はじめに
下記のような認知スタイルを、因果的決定論的認知(Causal-Determinist Cognition, CD)スタイルと呼びます。
- 分析的
- 肯定的
- 演繹的
この小グループに分類されるタイプは、以下の4タイプです。
二分法「静的」であり、認知活動は安定していて明確です。
二分法「エボリューション」 [1]であり、パーツや中間的な詳細を見落とさず、手続き的 [2] な思考を行います。
二分法「肯定主義」であり、最も有効な解決策を目指します。
知的領域
因果的決定論的認知は、形式論理、決定論的思考とも呼ばれ、いずれもその硬直性を強調しています。
この認知スタイルを持つ人々の発言は、「なぜなら」「したがって」「その結果」という接続詞(因果関係のある接続詞)によって組み立てられています。
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この認知スタイルでは、原因と結果の連鎖を構築し、説明を決定論的なメカニズムに還元するという心理的なプロセスが見られます。
現象を説明する4の方法 [3] を最初に指摘したアリストテレスの彫刻の例から言えば、この因果的決定論的認知スタイルは、「その彫刻は誰がどのような道具で作ったのか」という部分に該当します。
ILEは科学の領域で、整然としたLSIは経営管理の領域で、SEEは物質的な利益の連鎖を計算する社会的な領域で、そしてEIIは人道的な領域で、このような方法を用いて現象の説明をします。
社会的領域
アリストテレスは、この因果的決定論的アプローチの発見者だと言われています。形式的思考の基本法則は、アリストテレスの「三段論法」の理論で概説されています。しかし、それを一貫して実践した最初の人物は、幾何学の創始者であるユークリッドでした。より近年では、合理主義哲学者ルネ・デカルトが1637年に発表した『方法序説』で、その原理を根拠にしています。そして、最終的には数学的論理として形を成したのです。
因果的決定論的パラダイムは、論理的実証主義を頂点として、20世紀の終わりになるにつれて、次第にその価値が低下していくことになります。しかし、「証明」の一般的なステレオタイプとして、このアプローチは現在でも支配的です。
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因果的決定論的アプローチの利点とは何であるのでしょうか。
まず第一に、最も権威があり、最も説得力があり、極めて正しいものだと社会から認識されている点です。数学では、自明的演繹的な手法として形式化されています。これを使いこなすには、知的なスタミナが必要です。
第二に、このスタイルには、より明瞭で集中力のある属性が備わっています。最も特異な集中力を持つタイプはLSIです。しかし非合理タイプであるSEEもまた、非常に健全な議論を展開します。そのことは、彼らがある結果から別の結果を導き出し、イベントの連鎖に注目していることを暗示しています。因果的決定論的スタイルの場合、なんらかの理由でイベントの繋がりが 1 つでも破綻すると、論理的感覚を失い、行動する理由を失くしてしまいます(そして行動が難しくなってしまいます)。
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同時に、因果的決定論的アプローチには欠点もあります。それは、最も人為的・人工的であり、生命を機能させる法則から掛け離れたものだという点です。
このアプローチを使っても、根本的な発見を成すことは出来ません。確かにそれは動作メカニズムの構築にまで活用できるものではありますが、同時に、どこまでいっても既存の結果の「論理的な」定式化でしかないからです。
形式化によって生じる最初の行き止まりは教条主義 [4]です。論理的には全く粗がないにも関わらず、全く無意味な推論でしかなくなってしまうのです。
因果的決定論的アプローチの第二の行き止まりは、全体を構成要素に分解してしまうことから陥る還元主義の罠です [5] 。この欠陥は、古代の懐疑論者によっても注目されています。近代では、「あらゆる事象が厳密な理由によって決定される可能性がある」という考えに疑念を抱いた哲学者ヒュームによっても指摘されています。
実際、原因と結果という因果の長い連鎖を構築していくうちに、循環論法という空虚な論証に陥ってしまう危険性を避けられなくなっていきます。
数学者クルト・ゲーデルの「不完全性定理」は、「十分に複雑なルールシステムは、自己の無矛盾性を証明できない」ということを示しています。これによって、形式論理の適用に限界が見えたのです。
特に中世のスコラ学徒は、自明的・演繹的手法により、神の存在を厳密に証明しようとしました。その結果、原因を結果という言葉で閉じてしまい、神とは神自身について考える思考であるという循環的な定義にたどり着いてしまいました。
心理的領域
因果的決定論的認知は、教化や、極端にいえば洗脳に対する抵抗力が弱い精神性を形成します。
したがって記憶に残る印象深い言葉や行動を巧みに組み合わされることによって、因果的決定論的認知者の行動は操作されてしまうことがあります。
特に知的な因果的決定論的認知者には、「子供時代の出来事に強く影響を受ける」という特徴が見られます。これはジークムント・フロイトが発見したことですが、完全には解明されていません。
因果的決定論的認知者の習慣には、ほとんど条件反射にも匹敵すると言えるほどの硬直性が見られます。
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標準的な軍の尋問手順は、精神に及ぼす因果関係が保証されるよう設計されています。
これには、口を割らせるために睡眠時間を不足させたり、温度、湿度を変化させたり、食事を与えなかったり、その後に報酬として食事を与えるなどの方法が含まれます。
被拘束者を隔離し、段階的に制限を強めていくことで、遅かれ早かれ期待する結果を得られます。やがて、心理的な不安定さによる脆弱性によって、被拘束者は尋問者に依存するよう仕向けられていきます。
極端な危機的状況に陥ると、因果的決定論的認知者は「スローモーション・フィルム」のような心理状態になることは注目に値します。思考が異常に明瞭になり、それに伴って時間が引き延ばされるような感覚に陥るのです。主観的には数秒がまるで数分のように感じられることもあります。
これと同じように、突然の精神的な揺さぶりによるストレスは、深い眠りによってそれが回復するまで、彼らの脳の活動を著しく阻害します。
行動主義 [6]という心理学派は、この精神モデルを表しています。その主義の支持者は、行動の学習は強化-規則の遵守に報酬を与え、違反を罰することによって達成できるという主張を持っています。
バラス・スキナーは、この条件付けの因果関係によって、動物の行動は完全に決定されるというオペラント条件付け [7] の原理を提唱しました。
彼は「漸成的近接法」という方法を提案しました。これは、生徒の行動が「望ましい行動」と一致した場合、生徒が正の強化を受けるようにする方法です。
行動主義者は条件学習の概念を発展させ、その操作の基礎として、目標に向けた厳格な手続き的行動方法を確立しました。
科学的領域
アリストテレスに始まった形式的な論理思考は、因果的決定論的な世界観を生み出しました。これはニュートン力学を基礎とする古典物理学の世界観であり、20世紀初頭に至るまで支配的なパラダイムでした。
硬直的なシステムは、有機的な機構やメカニズムといったルールに従って動作します。しかし、心理や社会のような多因子プロセスに直面すると、還元主義は「複雑な現象」を「基本的な構成要素」の観点から説明する力を失ってしまいます。
さらにこの古典的パラダイムには、逆進的な傾向や進歩の妨げ、重複などといった数多くの歴史的事例があるにも関わらず、「進歩」の理想に影響されすぎてきました。
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直接的な視点で作られた図やリアリティのあるイラストという形で表現された情報は、因果的決定論的認知モデルの実例だと言えます。「視点と物体の距離」と「キャンパスに描く物体のサイズ」の比率を厳密に計算して描く遠近法を用いることで、どんな物体であっても簡単に描くことができます。
訳注
- ^ 二分法「エボリューション」は、別名「プロセス」ともいう。
- ^ 手続き的とは、確立された方法や、公式の方法に従って考えるという意味。
^ アリストテレスの四原因説。この場合の存在理由とは、物事が変化する原因という意味に近い。
1つの現象について
① 物質的な原因「その彫刻の素材は何で出来ているか。ブロンズか、鉄か」
②「そのオブジェクトの変化または安定の原則の源は何か、言い換えると、その彫刻は誰がどのような道具を使って彫ったのか」
③「それがあるべき姿、本質、あるいはイデアはどのようなものか、作ろうとしているのはゼウスか、アポロンか」
④「何の目的のためにあるのか、宗教のためか、観光のためか」
という4つの面から現象の原因を考察する。Gulenkoによると、
① ヴォーティカル・シナジェティクス的(ESE, SLI, LIE, IEI)
② 因果的決定論的(ILE, LSI, SEE, EII)
③ ホログラフィック・パノラマ的(LII, SLE, ESI, IEE)
④ 弁証法的アルゴリズム的(SEI, EIE, ILI, LSE)
だとされる。- ^ 教条主義は意訳。原文はscholasticism、スコラ哲学。形式化しすぎて空虚な論議に終始していたスコラ哲学に対する非難のニュアンスがある言葉。
- ^ 還元主義の限界を提示したものとして、ポール・ワイスの思考実験もあげられる。生きたヒヨコをミキサーですり潰したとする。生きたヒヨコとミキサーですり潰したヒヨコを比べると、物質的な意味では何も違いがないにも関わらず、誰が見ても両者は明らかに違うものである。これは生物を化学的・物質的要素に還元して考察するアプローチだけでは十分ではないことを示す思考実験だと解釈されることがある。
- ^ 行動主義とは、内的・心的状態に基づかなくても、行動は科学的に研究できるとする主義。条件反射のパブロフなどが該当する。余談だがパブロフは旧ソ連圏の人なので、同じく旧ソ連圏のソシオニクスの文献では頻繁に取り上げられる生物学者である。パブロフの条件反射は、ソシオニクスの理論自体にも影響を与えている(例:モデルAの二分法であるメンタル/バイタル)
- ^ オペラントとは「オペレート(動作)」から作られた造語。「ブザーが鳴っている時に特定の動作(レバーを押すなど)をすると、餌が出てくるケージ」に飢餓状態のネズミを入れると、やがてネズミはブザーの音に反応して素早く特定の動作を実行するように条件づけられていく。