はじめに
日本ではユングに由来する考え方からソシオニクスの情報要素を解釈することが多いですが、ソシオニクスにはユング以外の要素も取り入れられています。下記はソシオニクスの生みの親オーシュラの書籍「人間の双対性(О дуальной природе человека)」の「誰が何に興味を抱き、誰が何に精通しているのか(5. Что кого интересует и кто в чем разбирается)」章からの抜粋ですが、この話はその一端がうかがえる内容なので「ソシオニクスの情報要素の定義は、なぜこんなにユングやMBTIと違うのか」と気になる方はご覧いただけたら幸いです。(サイト管理人より)
情報要素の原点
誰が何に興味を抱き、誰が何に精通しているのか
自分のニーズを満たすために、人は周囲の現実世界の全体を見渡す必要があります。人は協力し合って社会に奉仕します。私たちの現在の理解によれば、この現象のメカニズムは非常に単純なものです。現実の個々の側面が、分化と認識の程度を変えながら、脳に反映されます [1]。
個人で使用する情報は比較的おおまかに脳に反映され、その一方で社会に向けて伝達される情報は、非常に精緻な形で反映されます。そのため後者の情報は、言語形式で、他者にも理解できる形で伝達できます。
この現実の個々の側面とは一体何でしょうか。
生物が環境に適応するということは、身体活動の絶え間ない連鎖だといえます。人の周囲に起こる、客観的な世界のすべても、身体活動の連鎖に他なりません。私たち自身に起こることや、私たちの周囲で起こることはのすべては、身体活動の連鎖であると言えます。そして身体活動の連鎖とは、人という内燃機関の4つのサイクルに他なりません:
- ポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)
- ポテンシャルエネルギーから運動エネルギーへの変換
- 運動エネルギー
- 運動エネルギーの使用
上記は、人をとりまく世界の認識の4つの側面であり、それぞれ異なる典型的性質があります。そして人は、この異なる4種類の側面(言い換えると4種類の異なる典型的性質)を、異なる認識で知覚します。
例えば、ある人は、他の人の潜在的な可能性や能力についてより理解があります(言い換えれば、「1.位置エネルギー」に対する理解があります)。別のある人は感情的な生活について理解があります(言い換えれば、「2.位置エネルギーから運動エネルギーへの変換」に対する理解がある人です)。そしてさらに別のある人は、彼の仕事の仕方について、より理解があります(言い換えれば、「4. 運動エネルギーの使用」に対する理解がある人です)
これらの4つの側面それぞれにシンボルを割り当て、人の情報代謝の外向的要素と呼ぶことにします:
- Ne - ポテンシャルエネルギー(=位置エネルギー)
- Fe - ポテンシャルエネルギーから運動エネルギーへの変換
- Se - 運動エネルギー
- Te - 運動エネルギーの利用
しかしながら私たちの周囲の世界は、身体活動の連鎖のみで成り立っているわけではなく、それらの相互作用の場としても成り立っています。これを心理的な場(心理的領域)と呼ぶことができます。
このように、人を取り巻く周囲の世界には、さらに4つの次元が存在します。こちらも4つそれぞれが異なる典型的性質を持っており、人はそれを4つの認識によって知覚します。先ほどと同様にそれぞれシンボルを割り当て、人の情報代謝の内向的要素と呼ぶことにします:
- Si:同時に発生するプロセス間の関係性(空間的な関係性)
- Ni:連続的なプロセス間の関係性(時間的な関係性)
- Ti:2 つのオブジェクト間の客観的な関係性と、その個々のプロパティ - オブジェクト間の関係、またはオブジェクトによるオブジェクトの測定
- Fi:2つのオブジェクト、またはオブジェクトとサブジェクトの間の主観的な関係性 - 引力と斥力
これらの情報要素を通して、人は次の情報を受け取ります。
- Si:空間の質。つまり、その空間で起こること、その空間にいる人々の快適さに関する情報。
- Ni:時間的なプロセス・イベント・アクションの関係性、時間の有無、未来の危険性または安全性に関する情報。
- Ti:オブジェクト間の客観的な関係性(重量、サイズ、価値など、つまり比較可能なあらゆるパラメータ)に関する情報。
- Fi:オブジェクトやサブジェクト間で生じる引力と斥力。互いの必要性と無用性、好きと嫌い、愛と憎しみに関する情報。
◆◆◆
ところで、グラフィックシンボルの起源について少し説明をしたいと思います。
我々は表1の通り、外向的感覚(Se)に円形のシンボルを割り当てました。これは外的世界全体との最も完全な接触というイメージを呼び起こすシンボルです。そして外向的直観(Ne)には、「外向的感覚シンボルである円の中に完全に収まる三角形」をシンボルとして割り当てました。論理のシンボルと倫理のシンボルは、同じプロセスの外面的形式と内面的形式を表します [4]。論理には、思考の厳密さの象徴として正方形のシンボル(Te)を割り当てています。同じ現象の、内面的な感情の高まり・激しさを意味するものとして、論理シンボルの正方形とフィットする形状の記号から、倫理シンボル(Fe)の形が決定されました。外向的倫理シンボルの右上のくぼみに、外向的論理シンボルである正方形をはめ込むと、1つの大きな正方形が出来上がります。
◆◆◆
内向的要素は、同種の外向的要素の色違いのシンボル (Si、Ni、Ti、Fi) を割り当てました。
まとめると、情報代謝の過程で、人は情報代謝のための8つの要素(情報要素)を使用します。この8つの情報要素それぞれが、人の周囲の世界の客観的側面を反映しています。表1は、これらの要素にそれぞれ条件付きの名前を割り当てたものです。
人は皆、情報代謝の8つの情報要素全てを持ち合わせています。つまり私たちは皆、同じ形式の情報の認識と情報処理を使用しています。しかしながら、知的な努力が必要な複雑な状況下では、8つの要素のうち、2つの要素(外向的な要素1つと、内向的な要素1つから構成されるペア)だけを信頼する傾向があります [5]。これが人の情報代謝タイプを決定し、あるタイプを論理タイプ、別のあるタイプを倫理タイプと呼ぶことに繋がっています。
この特に信頼される2要素は、他の要素よりも知的で意識的であると言えます。したがって、もしも人が知的であろうとするほどに、または自分が知的な人だと見られたいと願うほどに、8つの要素全てを使うのではなく、活動の種類を問わず、可能な限りこの2要素だけを使いたがります。例えば論理的思考が発達している人は、自分の感情について話すことを避けようとしますが、これも彼が信頼する2要素だけを使用した結果生じた行動です。
表2は、筆者らが使用している全16種類の情報代謝タイプをまとめた表です。
筆者らは、リトアニア・ソビエト社会主義共和国 [6]において、どのようなソシオニクス的特性やタイプが一般的であるのか、その分布の調査を行いました。100人の男性と、100人の女性を対象に調査しており、その結果は表2の通りです。200人という数は、リトアニア全体を代表すると言えるだけの数と考えるには少なすぎることは明らかです。しかしながら、男性にしか存在しないタイプや、女性にしか存在しないタイプはないということを理解するには十分なデータです。
「女性らしさ」と「男性らしさ」という言葉には相対性が存在します。つまりタイプごとに、「女性らしさ」「男性らしさ」という言葉の意味に幅があるのです。外向タイプの人は、内向タイプの女性に真の女性らしさを見出し、内向タイプの人は外向タイプの女性に、真の女性らしさを見出します。外向的な女性は、内向的な女性の中に真の女性らしさを見出します。そして内向的な女性は外向的な女性の中に、あるいは論理的な思考の人は倫理的な思考の人の中に、倫理的な思考の人は論理的な思考の人の中にそれを見出します。絶対的な女性性も絶対的な男性性も存在しません。異なる精神構造を持つ女性と男性が、肉体だけでなく、精神においても適切に補完された場合、理想的な女性、または理想的な男性になります。
したがって、精神構造の補完 [7]についてさらに話す際、不要な混乱を避けるために、性別は考慮に入れません。感覚、直観、論理、倫理タイプの情報代謝を持つ個人として説明をしています。便宜上「彼」と表記することもありますが、これは「彼女」と置き換えることができます。
今回の調査では、特定のサンプルではタイプの比率に極端な偏りが見られます。1978年から1979年にかけて行われた、ヴィリニュス教育研究所の学生29人を対象としたグループでは、先導機能が倫理である学生は28人であったのに対して、論理である学生は1人であり、内向タイプが20人、外向タイプが9人でした。
タイプ | 男性 | 女性 | |
---|---|---|---|
合理タイプ | |||
論理・感覚・外向:LSE | TeSi | 5 | 2 |
論理・直観・外向:LIE | TeNi | 4 | 2 |
論理・感覚・内向:LSI | TiSe | 6 | 3 |
論理・直観・内向:LII | TiNe | 6 | 5 |
倫理・感覚・外向:ESE | FeSi | 3 | 10 |
倫理・直観・外向:EIE | FeNi | 5 | 9 |
倫理・感覚・内向:ESI | FiSe | 3 | 4 |
倫理・直観・内向:EII | FiNe | 3 | 10 |
非合理タイプ | |||
感覚・論理・外向:SLE | SeTi | 9 | 3 |
感覚・倫理・外向:SEE | SeFi | 4 | 9 |
感覚・論理・内向:SLI | SiTe | 12 | 8 |
感覚・倫理・内向:SEI | SiFe | 7 | 15 |
直観・論理・外向:ILE | NeTi | 11 | 4 |
直観・倫理・外向:IEE | NeFi | 10 | 6 |
直観・論理・内向:ILI | NiTe | 8 | 2 |
直観・倫理・内向:IEI | NiFe | 4 | 8 |
集計 | |||
合計 | 100 | 100 | |
外向 | 51 | 45 | |
内向 | 49 | 55 | |
論理 | 61 | 29 | |
倫理 | 39 | 71 |
訳注
- ^ 現実の個々の側面:Te,Ti,Fe,Fi,Se,Si,Ne,Niの8つの情報アスペクトのこと。アスペクトは直訳すると「側面」。分化と認識の程度:よりソシオ的に言い換えて例を挙げると、「ある人はタイプがILEであるが、この人はNeという情報(周囲の現実世界の情報)を4次元性(分化の程度)、先導機能(認識の形)という形で脳に反映する。しかしFiという情報はそれとは異なる分化の程度、認識の形で脳に反映される」という意味。
- ^ オブジェクトは客体。サブジェクトは主体とも訳せる。オブジェクトは自分以外の物や人、概念を指す(客観的に見た場合の自分自身も含む)。サブジェクトは自分自身(主観的な自分)を意味する。
- ^ 仕事の能力:位置エネルギーや運動エネルギーといった物理学の話をここまでに行っているため、文脈的に見ればこの「仕事」も物理学用語の「仕事」の意味に由来している可能性はあるが、オーシュラはこの「仕事」を、物理学用語として使用される言葉「работой(Механическая работа)」ではなく別の言葉「труд(способности трудиться)」で説明しているため、どこまで物理学の「仕事」を意識しているかは不明。
- ^ 外面的形式と内面的形式:情報要素の二分法「外面と内面」のこと。二分法「外面」は明示的で直接的な現実の内容を意味しており、Si, Ti, Se, Teが該当する。二分法「内面」は暗黙的で間接的に知覚可能な現実の内容を意味しており、Ni,Fi,Ne,Feが該当する。関連記事「情報要素」
- ^ 2つの要素:モデルAの先導機能と創造機能のこと。
- ^ 本出典著者であり、ソシオニクスの生みの親であるオーシュラはリトアニアの人。
- ^ 精神構造の補完:ソシオニクス的な言葉でいうと双対関係にあるタイプ同士の人がペアになって互いを補完し合うこと。