カリナウスカスの輪
Grigory Reininは、現在のソシオニクスで一般的なモデルAではなく、カリナウスカスの輪というモデルを使用している。そのため機能の配置がモデルAとは異なっている。
機能 #1 – 客観的直観 (Ne)
客観的直観(Ne)は、外的状況の完全性に関わる情報要素です。外的状況の完全性とは、つまり「世界は常に調和的で、全体としてのまとまりが取れていなければならない」という意味です。そしてそれこそが、Neが第1機能に配置されているILEの原則でもあります。
ILEのNeに限らないソシオニクスの一般的な話として、第1機能では通常、非常に幅広いバリエーションが許容されますが、いずれにしてもILEは「秩序と調和が世界を支配している」という内面的な感覚を持っています [1]。
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このタイプの人々はしばしば、「すべては常に今のままであり続ける。自分は決して死ぬことはないし、病気になることもない」という幻想を抱きます。
ILEの第1機能は、彼らが見せる攻撃性の理由の一つになるかもしれません。
このタイプの人々は(例えばLSEと違って)いつ何をするか、計画を立てているわけではありませんが [2]、ある期間が終わり、次の期間が始まり、そして3つ目の期間が始まるということを察知することに長けています [3]。ILEはこの感覚に支配されています。
朝、仕事に出かけるILEを思い浮かべてください。遅刻はしょっちゅうですが、近道する場所と方法を知っているので、最終的には定刻に到着します。上司が5分遅刻するときは、彼らも5分遅刻します。とにかく彼らは時間に間に合わせることができます [4]。
こんな時、妻(ESI)が「どうせ遅刻するんだから、ゴミ出ししてってよ」と言うと、ILEはESIが思ってもみなかったような攻撃性を見せるかもしれません。しかし、上司からの「どうして遅刻したんだ」という叱責は、ILEの攻撃性を引き起こしません [5]。
「確かに遅刻しましたが、遅刻せざるを得ない客観的な理由があります。だから仕方なかったんです」
このタイプの人々は、誰かに外的状況の整合性を破壊されるのが我慢ならないのです。
機能 #-1 – 主観的直観 (Ni)
内なる状況の整合性を無視します。これは、内省の欠如と言い換えることが出来ます。ILEにとって「自分自身の中に深く入り込み、魂の内なる仕組みを探ること」は難しいことです。
「どうやって『自分の内なる世界』を分析しますか?」
EIEにとっては、これは楽しく取り組める創造的な領域の話ですが、ILEはそこから逃げています。ILEは、これについて何も知りません。
これは問題が発生する可能性のある領域です。「自分の内面を見つめなさい」と言われても、ILEは途方に暮れてしまいます。彼らにとって、この機能の動きは謎に包まれています。情報代謝 [6]の構造そのものが、この領域を完全に無視するような構造をとっているため、「自分の内面がどうなっているのか説明してください」といわれても、どう答えればいいのかILEにはよくわからないのです。
対人関係に取り組んだり、他人の問題に対処するというのは、ILEにとっても何とか理解の及ぶ話です。しかし「自分の内なる世界」はというと、彼らの理解を超えている話です。
機能 #2 – 主観的論理(Ti)
説明と理解の機能。ILEは、物事に対する独自の理解や説明を生み出します。「すべてのものは、いくつもの方法で説明できる」という感覚を持っています。
他のタイプの人々は、ILEが何にでも簡単に説明し始めることに驚くことでしょう。例えばそんなILEを見て、LSEは驚き、苛立ちます。LSEはきっとこんなことを言うことでしょう。
「あなたは一体何を言ってるんですか?私は物事の現実と実際のメカニズムに興味があるんです。実験データとメソッドはどうなっているんですか?あなたは一体どこで勉強してきたんですか?」
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ILEにとって重要なことは面白さです。必要に応じて、自分で独自の方法論を作り出してしまいます。
ILEは、これまで受けてきた教育や専門とは無関係に、成功を収めることがよくあります。
研究に対する反射神経とでも言うべきものが非常に発達している傾向があります。一般的に、第2機能はリスクを取ることを厭わない領域ですが、ILEの場合ここにNeという知性に関わる情報要素が配置されています。
ILEは、新しい技術やアプローチを生み出し、未解決の問題を解決し、他の分野からアイデアやコンセプトを引き出すことに夢中になりやすいタイプです。
またILEはこのTiという創造機能を用いて、外的な人間関係の説明を提供することがあります。第2機能は創造性の機能ですが、一般的にあらゆる創造性は、第3機能(ILEの場合Fe)の素材を使用して、第2機能(ILEの場合Ti)が実現します(これはILEに限らず全てのタイプについて言えることです)。
自分の世界観を変えることは確かに誰にでも可能ですが、「自分の世界観を変える」ための心理的コストは、たとえばLIIやLSIやLSEのように、まったく創造の場を持たない人よりも、ILEのほうがずっと低いコストで済むだろうと考えられます [7]。
ここではIELは保守的ではありません。
ILEは「説明されていないこと」「達成されていない課題」「解決されていない問題」「言語化されていない問題」を必要としています。
なぜILEの多くが科学者になるのでしょうか。これは、ILEの情報代謝の構造が最も機能的な形で働けるのが、科学の分野だからです。科学という点では、ILEは少し偏執的に見えるほどです。極端な場合、自分のアイデアのために人生を捧げ、家庭も健康も顧みない科学者がこのタイプです。
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ところで、少し先の話になってしまいますがILEの第3機能(Fe)も見てみましょう。この3つ目の機能の領域には「プラス」があります。ILEにとって、世間に認められることがエネルギーの源です。
「自分の利益と社会の利益が一致するとき、世間の注目は私に集まります。社会は私を求め、私は自分が必要とされていることを実感できます」
個人の利益と社会の利益が一致することが多いタイプには2タイプあります。それがILEとSLEです。
機能 #-2 – 客観的論理 (Te)
規範と基準、法と秩序の領域。
「私は法について深く考えてはいませんが、ここに住んでいる以上、それに従うのが当たり前だと感じています」
外界の論理、法律、議論の余地のない状況、要するに解釈を必要としないものはすべて、この領域の範疇に入ります。交通ルール、刑法、その他の社会通念は、ILEにとっては当たり前のルールです [8]。
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この領域は創造性に欠けています。例えば妻が「そろそろ家を改修工事しよう」と言ったとします。ILEは、それが絶対に必要なことだとは思わないかもしれませんが、とにかくそれに従います。
「もう1年先のほうがいいんじゃないか。なんで今やらないといけないんだ。イライラしてきた。工事なんてやる羽目になったら、自分の置かれた状況の整合性を台無しにしてしまう [9]。工事よりもっと重要なこと、例えば外的状況に関する説明付けに挑戦するつもりだったのに [10]」
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ILEにとって会社勤めは難しいことです。なぜなら外部から決められたスケジュールをこなす必要があるからです。特に「なぜそれに従う必要があるのか、よくわからない社会的な要求」にはいつも苦労しています。
しかし、自由にやる許可を得るためには、義務を果たす必要があることは理解しています。だからこそ、全くやる気が出ない論文執筆にも時間を費やします。
ILEは社会的競争に最も適していないタイプの1つです。
機能 #3 – 客観的倫理 (Fe)
ILEの自尊心は、人間関係と他人の態度 [11] に依存しています。オーシュラ(ILE)が、タイプ間の関係を分析する精密なツールとしてソシオニクスを開発したのは、まさにこのためだろうと思われます。
「なぜ彼らは私にあのような視線を向けたのだろうか。一体、私について何を言われたのだろうか。私は誰かの感情を害したのだろうか。どうしたらスマートに『ノー』と言えるのだろうか」
こうした疑問が、常にILEを悩ませています。これこそが、ILEがダメなリーダーである所以です。
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権力のある立場にたった場合、ILEの第3機能は絶えず負担を強いられることになります。リーダーという仕事の心理的コストは、しばしばILEにとって、あまりにも高すぎるものです。原則的に、ILEはリーダーになりたがらず、その役目を重荷だと考えます(この点でILEと全く異なるのがSEEです。SEEにとってリーダーという役割を果たせる場は、理想を実現できる場です)。
ILEの自尊心の原則は、「愛され、評価されているのなら、私は良い人間だ」です。
ポジティブなフィードバックは、ILEのエネルギーを大幅に増大させます(幸福感も得られるかもしれません)。
しかし何かのせいで人間関係が悪化すると、気力は低下し、エネルギーは蒸発し、全てがひどく見え始め、人生の喜びが消えます。
このマイナス思考が続くと、自尊心が失われて、病気(神経症)になってしまいます。この神経症の根底には、潜在的な自己正当化というメカニズムがあります。
「自分は本当はいい人間だ。今は病気なだけなんだ」という自己正当化のメカニズムです。
自分の自尊心に影響を与えている集団からの否定的なフィードバックを避けるための手段です。
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ILEは第3機能を守るために、理屈をこねたり(「あなたは私を誤解している」)、壊れた関係を修復しようとする傾向があります。
ILEは相手を変えようとはしません。このタイプの人々は、社会集団の背景に溶け込む傾向があり、自分の意志を他人に押し付けることは好みません。
しかし、時に彼らは「マイナス」の防衛術 [12] に頼ります。
「私はあなたの想像よりもずっと酷い人間です。誰も私に近づいたり、話しかけたりなんてできません。そんなダメな私をそのまま受け入れてください」
いずれにせよ、この防衛策によって状況は単純化されます。
機能 #-3 – 主観的倫理 (Fi)
問題解決の機能。ILEには、他人の「とりこ」になってしまう傾向があります。このタイプの人々は、他人を理想化して、自分にはない長所や能力を賛美します。
しかし、この第-3機能を守ることが出来ず、人間関係の領域で問題が発生した場合、急に相手に対する態度が消極的になってしまいます。
人との距離が近ければ近いほど、この領域でおきる変化は、より強い痛みをもたらします。ILE以外のタイプの人だったら、とっくに縁を切っているような状況でも、人を許してしまうことがよくあります。
特に親しい友人の場合はこうなりやすいです。
機能 #4 – 主観的感覚 (Si)
主観的感覚(Si)は自分の感覚に関わる情報要素です。第4機能にこのSiが配置されているILEにとっての「良い場所」とは「心地の良い気分になれる場所」です [13]。
主観的な感覚の暗示は、ILEの身体的な機能に関する心気症 [14] を介して生じます。
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健康について誰かから何かを言われると、そのことについてグルグル考え始めてしまい、その度に「なぜか今まで見落としていた身体の不調」を発見します。
健康の問題では他人の意見を信用するので、正しくアプローチすれば、最も治療しやすい人だと言えます。
4つ目の機能は、「他人が知っていること」です。そしてILEは、健康という分野では他人の知識を頼りにしています。
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このタイプの人々は想像力が奔放で、実際にはかかっていない病気にかかっていると想像することが多いですが、だからこそ、そこにこの病気を治療する鍵があります。
この鍵はシャーマン、超能力者、催眠術師などによって広く使用されているものです。鍵の効果は、クライアントの信念の体系に正しい情報をダウンロードできるかどうかにかかっています。
機能 #-4 – 客観的感覚 (Se)
ILEの恐れの領域は、活動、行為、完璧という概念を網羅しています。
このタイプの人々は、一つの仕事をやり遂げることに苦手意識があります。彼らのプロジェクトの多くは未完成のままです。
時間に追われている時だけ、ILEは結果を出すことができます。こうした自分の特徴を知っているILEは、先延ばしを避けるために、自分のプロジェクトにデッドラインを設定したがるかもしれません。
通常、ILEが仕事を終わらせるためには、外部からの大きな圧力が必要です。
完璧にすることに限界はありません。例えば、ある工場の設計事務所でエンジンを設計する仕事があったとします。
ILEが一方のグループのリーダーで、LIEがもう一方のグループのリーダーです。ILEのグループは素晴らしいエンジンの排気装置を製作し、多くの革新的な技術を導入し、絶えず新しい改良を加えていくことでしょう。
やがて彼らのエンジンは、顧客の要望を上回る機能を持つようになります。それでも彼らは満足せずに、新しい機能を考案し続けます。
そうこうしているうちに納期が迫り、資金が底をつき、結局はすべてが未完成のまま終わってしまいます。
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このタイプの人々を管理するマネージャーは、締め切りに注意する必要があります。ILEは本当に必要なことを後回しにしながら目の前の課題に夢中になってしまいます。そのせいで、いつまでたってもプロジェクトが完了せず、ただの面白いアイデア、友好的な関係、創造性以上のものを生み出すことができません。
では、もう一方のグループ、「LIEがチームリーダーを勤めるグループ」ではどうなるのかを見てみましょう。LIEはエンジニアに次のような内容を伝えます。
「このプロジェクトには一か月の猶予があるから、君たちはその一か月の間だけ、改善案があれば出してくれ。一か月後からは設計図を書き始めよう。『ベスト』は『グッド』の敵だ。もう十分に良い仕事をしているのだから、これ以上改良に時間をかけてはいられない。そんなことをしていたら、期限内に完成できなくなる」
LIEのグループが完成させる機械の性能は、ILEが提案した機械(ただし未完成)よりも性能面では劣っていることでしょう。それでもLIEの試作機はちゃんと現物として存在します。一方、ILEの試作機はまだ図面しかありません。
ILEは、本や論文を何度も書き直すかもしれませんし、家の改修に何年もかけるかもしれません。
時々ILEは優柔不断に見えます。ほんのちょっとしたことにも苦労します。例えば店でどの靴を買うか、延々と悩み続けたりします [15]。
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しかし、いざという時、ILEはプレッシャーを跳ねのけて、先頭に立って冷静に決断を下すことができます。この力は、「彼らにとっての時間の流れを遅くする」第1機能(Ne)の働きと、第3機能を介した強力なエネルギーの補充に関連しているのだろうと考えられます。
有名人
- チャールズ・ダーウィン
- エイブラハム・リンカーン
- アルベルト・アインシュタイン
- ジークムント・フロイト
- マハトマ・ガンジー
- オーシュラ・オーガスタ(ソシオニクスの開発者)
- グリゴリー・レーニン(本出典の著者)
訳注
- ^ ここでいうILEにとっての外的状況の完全性をより具体的に説明すると、「自然との調和」とか「一にして全」とか「タオ・テ・チン」とかそういう哲学的で遠大な話ではなく、「自分が想定している通りに、外部の物事が噛み合って進行している状態」を指している。
- ^ LSEは「全てが滞りなく進められるよう、タスクを一列に並べかえて整理」するタイプである。関連記事「ソシオニクス LSE(ESTj)by Grigory Reinin」
- ^ ILEは二分法「プロセス」タイプである。二分法がプロセスであるタイプは、プロセスの進行状況を監視する力に優れているという特徴があるとされる。
- ^ Grigory Reininの定義ではNeの説明で時間感覚の話が登場するが、これは一般的にはNeではなくNiのほうに関係すると定義されることが多い。関連記事「情報要素」「情報要素(by A. Augusta)」A. Augustaとは、ソシオニクスの最初の開発者の名前である。
- ^ ゴミ出しして遅刻した後に上司から叱られた場合の話。
- ^ ソシオニクスのタイプは情報代謝のタイプだとされる。情報代謝とは、自分の外部から情報を取り込み、それを解読したり、変化させたりして、自分の内部に取り込んだり、自分の外部に再び出力する活動を意味する用語である。
^ Grigory Reininの定義では「世界観」はTiに関係する情報要素である。
LII、LSIは非常に保守的な第1機能にTiが存在するため、一度「正しい」として認識してしまった世界観を変えることに極めて難がある。
LSEは第-1機能という無視される領域にTiが配置されており、LIIやLSIほど盲目的に何かを信じ込んだりはしないが、その逆に客観的なデータや権威のある書籍(Grigory Reininの定義ではTeに関係する)による裏付けがない仮説や概念は、何でもかんでも疑い倒してしまう性質がある。
- ^ 「当たり前のルールです」と言われてもいまいちイメージがつかない場合は、これが「当たり前ではない」LSIやLIIのTeの説明を見れば、ILEのTeの解像度があがるかもしれない(LSIのほうが、特にイメージがつきやすいかもしれない)。
- ^ Neの項で説明されている「外的状況の完全性」の感覚。
- ^ ILEにとっては、TeよりもTiの活動のほうが優先度が高いことを意味している例。
- ^ ここでいう「態度」とは、より具体的には「人や物事のことが好きか、嫌いか、どう思っているのか(この場合は特にILEのことが好きか嫌いか)」という他人の気持ちを意味する。
- ^ 自分のイメージを、わざとマイナスなイメージにする。
^ 「心地の良い気分になれる場所が良い場所なのは当たり前では?」と感じてしまうかもしれないが、ここでは「最高の場所」「理想の場所」くらいの意味合いで読むとわかりやすいかもしれない。
他のタイプもそれぞれ第4機能に配置されている機能ごとに異なる「良い場所」がある。
例えば第4機能にNeが配置されているSLIの場合、「最初から最後まで何が起こるかがわかっている場所」が良い場所である。
ここにFeが配置されるLIIやLSIの場合は「自分を褒めて、評価して、敬意を払って、愛してくれる人がいる場所」である。
そしてILEと同じ問題を抱えているのは、ILEと同様にここにSiが配置されるIEEである。
- ^ 客観的には身体的異常が見受けられないのに、主観的には頭痛や眩暈といった身体的異常を感じて、それを気に病む症状。
- ^ ソシオニクスからは脱線するが、ユング派心理学者であるフォン・フランツが書いた「ユングのタイプ論―フォン・フランツによる劣等機能/ヒルマンによる感情機能」によると、(外向直観タイプではなく)内向直観タイプの説明に「何を買うか延々悩み続ける人」が登場する。ただしユング自身が書いたタイプ論にはそういった描写はない(間接的な意味でも「内向直観」と「優柔不断」という特性の間にとりたてて何かの関係性があるような描写は見られない)ので注意が必要である。