「J/Pスイッチ」の問題は、MBTIを介してソシオニクス・コミュニティに参加するほとんどの人が遭遇する問題です。このJ/Pスイッチは、MBTIとソシオニクスの対応関係のひとつとして提案されているものですが、これは絶えず議論の対象になっています。
最も重要な問題は、この2つの類型が(単に見た目が似ているというのではなく)「同一である」と言えるような機能の定義を持っているかどうかという点です。そうでなければJ/Pスイッチの問題は考える意味がありません。それよりももっと他の問題について考える必要があるでしょう。
J/Pスイッチの起源と意味
一部の人々は、以下のような主張をします。
- MBTI:IxxJ = ソシオニクス:Ixxp(J/Pがスイッチ)
- MBTI:IxxP = ソシオニクス:Ixxj(J/Pがスイッチ)
- MBTI:ExxJ = ソシオニクス:Exxj
- MBTI:ExxP = ソシオニクス:Exxp
この主張の理論的根拠は、MBTIとソシオニクス、2つの理論の機能モデルの同等性に基づいています。
MBTIの内向タイプの場合、MBTIのIxxJの第1機能は内向知覚機能(SiまたはNi)であり、MBTIのIxxPの第1機能は内向判断機能(FiまたはTi)です。そしてMBTIでは内向タイプは第2機能である外向機能を通じて外界と接触するとされており、(ソシオニクスとは違って)第1機能ではなく、第2機能を通じて外界を判断、あるいは知覚をするというように定義されています。MBTIの第1機能が判断機能の場合、第2機能は知覚機能です。MBTIの第1機能が知覚機能の場合はこの逆です。
MBTIの外向タイプの場合、世界と接触して知覚したり判断を下すのは第1機能です。
したがって、例えばMBTIのINFPの機能の構造を見ると、そこにソシオニクスのEII(INFj)の機能の構造を見ることが出来ます。
- INFP:
第1機能 Fi, 第2機能 Ne - EII(INFj):
第1機能 Fi, 第2機能 Ne
このように、公式のMBTIのJ/Pの定義は、機能的同等性 [1]を前提とした場合、二分法の動的/静的と同じ構造になっていることがわかります [2]。
例えば、LII(INTj)は静的タイプですが、J/Pスイッチに従えば、MBTIではINTPとなると予想されます。またILE(ENTp)も同じく静的タイプですが、J/Pスイッチに従えば、MBTIではENTPになると予想されます。
ソシオニクスのLII、LSI、EII、ESIは合理タイプであり、jタイプ(jは小文字)とも呼ばれますが、これら4タイプはいずれも静的タイプです。
つまりJ/Pスイッチが正しいと仮定した場合、「MBTIのPタイプ(知覚タイプ)はソシオニクスの静的タイプに対応する」という考えを導き出すことが出来ます。
これは言い換えれば、「J/Pスイッチという考え方は、MBTIの二分法である知覚(P)/判断(J)は、ソシオニクスの二分法である静的/動的に対応するという考え方である」ともいえます。
J/Pスイッチに対する議論
J/Pスイッチは正しくないという立場もあります。MBTIは直接的に内向性と外向性を測定しておらず、また、ソシオニクスとは異なる方法で機能とモデルを定義しているため、MBTIの機能と、ソシオニクスのモデルAで定義されている機能とを、完全に同じ概念として比較することは出来ないというのが彼らの主張です。
J/Pスイッチへの否定的な主張を支持する論拠のひとつとして、「タイプの説明のされ方」に着目されることがあります。機能順序を無視してタイプの説明に焦点を当てた場合、MBTIの内向知覚タイプ(IxxP)の説明は、ソシオニクスの内向非合理タイプ(Ixxp)の説明と最もよくフィットしているという主張は多いです。例えばタイプの説明という観点から見た場合、MBTIのINFPに最も近いのは、ソシオニクスのIEI(INFp)です。
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また、それ以外に多い主張として、「MBTIは多くの点でソシオニクスとは異なっており、ソシオニクスほど洗練されていない理論である。それゆえMBTIタイプの観点からソシオニクスのタイプを明確に測定しようとする試みには本質的に欠陥がある」というものがあります。ソシオニクスは、もともとタイプ間の関係性に基づいて開発された理論であり、ソシオニクスの二分法には(MBTIの二分法とは異なり)、それが反映されています。
この見解の支持者は、しばしばMBTIとソシオニクスのタイプ間に何らかの相関があることは認めますが(例えば、MBTIのESTJは、ソシオニクスではNFよりSTである可能性のほうが高い)、基本的にはMBTIのタイプが何であれ、ほとんどのソシオニクスのタイプになる可能性がある(また逆にソシオニクスのタイプが何であれ、ほとんどのMBTIタイプになる可能性がある)と想定しています。
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「タイプの説明のされ方」に着目して考えるのは、MBTIに精通した後にソシオニクスを調べる人にとっては、より参考になる考え方ではないかと思われます。
機能順序を見ると混乱しますが、多くのMBTIプロファイルに記述されているタイプは、原則としてJ/Pスイッチしていないソシオニクスのタイプにより類似している傾向があるからです [3]。
また、定義の違いはあっても、全体として「MBTIの判断(xxxJ)」は「ソシオニクスの合理(xxxj)」に似ており、「MBTIの知覚(xxxP)」は「ソシオニクスの非合理(xxxp)」に似ています。これを踏まえると、「外向判断タイプがソシオニクスの合理タイプに似ているが、内向タイプの場合はその逆である」というJ/Pスイッチの考え方はナンセンスです。
その他、J/Pスイッチに関連する要素
J/Pスイッチの成り立ちとは裏腹に、J/Pスイッチの議論には、関連する様々な要素が持ち込まれることが多いです。J/Pスイッチに反対する人々は、その理由として、気質の考え方とMBTIタイプのそれに関連するグループ分類の間の類似性を持ち込むこともあります。
一方で、クアドラの価値/非価値(別名:尊重/控え目)に関わる概念は、混乱の要因となりうるものとしてよく取り上げられます。具体的には、外向的感覚 Seを価値機能として持つタイプ(ベータ・クアドラとガンマ・クアドラ)は時折、行動志向な人として形容されますが、これは合理性と混同される可能性があります。外向的直観 Neを価値機能とするタイプ(アルファ・クアドラとデルタ・クアドラ)は、ときに推測的で、新しいチャンスにオープンな人であるとして形容されますが、これは非合理性と混同される可能性があります [4]。
このような混乱を含む推論(Se価値=合理性に類似、Ne価値=非合理性に類似という混乱を含む推論)に基づけば、MBTIのJ/Pという二分法は、ソシオニクスの二分法「賢明/果敢」に類似していると見なせてしまうかもしれません。
しかしこの「Se価値=合理性に類似、Ne価値=非合理性に類似」という推論を採用する場合、外向感覚タイプのJ/Pをどう解釈するかという問題が残ります [5]。
経験的なデータ
Dmitri Lytovは、MBTIの代わりにカーシー・タイプの説明を使用して、ソシオニクスとMBTI(カーシー)の間の対応に関する実験を行っています。この実験は、108人のソシオニクスの専門家に対して、「全てのカーシーのタイプの説明」を読んでもらい、「どのカーシー・タイプが、どのソシオニクス・タイプの説明に近いと思うか」を回答するよう依頼したものです。
この実験結果に対してLytovは「カーシーとソシオニクスの間には相関関係がない」という結論を導き出しています。しかしながら、この結果からは、次のような結論を導き出すことも可能です。
- カーシーの内向直観タイプ(INxx)では、ややJ/Pスイッチを支持するような結果が得られた。
- カーシーの内向感覚タイプ(ISxx)では、J/Pスイッチを支持するような結果は全く得られなかった。
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ただし、カーシーのINTJの説明がどのソシオニクス・タイプに近いかを評価する際、ソシオニクスの専門家たちは内向タイプ、具体的にはLII(INTj)やILI(INTp)ではなく、ではなく外向タイプ、具体的にはSLE(ESTp)やLIE(ENTj)を選択する傾向があったため、この実験結果から過度に何らかの結論を読み取ろうとするのは危険かもしれません。この結果は、カーシーとソシオニクスの相関関係という観点からすると、奇妙としか言いようがないものです。
さらにこの論文では、この研究が類型間の決定的な対応関係を表すものではないことを認めています。またカーシー自体が、MBTIよりもさらに「ソシオニクスから遠い類型論」であるという考えも明記されています。
その他の対応関係の例
MBTIの「判断/知覚」が、ソシオニクスの二分法「賢明/果敢」に対応しているのではないかという説があります(MBTIの判断=ソシオニクスの果敢、MBTIの知覚=ソシオニクスの賢明)。その理由は、ソシオニクスでは内向的直観 Niは時間認識や順序(シーケンス)に関連しており、外向的感覚 Seは行動に関連しているとされることがあるからです。
同様に、判断/知覚は、しばしばMBTIの専門家によって、人の時間に対する指向性に関連しているというように議論されることがあります(選択肢が与えられた場合、計画があるほうが好きか嫌いかという意味で)。しかしこの仮説も同様に議論の余地があります。
訳注
- ^ 機能的同等性:MBTIのFi,Fe,Ti,Te,Ni,Ne,Si,Seと、ソシオニクスのFi,Fe,Ti,Te,Ni,Ne,Si,Seが同じ概念を刺していること。
- ^ ソシオニクスの定義上、ソシオのIxxjとExxpは静的、ソシオのIxxpとExxjは動的である。J/Pスイッチのルールに従って、Ixxj=IxxP, Exxp=ExxP、Ixxp=IxxJ, Exxj=ExxJという風にソシオタイプをMBTIタイプに変換した場合、ソシオの静的はMBTIのIxxP、ExxP、ソシオの動的はMBTIのIxxJ、ExxJに対応することになる。
- ^ ソシオニクスとMBTIの分布を調査した結果でも、同様の傾向が観察されている。関連記事「ソシオニクス x MBTI の分布」
- ^ Se価値タイプのIEI(INFp)は、J/Pスイッチした場合はINFJであるが、タイプの説明に着目した場合は記事本文でもあるように「IEIは、MBTIのINFPに似ている」と言われることのほうが多い。しかしながら、IEIのSe価値的な特徴として「行動志向」という部分に着目し、それを合理性ゆえの特徴だと混同してしまった場合、「IEIを、MBTIの判断タイプであるINFJへ変換するのは妥当である」という推論が成り立ってしまう。だからこそJ/Pスイッチ否定派は、クアドラの価値/非価値を「混乱の要因となりうるもの」として考えている。
- ^ ソシオニクスの外向感覚タイプには、Se価値(ベータ・クアドラとガンマ・クアドラ)のSLE(ESTp)とSEE(ESFp)と、Ne価値(アルファ・クアドラとデルタ・クアドラ)のESE(ESFj), LSE(ESTj)が存在する。J/Pスイッチのルールに従えば、SLE(ESTp)=ESTP, SEE(ESFp)=ESFP, ESE(ESFj)=ESFJ, LSE(ESTj)=ESTJに変換すべきであるが、一方で「Se価値=合理性に類似、Ne価値=非合理性に類似」という推論に従って変換するのであれば、Se価値のSLE,SEEはESTJ,ESFJに、Ne価値のESE, LSEはESFP, ESTPに変換すべきだということになってしまい、矛盾が生じる。