイブから作られた「16種類の性格特性のタイプ」である。
16Personalitiesで「典型的なINTPの特徴」にほとんど合致して、「典型的なINTJの性格の特徴」にはほとんど当てはまらなかった人がいた場合、タイプは「INTP」になる。つまりMBTIは選好の類型論であるのに対し、16Personalitiesは性格特性の類型論である。
なお、16Personalitiesの理論は「Myers-Briggsや他のユングモデルに基づく理論とは異なり、認知機能などのユング的概念やその優先順位付けは取り入れていない - 16Personalities公式サイト Our Framework(外部サイト・英語) Our Approachより」と説明されている通り、INTP-TやINTP-Aだったからといって、「その人の第1機能がTi、第2機能がNe、第3機能がSi、第4機能がFe」という話はしていない。つまり、16Personalitiesの結果からは「Tiがどうこう」とか「劣等機能がどうこう」などといった話は一切できないのである。
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16PersonalitiesはMBTIモドキ扱いされていたりするが、「ものさし」と「はかり」に優劣がつけられないように、16PersonalitiesとMBTIの優劣は単純に決められるものではない。もしも個人や集団の性格特性を分類したり、その傾向について調べたいのであれば、16Personalitiesのほうが向いている。
一方で、内面の動きについて考えたいのであればMBTIのほうが向いている(他人の内面について考える場合、他人がMBTIについて理解した上でベストフィットタイプを判定し、それを公開していることが必要になるが)。
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ちなみに16Personalitiesが提供しているWorld Personality Map(外部サイト・英語)では、国別のタイプの傾向を見ることが出来たり、日本のタイプ分布を知ることも出来る。2022年2月のデータによれば、日本で最も多いタイプはINFP-T(12.91%)であり、最も少ないタイプはENTJ-T(1.01%)である。詳しい順位はJapan Personality Profile(外部サイト・英語)を参照。
「感情」について
英語やロシア語やドイツ語において「感情」を表す言葉は多いが、日本語では全て「感情」と訳されるため、「感情」の解釈でしばしば混乱が起きているのが見受けられる。ここではMBTI、ソシオニクス、16Personalitiesそれぞれの枠組みにおける「感情」について整理したいと思う。
例として「あいつは感情的すぎて話し合いができない(He's too emotional to engage in a discussion)」という文について、MBTI、ソシオニクス、16Personalitiesの観点から比較してみたい。
MBTIの「感情」
「あいつは感情的すぎて話し合いができない(He's too emotional to engage in a discussion)」:MBTIとは無関係。
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MBTIの感情タイプの「感情」はFeelingであって、Emotionではない(過去の米国版MBTI公式サイトにはこの点が注意点として記載されていたことがある)。書籍「MBTIへのいざない」では思考タイプと感情タイプについて次のように説明されている。つまりMBTIのT型/F型は感情的(Emotional)な人かどうかとは無関係の指標であり、「感情的だからF型(あるいはT型)」というのは誤った推測である。
- 集めた情報についての結論を導き出すときに、分析し、因果関係から判断する
- 主観的な経験を論理でとらえることを重視する
- 経験している状況や対象から出ていき、それを構成する変数を見るような習慣をもつ人
- 集めた情報についての結論を導き出すときに、…自分や他者など個人の価値観や人間関係の調和に重きをおいて判断する
- 主観的な経験を、好きや嫌いと言った気持ちからとらえることを重視する
- 経験している状況の様子を見て、他者への影響を見るためにその状況の中に入っていく習慣をもつ人であり、世界を主体化してとらえる
ソシオニクスの「感情」
「あいつは感情的すぎて話し合いができない(He's too emotional to engage in a discussion)」:ソシオニクスのFe。
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英語の「感情」はFeelingとEmotionlくらいだが(細かく言えばもっとあるかもしれないがユング・MBTI・ソシオニクス文献では主にこの2つが登場する)、ロシア語の感情は①Эмоция、②Чувство、③Аффект、④Настроениеの4種類ある。このうちソシオニクス文献で頻出し、使い分けが重要になる単語は①Эмоция、②Чувствоの2つ。
Эмоция
ソシオ文献では主にEmotionと英訳される。瞬間的な強い感情反応を意味する言葉。生理学的な反応や表情を伴う。笑う、泣く、怖いなどの一時的な感情。ソシオニクスの生みの親であるオーシュラは、Эмоцияを「内分泌系の興奮や抑制の現れ」と解説している(関連記事「ソシオン」)。ソシオニクスにおいてはFe(感情の倫理; этика эмоций; ethics of emotions)に紐づけられる。
傾向的な話をいえば、意識的かつ高次元性のFeを持つタイプ(例えばESEやEIE)は、状況に応じて「わざと感情的に振る舞ってみせて、話し合いを意図的に潰す」という手段をとることが考えられるし、低次元性のFeを持つタイプ(論理タイプ)は、「そうしたいと思ってやっているわけではないけど、つい自分の感情の制御ができなくなってしまう」ということがしばしば起こりえるのではないかと思う。
補足として「ネガティブな感情表現によって議論を破綻させる」という場合、ソシオFeでそうしている場合と、ソシオSeでそうしている場合とがある。グレンコによればソシオFeの場合、①主義主張が演劇的に表現される(わざとらしいこともある)、②感情的圧力、ヒステリック、③精神面への攻撃が長時間、執拗に続くという傾向が見受けられるのに対して、ソシオSeの場合、①本気の攻撃性、②攻撃行動への躊躇いの無さ、③身体面への攻撃を示唆するような脅迫(実際に攻撃することも)が見受けられると言われる。
Чувство
ソシオ文献では主にFeelingと英訳される(ただし英語のFeelingと完全に同じ意味かと言うと、Эмоцияが一時的、Чувствоが安定的というニュアンスが入る点でやや異なっている)。
現実または抽象的なオブジェクトに対する主観的な評価態度を反映する人間の感情的なプロセス。感情全般を表す言葉として広く使用される。視覚、聴覚、触覚などの感覚や、愛情、悲しみ、喜びなどの感情。Эмоцияと比較した場合、特に「あの人が」好き、嫌い、怖い、憎いなどの安定的・持続的な感情のことをさす。
先述したMBTIの感情タイプの「主観的な経験を、好きや嫌いと言った気持ちからとらえる」という文章の「気持ち」をロシア語に訳す場合、この「Чувство」を用いるのが適当であろう。ソシオニクスでは、「あの人が」好き、嫌い、怖い、憎いなどの安定的・持続的な感情はFi(関係性の倫理; этика отношений; ethics of relations)に紐づく。
ただし「Чувство」自体はFiに限らず8種類の情報要素全般に登場する。例えばTiは「二つのオブジェクトを、ある客観的な特性(例:距離、重さ、体積、価格、強度、品質など)に基づいて比較する際に生じる論理的な感情がここ(ソシオTi)に分類されます(К логическим относим чувства, которые возникают при сравнении одного объекта с другим на основе какого-либо объективного пара・метра. )」とオーシュラによって説明されており、また、視覚、聴覚、触覚などの感覚はソシオSiに紐づくものである:関連記事「ソシオン」
【注意】ソシオFiは「自分の気持ち」というよりは、「自分自身を含むある人と、別のある人(または物)の間に生じる、主観的な引力と斥力」である。ソシオFiを「自分の気持ちを認識する力」と解釈するのは部分的に間違いであるため注意が必要である。
なぜ部分的に間違いであるのかと言うと、日本語で「自分の気持ち」と言った場合、「私はBさんが好きだと認識する力」以外にも「私は今怒っていると認識する力」「私は今楽しいと感じていると認識する力」という、ソシオFeの部分まで含まれてしまううえに、「Aさん(自分以外の誰か)が、Bさんに好意を持っていると認識する力」や「Aさんが、Cという絵画に心惹かれていて、それを欲しいと思っていると認識する力」といったソシオFiに含まれるべき部分が抜け落ちてしまうためである。補足として、実用性や必要性から生じたわけではなく「なぜか心惹かれる」という類の物欲はソシオFiに含まれる。実用性や必要性由来の物欲はTe、部屋や衣服全体の美的調和性を高めるためのパーツが欲しいという場合の物欲はSi、自分の縄張りを拡大するという意味での所有欲はSeである。
Аффект
短期間と強い強度を特徴とする爆発的な性質の感情的プロセス。情動や感情の高まり。ソシオニクスではあまり焦点があたらないものの、分類するのであればソシオFeに含まれるのではないかと思われる。
Настроение
「気分」や「ムード」など。一時的で変わりやすい心理状態を示す。例えば、楽しい気分、憂鬱な気分、怒りっぽい気分など、その時々の精神的な状態を表す言葉。政治的ムードなどの「ムード」(誰かに対する期待のムードや落胆のムードなど)もこの単語を使用する。ソシオニクスではあまり焦点があたらないものの、主にソシオFeに紐づけられるか、または文脈によっていくつかの他の情報要素に分散されるのではないかと思う。例えば「勝利のムードが漂っている」というのはソシオFeだが「眠気を催すような、心地よく、リラックスしたムードが漂っている」というのはソシオSiである。
16Personalitiesの「感情」
「あいつは感情的すぎて話し合いができない(He's too emotional to engage in a discussion)」:16Personalitiesの「-T」。
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16Personalitiesでは、FeelingとEmotionの違いが曖昧である。公式サイトではF形について「Feeling individuals are sensitive and emotionally expressive.(F型は敏感で、感情表現が豊かです。)」と書かれている。
16Personalitiesはビッグファイブに基づく理論であるため、ビッグファイブという意味で考えた場合、冒頭の「あいつは感情的すぎて話し合いができない」という意味での「感情的」という特性は、16PersonalitiesのF(ビッグファイブの高協調性)というよりは、16Personalitiesの-T(ISFP-Tなどの末尾の-Tの部分:ビッグファイブの高神経症傾向)に依存すると思われる。つまり-Aのタイプ(例:ENTJ-AやISFP-A)と比較して、-Tのタイプ(例:ENTJ-TやISFP-T)のほうが「感情的過ぎて話し合いができない」傾向が強いといえる。
ただし16Personalitiesのような特性論の場合、人口分布をつくれば-Aと-Tの中間的な特徴の人(状況次第でどちらの特徴にも当てはまる人)が最も多くなる。よほど極端な-Aや-Tでない限り、タイプに関わらずほとんどの人が「ある時は感情的になり、別のある時は冷静になる」という特性を示すので、「-Aはいつも冷静」「-Tはいつも感情的」と考えるのは早計である。
補足
ユング(タイプ論)の「感情」
ユングはドイツ人であるが、ドイツ語での感情にはGefühleと、Emotionenの2種類がある。類型論関連の文献では、Gefühleは英語のFeeling、Emotionenは英語のEmotionとして翻訳されることが多い。ユングのタイプ論において、感情タイプという意味での感情は「Gefühle」である。
Emotionen:気分、感情の興奮、感情として経験され表現されるものの全範囲をカバーする言葉。① 喜怒哀楽などの感情(= Gefühle)+ ② 心拍数や笑い声などの物理的反応 + ③ 思考プロセス(記憶、意志決定)の3種類を含む。
Gefühle:恐怖、希望、喜び、嫌悪、失望など、名前がわかっている感情をカバーする言葉。
おわりに
類型情報を見るうえで「それが何のタイプであるのか」というのは非常に重要な点だと思う(特にタイピングに興味がある場合)。
そうじゃないと「〇タイプの特徴」を見るたびに「ひょっとして自分は×タイプじゃなくて〇タイプなのでは」と迷う羽目になるし、「お前は本物の〇タイプじゃない」と言われた時に困ってしまうからだ。