はじめに
下記のような認知スタイルを、ヴォーティカル [1] ・シナジェティクス的(Vortical-Synergetic, VS)と呼びます。
- 合成的
- 肯定的
- 帰納的
この小グループに分類されるタイプは、以下の4タイプです。
シナジェティクスとは、「混沌からどのように秩序が生まれるか」をテーマにした科学です。古代ギリシャ語の「シナジー」は「協調作用」を意味します。シナジーという概念は現在も議論され続けています。欧米では「カオス理論」あるいは「非線形力学」と呼ばれているものです。ここでは、いわゆる散逸状態 (非平衡、非線形、不安定) によって特徴付けられることに注意することが重要です。
二分法「動的」であり、その思考は流動的で、一つの思考が別の思考に連鎖します。
二分法「肯定主義」であり、惹き付けられるものへと収束していきます。
二分法「インボリューション」であり、頻繁に後戻りしながら、以前のレベルを飛び越え、渦やとどろく嵐のように思考の流れをずらします。
IEIは、まるで万華鏡の中にいるように、虹色の気まぐれなイメージを見て、流動的に溶けては消えていきます。
LIEは極めて実験的な思考をします。多くのバリエーションを素早く分類し、その場で実用性があるかどうか、精神的にテストします。
ESEは、社会的な奔流を引き起こし、感情の乱流の跡を残していきます。思考は「群がり」、混沌としながら互いに置き換わります。
SLIは、まるで「漂流するように」良い風が吹くのを待ちます。状況が好転すると、すぐに切り替わって思考が目まぐるしく動き始めます。入ってくる情報をスクロールして、成功する可能性が最も高い選択肢と、最も低い選択肢を識別します。
知的領域
「ボルテックス [2] 」の特徴は、渦のような形で自己組織化 [3] する性質です。
このボルテックスという渦は、「成果に繋がらない選択肢やテスト、またはそれに類するもの」を素早く検索するという形で精神的に表れます。テストに基づいて試行錯誤を繰り返しながら、ゴールに進んでいきます。ある意味、頭の中で絶え間なく実験をしているようなものです。
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ヴォーティカル的認知の第一の利点は、活発さと自然さです。これは、自然界の実態に即したプロセスをシミュレートしていると言えるのではないかと思います。
もう一つの利点は、成功や幸運を信じる点です。シナジェティックは、一時的な後戻りを失敗と混同せずに、成功が訪れるまで何度でも挑戦し続けます。
一方、その最大の欠点は、知的探索がしばしば盲目的になり、不経済的になってしまう点にあります。また、ランダムで自動的である点も欠点です。シナジェティックな知性は、それ自体が触媒となる一種の連鎖反応です。これはポジティブ・フィードバック [4] なメカニズムです。抑制されなければ労力の過度な集中が起こってしまい、その後「燃え尽き」てしまいます。
シナジェティクス的な知性は、実態に即した推論によって現象を説明します。そこでは、物質(素材・基質)そのものが自然な動きで現象を起こします。アリストテレスの例 [5] でいえば、「その彫刻の素材は何(例えば大理石)で出来ているか」に相当します。
社会的領域
ヴォーティカル的認知は、自然現象に最も近いにも関わらず、それに社会的メリットがあると見られるようになったのは、他のどの認知スタイルよりも後の時代になってからでした。そうしてメリットが見出されてから、この認知スタイルは独自の知的パラダイムとして発展していきました。
自然界では、すべてのプロセスが循環していることが知られています。例えば、アダム・スミスの「見えざる手」の原理に基づく自由放任主義経済では、市場の需要と供給における自然な循環的変動が、自然に最適な価格に繋がるとしています。
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生物の進化を研究したチャールズ・ダーウィンは、進化というものが自然淘汰に対する生存競争であり、適者生存であることを発見しました。
この「進化(evolution)」の原動力は、ランダムな変化というイベントによって発生する退化(involution)であり、種Aから種Bへと進化する際、AとBの過渡期的・中間的な生物が見られるわけではなく、突然AからBへと変化することがわかっています。
生物の自己組織化は、突然変異、すなわち突然発生する、予測不可能な遺伝物質の変化によって媒介されます。進化(evolution)は有用な変異を同時に選択し、伝播させるのに対して、進化(involution)は脈打つようなカオスを発生させます。
ダーウィニズムの進化(involutionary)の流れを汲む「断続平衡説」の概念は、自然界で観察される種の不連続な発展を強調する学説です。この学説の提唱者であるグールドとエルドリッジは、「自然条件下では、種がゆるやかに・少しずつ進化することはできない」と結論付けています。
淘汰圧に抗って生き残るためには、全ての臓器や器官が正常に機能している必要があるからです。半分ヒレのような翼を持つ生き物や、半分蹄のようなつま先を持つ生き物は存在しません。
この説によると、種の寿命は、期間の異なる2つの段階に分けられるとされています。第一段階は静的な段階であり、種の大きな変化が起きない時期が長く続く段階です。そして第二段階は、種が急速に別の形態に変化するか、さもなくば絶滅するかの段階です [6] 。
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20世紀に入ると、前述したボルテックスというアイデアが再発見されます。そしてシナジェティクスはこのボルテックスというアイデアを取り入れることになります。シナジェティクスの目指すところは、ゆらぎによる秩序です。
このような揺らぎ(システム内の局所的な摂動)は、生物学的な突然変異に類似しています。複雑な社会心理システムの混沌とした進化における秩序を、ソシオニクスはクアドラ・プログレッション(クアドラの進歩)の法則 [7] を通じて理解します。
しかし、クアドラの不可逆的な進歩の中には、一連のインボリューション的な接合点 (ジャンプ、ツイスト、ターン) があることを忘れてはなりません。
こうしたジャンプ・ツイスト・ターンの影響で、実際のクアドラの進歩を曲線としてグラフ化すると、曲線がギザギザになったり、ループ状になったりするため、まるで燃え盛る炎の舌が踊っているようなグラフになります。
心理的領域
この認知スタイルは、その人の精神に「忍耐力」と「楽観的な資質」を与えます。ただし、シナジェスティックの精神は、ホログラフィックの精神よりは不安定です [8]。
シナジェスティックタイプは部分的に条件付け [9] を受けることがありますが、それでも望ましくない習慣は捨て去ってしまうことも出来ます。
正常なメンタルを生活の中に取り戻すためには、具体的な試行錯誤を長く続ける必要があります。
継続的な前進を、シナジェスティック認知者の人生から奪い取ってしまうと、精神的に悪い影響が生じます。
この認知スタイル動作原理は、「周辺状況の勢いが衰えるにつれて、強制されずに自分の運命や行動方針を自分で決定する力が衰えていく」というものです。状況的な圧力が弱ければ弱いほど、これがますます悪化します。
このような時の対策として、ポジティブ・セルフプログラミングが有効です。これはポジティブなシナリオで、邪魔な考えを脇に追いやってしまうという方法です。
IEIは眠りにつく前に、その日の不快な経験を取り除き、楽しいシーンを思い描きます。
LIEは望ましい目標を想像で思い描きます。そのうち必要な人材や資源を手に入れることができるだろうと楽観します。
ESEはシンプルに過去の失敗のことを考えないようにします。それによって自然に気分は良くなります。
SLIは元々あるシナリオの代わりに前向きなシナリオを考えだし、それを実現できるタイミングを待ちます。
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物事が発達する際にはシナジェスティックな効果が働くため、長期的な予測は無駄だという点は忘れられがちです。
アメリカの気象学者エドワード・ローレンツは、この現象を「バタフライ効果」と名付けました。アメリカのどこかの蝶の羽ばたきがインドネシアのどこかでハリケーンを引き起こすというものです。
このことからも分かり通り、複雑な非線形的現象は予測不可能です。初期のわずかな時間の影響が、大きな結果に繋がる可能性があるためです。
「ドミノ効果」も「バタフライ効果」と同じ類の現象です。最初にたった1枚のドミノが倒れるだけで、最後にはドミノ全体が倒れてしまいます。
人の意志で発生する触媒的な行動は、楽観的なシナリオと悲観的なシナリオのどちらが実際に起こるかを決定します。
科学的領域
この認知形態は、現在の世界観によって形成されるシナジー(相乗効果)を反映しています。
18世紀には、このパラダイムの中で、「太陽や惑星が宇宙の塵から渦を巻いて発生した」といカントラプラスの星雲仮説が生まれました。
シナジェティクス的なパラダイムは創造論に反しています。複雑なシステムの出現は、神の介入ではなく、自然発生的な創造を説明しているからです。
科学の歴史における典型的な例は、生化学者アレクサンドル・オパーリンの仮説を挙げることが出来ます。オパーリンは、地球誕生初期の原始的な「有機物のスープ」の中から生命が誕生したという仮説を立てました。この仮説の大部分は、1953年のスタンリー・ミラーが行った「ユーリー-ミラーの実験 [10]」によって確認されています。
また、ニコライ・アモソフの見解も、シナジェスティック的パラダイムに属するものだと言えます。彼によれば、それは「世界の自己組織化構造の進化を説明しています...奇跡が起こる可能性はありますが、実用的な価値はありません」というものです。彼は、コンピューターモデルを使えば実証的なシミュレーションを再現できると信じています。
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シナジェティクスは、歴史の過渡期における偶然性と自由意志の重要な役割を認識しています。シナジェティクスの効果を重視する学者たちは、しばしば歴史のイフ(もしも)を検討してきました。
特に英国の歴史家アーノルド・ジョゼフ・トインビーは「もしもマケドニアのアレキサンダーが死ななかったとしたら、世界はどうなっていただろうか」という考察(悲観的なバージョンと楽観的なバージョンの両方)を行っていました。
シナジェティクス的認知の現実的なモデルとして、乱流が挙げられます。乱流とは、液体や気体の流れの中で、動いている層が急激に混ざり合うことをいいます。乱流の流れは予測不可能です。同じ流体でも、層流 [11]の場合は、因果的決定論的思考で予測できる明確な規則性があります。
自然界の成長過程の数理モデルには、通常、指数関数が使われます。こうした関数は、等比数列的な発展を記述するものですが、特に動的モデリングでは、飽和点に収束するS字曲線が一般的です [12]。
S字曲線からわかることは、「自己組織化は万能ではない」ということです。一定の限界を超えると、それ自体の勢いが失速します。一定の限界に到達した後は、その時点で外部構造に屈するか、次の新たな自己組織化を作り出す必要があります。そしてシナジェティクスは自然に後者を選択します。
レフ・グミリョフは、社会的共同体が生まれ、成長し、死を迎える過程における民族形成のインボリューション的な進化について、シナジェティクスな説明を行っています。社会システムは、人々の特定の行動に対する選択のルールを規定します。
カリスマ的パーソナリティ(偏屈者、追放者、異端者)は、多種多様な社会的変異を引き起こします。そして社会は、何らかの理由(経済危機、内戦、文化の停滞など)で弱体化するまで、こういった者達を抑制しています。その後、新しい秩序のエネルギーが老朽化したシステムを一掃し、旧態のシステムに取って代わって成長を始めるのです。
しかし、遅かれ早かれ、新しい秩序自体も過去のシステムと同じように老朽化し、その深部で熟成された代替システムに道を譲ることを余儀なくされます。
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このヴォーティカル認知と最も意志疎通が難しい認知スタイルが「アルゴリズム認知」です。なぜならアルゴリズム認知者からすると、ヴォーティカル認知者の自由選択と偶然性のゲームは、アルゴリズム認知の目的論・運命論・創造主などの特別な概念と相反するものだからです。
シナジェティクスがカオスの中の暗黙の秩序について語るとき、彼らの言葉をソシオニクスの言語に翻訳するとすれば、それは「ホログラフィック認知は、その最小限の複雑な秩序構造をもって、カオスの渦と双対である」となります [13] 。
訳注
- ^ ヴォーティカル(vortical)は「渦巻き状の」という意味。
- ^ ボルテックス(vortex)は渦、旋風という意味。
- ^ 自己組織化:系全体を俯瞰する能力を持たないはずの物質や個体が、個々の自律的な振る舞いの結果として、秩序的な構造を作り出す現象。
^ ポジティブ・フィードバック:AとBが反応して、生成物Cができる反応があるとして、この生成物Cに「AとBの反応を促進する」性質がある場合、これをポジティブ・フィードバックという。
対義語はネガティブ・フィードバック。生成物CがAとBの反応を抑制する場合、ネガティブ・フィードバックという。
ポジティブ・フィードバックでは、AとBの反応が加速度的に進んでいき、生成物Cが爆発的に増加するが、ネガティブ・フィードバックではCが増えるタイミングとCが減少するタイミングが交互に繰り返すことになる。
有名どころでは、ヒトの排卵にはポジティブ・フィードバックなメカニズムが働いており、ヒトの体内時計にはネガティブ・フィードバックなメカニズムが働いている(ネガティブ・フィードバックループがあるおかげで、時計タンパク質の転写量の増減はおおむね24時間周期を刻んでいる)
^ アリストテレスの四原因説。この場合の存在理由とは、物事が変化する原因という意味に近い。
1つの現象について
① 物質的な原因「その彫刻の素材は何で出来ているか。ブロンズか、鉄か」
②「そのオブジェクトの変化または安定の原則の源は何か、言い換えると、その彫刻は誰がどのような道具を使って彫ったのか」
③「それがあるべき姿、本質、あるいはイデアはどのようなものか、作ろうとしているのはゼウスか、アポロンか」
④「何の目的のためにあるのか、宗教のためか、観光のためか」
という4つの面から現象の原因を考察する。Gulenkoによると、
① ヴォーティカル・シナジェティクス的(ESE, SLI, LIE, IEI)
② 因果的決定論的(ILE, LSI, SEE, EII)
③ ホログラフィック・パノラマ的(LII, SLE, ESI, IEE)
④ 弁証法的アルゴリズム的(SEI, EIE, ILI, LSE)
だとされる。- ^ Gulenkoのエボリューション/インボリューション(別名:プロセス/結果)にはこのアイデアが取り入れられている。前者を司るタイプはILE, SEI, EIE, LSI, SEE, ILI, LSE, EIIであり、後者を司るタイプはESE, LII, SLE, IEI, LIE, ESI, IEE, SLIである。関連記事「社会的進歩リング」
- ^ 関連記事「社会的進歩リング」
- ^ それでも二分法「プロセス」である因果的決定論的認知スタイルと、弁証法的アルゴリズム的認知スタイルよりは精神的な安定性が高い。
- ^ 条件付けの例:たまたま電車の中で体調不良を起こすという経験をした時に、「電車は体調が悪くなる場所」というネガティブな条件付けが成立してしまい、その結果、肉体的には問題なくても電車に乗るたびに実際に体調が悪くなってしまう。
- ^ 無生物的にアミノ酸を合成する実験。
- ^ 圧力分布が一様で、層状になった流れのこと。
- ^ 例:大腸菌の増殖曲線はS字曲線を描く。大腸菌を専用の培地に植菌して37度で振盪培養していると、3.5時間ほどで爆発的に増殖する対数増殖期に入り始めるが、そのまま培養を続けていると静止期に入る。静止期では、新たに増殖した大腸菌と死滅する大腸菌の数が釣り合いはじめ、それ以上菌体数が増えなくなる。さらに培養を続けると死滅期に入り、死滅する大腸菌の数の方が増え、老廃物や栄養不足の影響で生き残っている大腸菌の質も落ちてくる。
- ^ シナジェティクス的認知とホログラフィック認知は補完関係にある。下の画像は、シナジェティクスの「自己組織化の結果としての渦」と、ホログラフィックの「フラクタル構造」の両方が存在する画像。この画像を考察する場合、シナジェティクス的な視点とホログラフィック的な視点の両方の視点が必要になる。