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はじめに
影の機能モデルでは、「英雄」や「アニマ」などの元型が機能を包み込んでいるとされる。
元型に包み込まれた機能が、その元型に関するコンプレックス(英雄コンプレックスやアニマコンプレックスなど)を運用する上での視点・世界観になる。
ここでは自我(意識の領域、主観的な「私」)というという点から、元型コンプレックスに対する説明をしようと思う。
元型コンプレックスと自我状態
- 自我それ自体が元型コンプレックスである。
- 元型コンプレックスは、異なる「自我状態」または部分的に乖離した「私」の感覚である(この乖離が大きすぎる場合は多重人格障害になるが、程度が低い乖離であれば日常的に生じている)
こうした考えは、オーストリアの心理学者ポール・フェダーン(Paul Federn, フロイトに直接師事した精神分析の先駆者の一人で、自我心理学の発展に大きく貢献した人物)が提唱した 「2つのエネルギー理論」に基づいている ("Ego Strengthening and Ego Surrender" Diane Zimberoff, M.A. and David Hartman, MSWおよび"Ego States: Theory and Therapy" John G. and Helen H. Watkins, W. W. Norton & Company, New York, 1997)。
ある自我状態は、誰かに対する怒りであり、別の自我状態は、幸せであったり、悲しみであったり、情欲であったりする。これらはすべて、大脳辺縁系の感情に関連する一種の「支配的なパターン」(元型)である。これらを通して、私たちは異なる物事を感じる「私」の異なる表出パターンを持つことができる。
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以下は"Ego Strengthening and Ego Surrender"の著者ダイアン・ジンベロフ(Diane Zimberoff)とデヴィッド・ハートマン(David Hartman)によるポール・フェダーンの引用:
正常な分化のおかげで、我々は土曜夜のパーティーと平日のオフィスで異なる振る舞いをすることができます。この分離、または分化のプロセスが過剰になり、不適応状態に陥ってしまった状態のことを私たちは「解離」と呼びます(正常な「分化」プロセスは「解離」の健全な形態であると考える人もいます)。
自我状態は、次の3つのプロセスの1つまたは複数によって発達するようです。
- 正常な分化
- 重要な他者の取り入れ(他者の価値観や態度を真似し、自分のものとすること)
- トラウマへの反応。
子供は正常な分化によって、美味しい食べ物とそうでないものを区別することを学びます。このような単純な区別だけでなく、他の多くの区別も行いながら、子供は親や教師、遊び友達との関係に適した行動パターン全体を発達させ、学校や遊び場などに適応できるようになっていきます。
これらの変化はごく普通のことと考えられますが、何らかの共通原理のもとでクラスター化され、組織化された行動と経験のシンドロームだと見ることができます。また、これらは自我状態だと考えることもできます。発達の段階ごとに観察されるパーソナリティパターン間の境界は非常にあいまいで、パーソナリティパターン自体も柔軟性があります。学校に通っている子どもは、「遊び場での自分」のように振る舞いたくて仕方なくなることがあります。しかし、学校で机に向かっているとき(先生がいるとき)、「遊び場での自分」のような振る舞いをすることはほとんどありません。「遊び場での自分」と「学校での自分」という自我状態は、そこまで厳密に区別できるものではありませんが、こうした「そこまで厳密に区別はできないものの、異なっている自我状態」というものは、適応的なものであり、必要なときに適切な行動パターンを提供する上で役に立つものだと言えます。(“The Development of Ego States” (p.28-31))
元型の働き方
元型がトリガーされる状況
元型に紐づいている特定の状況に関連した経験の記憶が呼び起こされたとき、コンステレーションが生じ、それに伴って元型コンプレックスがトリガーされる。
用語解説:コンステレーション
- ユング心理学用語。「布置」と和訳されることもある。一見何の関係もない複数の事象が、ひとつのまとまりのある意味やイメージに見えるようになる状態。夜空に散らばる星が、あたかも意味を持った「星座」に見えるようになる様子から名づけられた言葉。
- ところで「優勢機能/劣等機能」などのユングの話が正しいかどうか科学的手法で検証しよう(例えば感情と思考は本当に対立する概念なのかを統計学的に検証しよう)と考える人がいるが、そもそもこうした概念は「コンステレーション」の結果生じるもの、つまり「その人にとってはそう見える以上でも以下でもないもの」であるため、こうした試みはナンセンスではないかと思う。
- これは例えるなら「大熊座と言われている方角の宇宙空間に、実際に熊が存在するかどうかを調べよう。そして熊が存在しないのであれば、あれらの星を大熊座と呼ぶのは科学的に間違っているから止めるべきだ」といっているのと似たようなものである。
具体的には劣等感・敵意・不機嫌さ・閉塞感・悪性を感じさせるものがトリガーになるが、それ以外にも影の影響を受けて「妨害され、否定され、不当に扱われている」と感じたり、「自我の整合性が脅かされている」と感じたりすることもトリガーになる。
そうしてトリガーされた元型コンプレックスに関連する機能の視点から、自分のコンプレックスを刺激した対象を見ることになる。
他者が元型を使った場合(または元型に囚われた行動を取った場合)の影響
他者が元型に応じた機能を発揮するのに伴って、自分もまたその機能に関連した記憶が呼び起こされることがある。
例えば相手がINTJ、自分がINTPであり、INTJが第3機能(子供)Fiを発揮した場合、INTPのFiは第8機能(デーモン)であるため、INTPはデーモンの視点の影響を受けることになる。
それ以外でも、自分の自我が掲げる目標に対して、相手の行動がポジティブな意味を持つか、ネガティブな意味を持つかという点も、影響を与える要因になる。
他者の元型が及ぼす内面的な影響
分化した機能の場合:
- 人は通常、他者の元型から呼び起こされた機能的視点を「見当違いなもの」とみなす傾向がある(あるはそのような機能的視点を必要とする状況に嫌悪感を抱くこともある)。ストレス下では、軽率で行き当たりばったりの方法で機能的視点に基づいた行動を取る。
未分化の機能の場合:
- 自我と対立していない場合は、上記のような影響を与えることが無い。
自分が他者に対して、どのような形で元型を使用するか
自分の元型を他者へ投影するという形で使用する(そうすることで、自我にとって負担になる元型を自分の意識の領域から切り離すことが出来る)。
下記の2パターンのどちらの場合でも、元型の投影は発生する。
- 相手がまさに自分の元型と共鳴するような行動を取っている場合。
(例えば自分がINTPだとして、相手がFiの視点からの主張を行い、それに対して自分のデーモンがトリガーされる場合) - 相手は、実際には元型に対応するような行動を取っていないが、特定の状況下で自分の元型がトリガーされてしまい、「相手がまさに元型に共鳴するような行動を取っている」と錯覚してしまった場合。
(例えば自分がINTPだとして、相手がFiとは無関係な観点の主張を行っているにもかかわらず、自分が「Fi的だ」と錯覚してしまった場合)
元型の「ポジティブな側面」が表れるタイミング
元型の「ポジティブな側面」は、普段の自分のままでは解決できない難問に直面した際など、ある種のストレスの中で表れやすい。
また、それ以外にも元型に関連するコンプレックスを自分の意識の領域から切り離そうとしたり、無意識へと抑圧するのを止めて「これもまた『私』のひとつだ」と受け入れた場合、意識的にポジティブな側面へアクセスできるようになる。
- PERSONALITY MATRIX Part 2 addendum: archetypes
- Energies and Patterns in Psychological Type: The reservoir of consciousness 1st Edition by John Beebe